どうやら天使も悪魔も人間の食べ物が好きなようだ
本郷帝都大学の学生食堂。
テーブルにデビーとカヤは向き合って座っている。
(悪魔って、ラーメン食べたりするんだ)
とカヤは不思議な思いを抱きながらデビーを見ている。
ふーふーズズズ、とラーメンをすすっていたデビーがその視線を感じて顔をあげる。
「どうした、カヤカヤ」
「え、カヤカヤ?」
「悪魔がラーメンを食べるのが珍しいか」
「それは珍しいですよ」
デビーはテーブルに肘をついている。
こういったところにもお行儀の悪さを感じさせる。
「普段は食事はしないんだが、人間の姿のときはそうでもない」
「そういえば、ピリポさんも……」
「ああ、天使もそうだな」
どうやら天使も悪魔も人間の食べ物が好きなようだ。
「さっき、悪魔はもともと天使だとおっしゃいましたね」
「そうだ。悪魔は堕天使とも言われている」
「?」
「簡単に言えば、神に逆らったということだ」
「なぜ逆らったんですか?」
「反抗期みたいなもんだ。神は万物の創造主であり、もちろん天使も神が作った。言ってみれば、神は親だ。その親に対して反抗したんだ。とは言え、親はやはり親だ。悪魔たちは心の奥底では親のもとに戻りたいと思っている。おれたちはみんなファザコンなんだ」
「……だから今回の採用試験も受けようと思ったんですか?」
「まあ、おれにとってはチャンスだな」
と、そこにひとりの女性が近づいてきた。
試験開始前にデビーが「競争相手」と言った、あの姐御風な女性だった。
手にしたトレイにはご飯とお味噌汁、冷奴、漬物など地味どころのメニューが並んでいる。
「ここ、いいかしら?」
「もちろんです。どうぞ」
とカヤが微笑みながらうなずく。
しかしデビーは警戒するかのような目を向けている。
悪魔だけに簡単には気を許さないようだ。
「……あんた、名前は?」
と低い声で訊ねた。
「ミロク。よろしくね」
「!」
とさすがのデビーも目を丸くする。
「こりゃ、えらい大物が登場したな」
(え、ミロクって、まさか弥勒菩薩?)
とカヤも内心で驚く。
だが「弥勒菩薩」という名前は聞いたことがあるものの、それが実際にはどういう存在なのかについての知識はなかった。
(どうしよう。失礼にあたらないかな……)
そんなカヤの戸惑いをよそに、デビーは勝手にカヤのことも紹介していた。
「おれはデビー。こっちはカヤカヤ。ところでミロクさん、兜率天からはるばるお出ましかい?」
「そ。ぶっちゃけ、暇でさ。兜率天」
(……ぶっちゃけ?)
カヤがあまりに庶民的な言葉遣いに驚いていると、その反応を楽しんでいるかのようにミロクは笑っている。
「ねぇ、カヤカヤ。私のこと知ってる?」
「弥勒菩薩さんですよね。ごめんなさい。私、お名前だけしか……」
「いいのよ。中学生で弥勒菩薩のことを詳しく知っていたら、それはそれでヤバイでしょ」




