天使になろうという人がルールを守らないでどうするんですか?
ノーエルと名乗った天使が試験の説明を始める。
「みなさんはこの試験を受けるにあたって、天使の仕事について説明を受けたはずです。悪事をなしている人間に対して、自立・共感・反省のいずれかをうながし、心のバランスを取り戻すというものでした」
そう、あのリモコンを使って。
「問題用紙には十パターンの状況が想定されています。それぞれの状況に直面したとき、自立・共感・反省のうちどれをうながすことがもっともふさわしいか、それを選択してください」
なるほど、とカヤは思った。
これは予行演習のようなものだ。
想定された状況に対して、天使にふさわしい判断を数多く下した者が合格者となるのだろう。
ノーエルは話を続ける。
「これは一次選考です。選考を通った方は二次選考の面接に進んでいただきます。……何か質問は?」
「今日のこと、友達に言ってもいいですか?」
と誰かが本題とは言えない質問をした。
「SNSも含めて、ご遠慮下さい。それでもあえて今回のことを誰かに明かすという方は、神および全天使を敵にまわすことになります」
ゴクッと生唾を飲む音がした。
「先ほど私たちの写真を撮った方は削除することをお勧めします。さて、他に質問がなければ、試験を開始いたしますが?」
誰も何も言わなかった。
天使の一人がチンと鐘を鳴らした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
本郷帝都大学のキャンパスを学生たちが行き交う。
のどかな春の一日だ。
彼らは自分たちの大学の一画で天使のアルバイトの採用試験がおこなわれていることを知らない。
鳩がクルッポーと鳴いている。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
問題用紙に向かい合っている受験者たち。
「はい、そこまで」
とノーエルが言い、鐘がチンと鳴る。
受験者たちは「ふう」とため息をついて身を起こした。
なかにはまだ未練げに記入を続けている者もいる。
「そこのあなた、不合格」
「え?」
「天使になろうという人がルールを守らないでどうするんですか?」
「……すみませんでした」
「はい、謝罪は受け入れました。不合格と言ったのは取り消します」
ノーエルはあっさり前言を翻して、全員に告げる。
「一次選考を通った方の名前は、一時間後にここに張り出します。それまではご自由にお過ごしください」
そう言って天使たちは退室する。
(あの格好で大学内を移動するの?)
とカヤは思った。
「けっこう悩んだ〜」
「引っ掛けもあったよな」
「最後はもう勘だったよ」
といった声があちこちからする。
「よう。メシでも食いに行くか」
とデビーが言った。




