ヘイ! そこの悪魔くん、時間ある?
「お前、名前は?」
「空野カヤです」
「おれはデビー。よろしくな」
「こちらこそ」
「それでだ、提案があるんだが」
「……なんでしょうか」
デビーは身を乗り出してカヤの耳元に口を寄せた。
「このテスト棄権しないか? おれが天使になったら守ってやるから」
「………」
「天使の仕事は危険だぞ。なにしろ心のバランスを失った連中を相手にするんだからな」
「まあ、そうですね」
「それより、天使に守られながら普通の女の子として過ごした方が幸せだ。そう思わないか」
ささやき続けるデビーにカヤはハッと気づく。
(悪魔のささやき!)
サッと身を引いてにらみつける。
「あなた、悪魔でしょ!」
「げ。なぜ分かった!?」
「尻尾見えてる」
「あ、マジ?」
あたふたと尻尾を服の中にしまいこむデビーの、その慌てようにカヤは呆れてしまった。
「でも、どうして悪魔が天使のアルバイトに?」
「おれか。おれはピリポさんに声をかけられて」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ヘイ! そこの悪魔くん、時間ある?」
「なんすか?」
「君、天使のアルバイトしない?」
「え、いいんすか?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(なんでもありか……)
とやれやれ感とともに肩をすくめるカヤにデビーが言う。
「でも、いいタイミングだったよ。今、悪魔界はリストラ旋風が吹いていてな」
「リストラ? なぜですか?」
「簡単なことさ。おれたち悪魔がそそのかさなくても、人間は悪いことをするようになったからだ」
「ああ。だから天使不足に……?」
「世知辛い世の中になったもんだよ」
「でも、悪魔が天使になんて」
「何言ってんだ。もともと悪魔は天使だったんだぞ」
「え?」
と、そこで教室の扉が開き、三人の天使が入ってきた。
三人とも、背中から真っ白な羽根が生えている。
「はい、みなさん。こちらに注目してください」
と真ん中の天使が言った。
メガネをかけていて、エラが張っている。
いかにも生真面目そうなたたずまいだった。
天使の登場に教室内はざわめき、スマホのシャッター音がところどころで響く。
「どうか、静粛に。あと、写真は控えてください。従わない人は地獄に落とします。二度と戻れません」
教室内が静まり返った。
「私は試験監督のノーエルと申します。これから、採用試験についての説明をいたします。しっかりと聞いてください」
ノーエル以外の天使がそれぞれ試験用紙を配っていく。
最前列にいたカヤは真っ先にそれを受け取った。
その試験用紙は見たところ、三択問題から構成されているようだった。




