あまりお行儀のいい人ではないようだ
教室内には五十名近い受験者たちがいた。
中学校の教室と同じくらいの広さだったが、人数が多いので熱気がこもっていた。
ただそれは、どこか湿度が高く、蒸れたような感じの熱気だ。
「難関試験に突破するぞ!」
という意欲的な熱気ではなかった。
その理由をカヤはすぐに悟る。
受験者たちに生気がないのだった。
いや、覇気と言った方がいいだろうか。
失業歴の長そうな中年男性。
身だしなみを気にしていないような中年女性。
首を折り曲げてスマホをひたすら凝視している二十代の男性。
同じく女性。
貧乏ゆすりをしている初老の男性。
したり顔で壁にもたれて教室全体を見回している十代の男子。
ふくれっ面で天井をにらんでいる十代の女子。
鬱屈を発生源とする熱気が教室にはこもっていた。
(ピリポさん、どんな基準で選んだのかな?)
と内心でつぶやき、もしかすると自分もこの人たちと同じように見られたのかも……と思った。
(ま、きっとそうなんだろうな)
いろいろと鬱屈しているのかも知れない。
自覚はないにせよ。
後ろの方の席はすべて埋まっていたので、カヤは一番前の列の席につく。
隣の席の男が顔を向ける。
カヤより少し年上、高校生くらいだろうか。
少し拗ねたような目をしていて、口元には冷笑が浮かんでいる。
日本人とどこかラテン系の国の人とのハーフかと思えるような面立ちだった。
「よう」
と、隣席の彼が声をかけてくる。
「こんにちは」
と、カヤは礼儀正しく応える。
「こいつらさ、無理矢理かき集めたんだろうな」
「……そうなんですか?」
「どう考えても、そうだろ」
そう言って、教室全体を見渡す。
「見たところ、競争相手になりそうなのは、あいつと」
と視線で示した先には、どこか「姉御」的雰囲気を持つ女性が座っていた。明らかに年上で、たぶん二十代前半。
カヤの視線に気づき、ニコリと笑いかけてくる。
カヤも目礼を返した。
「もう一人、あいつだ」
と隣席の彼はさらに別の人物を視線で示す。
そこにはがっしりとした身体つきの青年が座っている。
真面目な顔つきで本を読んでいた。
こちらは十代後半。大学生だろうか。
隣席の彼はカヤを見て言う。
「最後に、お前だな」
(お前? 初対面で?)
カヤは内心で肩をすくめる。
あまりお行儀のいい人ではないようだ。
そんなカヤの様子に気づくことなく、隣席の彼はぶつぶつつぶやいている。
「四人も枠があんのかな。いや、きっとないよな。いやいや天使不足だからな……その可能性もなきにしもあらず」
(この人はどういう人なんだろう?)
と思ってさりげなく様子をうかがったカヤは目を丸くした。
彼には黒々とした尻尾が生えていたのだ。




