↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/24

第8話「元勇者、ニュースになる」

 地上へ近づくほど、人の声が大きくなった。


「魔獣より多くないですか?」


「お前を待ってんだよ」


 デスDが疲れた声で答える。


 ダンジョンを出ると、柵の向こうが人で埋まっていた。大きなカメラを構えた人。電話を掲げる人。同じ服を着て慌ただしく行き来する関係者。武器を持った探索者まで、こちらを見ている。


 照明が一斉に僕へ向いた。


「出てきました!」


「コアを破壊したのはあなたですか?」


「Aクラスのボスを一撃で倒したというのは本当ですか?」


「そのバールは何なんですか?」


「黄金龍との関係は?」


「異世界とは、どういう意味ですか?」


「コアを破壊した能力が、あなたのスキルですか?」


 質問が重なって、どれから答えればいいのか分からない。


「順番にお願いします。コアを壊したのは僕です。ボスは、あれがボスだとは知らなくて――」


「異世界から来たんですか?」


「来たというより、帰って――」


「そこまでだ」


 デスDが僕の前へ割り込んだ。


「本人に直接群がるな。質問は俺を通せ。今後こいつに話を通したきゃ、まずDDPへ来い」


「独占契約ということですか?」


「今決めた。少なくとも、ここで好き勝手しゃべらせる気はねえ」


 デスDは振り返り、僕を指さした。


「こいつは今、何を聞かれても全部答えるぞ。危ねえんだよ」


「答えない方がいいんですか?」


「その質問から俺にしろ」


「では、スキル名だけでも!」


「すみません。スキルというのが何か、まだ――」


「悠、もう口を閉じろ。分からないことまで正直に答えるな」


 嘘をつくよりいいと思ったけれど、デスDには別の考えがあるらしい。


 ティアが僕の袖を引いた。


「有象無象に付き合う必要はないぞ、悠。焼けば散る」


「焼いちゃ駄目だよ」


「今のも絶対記事にするな!」


 デスDが報道陣へ怒鳴ったけれど、カメラは回り続けていた。


 アイはその横で配信用の笑顔を作り、怪我人はいないことだけを手短に説明している。僕より、ずっとこういう場に慣れていた。


 それからしばらく、僕はデスDに背中を押されながら質問の群れを抜けた。


 ◇


 DDPへ戻っても、電話は鳴りやまなかった。


 壁のモニターでは、さっきのダンジョン事件がニュースになっていた。現場映像の下に、テロップが流れる。


『現場では、バール様のものが使用されたとみられ――』


「バール様のもの?」


『吾輩のものではない。吾輩である』


「“さま”じゃねえ。“よう”だ!」


 デスDがすぐに突っ込んだ。


「警察とか報道で使う言い方だ。“バールのようなもの”って意味だよ」


「でも、バール様ですよね」


「ややこしいんだよ、お前らは!」


「取材、出演、検証依頼、探索者連中からの問い合わせ。ニュースになった途端、桁が変わった」


 デスDは震え続ける電話を伏せ、机の上へ置いた。


「お前の名前も顔も、今朝までとは扱いが違う。勝手な取材も、勝手な仕事の話も受けるな。金と条件と、出していい情報は俺が見る」


「僕に仕事を頼みたい人も、デスDに連絡するんですね」


「そうだ。お前は話を聞いたら、困ってるなら助けますって全部引き受けそうだからな」


「困っているなら、できる範囲で助けた方がいいと思います」


「だから窓口が要るんだよ」


「次から番組は悠を主軸にする」


 アイが一瞬だけ黙った。


「……当然でしょ。みんな、バールさんを待ってるんだから」


「今の数字は悠が持ってる。この流れを逃す理由はねえ。お前の《偶像》も補助としては使えるが、企画も画も、まず悠を中心に組む」


「分かってるって。悠が伸びるなら番組にもプラスだし、私だってその方が助かる」


 アイは笑って僕を見る。


「ニュースになるなんて、すごいじゃん。応援してるから」


「ありがとう。でも、《偶像》って何?」


 三人が僕を見た。


「お前、スキルも知らねえのか?」


「スキル?」


「本当に八年前で知識が止まってるんだ」


 アイが驚いたあと、近くの椅子へ座った。


「ダンジョンが現れてから、一部の人に固有の能力が発現するようになったの。それを一般にスキルって呼ぶ。探索者にも配信者にも持ってる人はいるけど、能力は人それぞれ。戦闘向きとは限らないし、強さも用途も違う」


「魔法とは違うの?」


「そのあたりは、わたしに聞かれても分からない。少なくとも、こっちではスキルって呼ばれてる」


「本人にしかできないことが、ある日できるようになる。戦うのに使う人もいれば、日常や仕事で使う人もいる。持ってるだけで探索者になれるわけでもないよ」


「能力を覚えるというより、能力が発現するんだね」


「うん。だから、悠が魔獣を一撃で倒したのも、みんな最初は強いスキルだと思ったんじゃないかな」


「お前のその力も、最初はスキルだと思った」


 デスDがエクスカリバールを見る。


「でも、本人が言葉すら知らねえなら別口か」


「バール様は異世界から持ってきました」


『持ってきたとは何である! 我輩が悠に力を貸しているのである!』


「今は静かにしててください」


「またしゃべってんのか、その棒」


「棒ではないそうです」


 アイが小さく笑った。でも、その笑顔はすぐ消えた。


「アイにもあるんだよね」


「うん。《偶像〈アイドル〉》」


「どんなスキル?」


「人の視線を集めやすくするの。注目をわたしへ向けやすくする、みたいな感じ。カメラや配信とは相性がいいけど、戦闘にはほとんど役に立たないし、強いスキルとは思われてない」


「配信者に合ってるね」


「そうだね。見てもらいやすくなるだけ」


「だけ、ではないと思う。人に見てもらうのは、簡単じゃないから」


 僕は配信を始めるまで、自分の姿を大勢へ見せることさえ考えたことがなかった。何を話し、どこへ視線を向けるかを考え続けるアイの仕事は、魔獣を殴るより複雑に見える。


「ありがとう。でも今は、悠が普通に立ってる方が見てもらえるみたい」


 アイは冗談のように言った。


 けれど、部屋中の電話も、画面のニュースも、全部僕のことを追っている。


 見てもらうための能力を持つアイより、スキルという言葉すら知らなかった僕の方が見られていた。


「アイも一緒に映るんだよね?」


「もちろん。悠一人じゃ進行できねえからな。ただ、看板はバールさんだ」


「デスD、それは――」


「いいの」


 アイは僕の言葉を遮った。


「本当に、その方がいいと思ってるから」


 いつもの笑顔だった。だから僕は、それ以上何も言えなかった。


 ◇


 その夜、アイは一人でニュースを見ていた。


 Aクラスのボスを一撃で倒す悠。コアを砕く悠。黄金龍と並ぶ悠。画面が切り替わっても、そこに映るのは悠ばかりだった。


 八年ぶりに帰ってきた幼馴染。


 やっと会えたと思ったのに、数日で手の届かない場所まで行ってしまったように見える。


 アイは自分に発現したスキルの名前を思い浮かべた。


 《偶像〈アイドル〉》。人に見てもらいやすくなる能力。


 画面の中では、次回の「バールさん中心配信」が告知されていた。


「……私の番組だったんだけどな」


 誰もいない部屋では、笑顔を作る必要はなかった。


 ――アイドルは涙を見せないもの。


 その誓いを守る必要も、なかった。

この回で難しかったのは、成功の裏側にいるアイをきちんと描くことでした。


デスDは押し寄せる取材をさばき、DDPを悠中心の番組へ切り替えます。仕事としては正しい判断です。でも、もともとはアイの番組でした。人前では笑えるアイが、誰もいない部屋では「アイドルは涙を見せない」という誓いを守らなくていい。その寂しさを、説明しすぎず残しました。


次回、第9話「バールさん、幼馴染をバズらせる」。


主役から外されたアイが、配信に必要なものは何なのかを、もう一度自分で証明します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。