第7話「バールさん、ダンジョンコアも一撃で破壊する」
「お前ら三人とも、話を聞け!」
デスDの声がヒールポイントに響いた。
「聞いてます。最奥はAクラスなんですよね」
「聞いた上で行こうとしてんのが問題なんだよ!」
「危険なら、デスDとアイはここで待っていてください。僕とティアで見てきます」
「断る。お前らだけ行かせたら、何を壊すか分かったもんじゃねえ」
「信用がないですね」
「さっき世界の境界を壊したって聞いたばかりだからな!」
デスDは頭を抱えたあと、僕のカメラを指さした。
「行くなら俺も行く。異常を感じたら即撤退だ。配信も戻すが、境界だの五年だのはしゃべるな。映すのは攻略だけだ」
「私も行く。これは私の配信なんだから」
アイも引かなかった。
「二人には指一本触れさせぬ。わしが保証するのじゃ」
ティアは僕の袖をつかんだまま胸を張る。
「その保証が一番信用できねえんだよ、天井を壊して入ってきた奴」
配信を再開すると、待っていたコメントが一斉に流れた。
『帰ってきた』
『説明は?』
『どこ行くの?』
『Aクラス方面じゃね?』
『引き返せって』
通路を下るにつれて、壁から漏れる光が暗くなった。空気が重くなり、離れた場所から魔獣の唸り声が重なって聞こえる。
「ここから先は、本来なら専用の準備をした連中が入る場所だ。さっきまでと同じだと思うなよ」
デスDが小型カメラを構えながら言った。
直後、天井から黒い影が落ちた。
六本の脚を広げた魔獣が通路を塞ぐ。節のある脚の先は刃のように尖り、石床へ深く刺さった。
アイが息をのみ、デスDが下がれと叫ぶ。
僕は首から下げたカメラを片手で支え、エクスカリバールを抜いた。
振り下ろされた脚をかわし、胴体を横から一度殴る。
魔獣は壁へぶつかる前に発光した。身体が淡い粒へほどけ、床へ結晶が落ちる。
「終わりました」
『もう驚かなくなってきた』
『いやAクラス領域だぞ』
『バールさんだけ難易度設定違う』
その先では、床を踏んだ途端、左右の壁から無数の石槍が飛び出した。
「面倒じゃな」
ティアが僕の袖を放し、床を一度踏みつける。
石床に亀裂が走り、槍を押し出していた壁の仕掛けがまとめて砕けた。
「罠は解除したぞ」
「壊しただけじゃねえか!」
「結果は同じじゃ」
「ティアもそう言うんだよね」
「悠まで納得すんな!」
深部へ来てから、デスDの声が一番よく響いていた。
やがて通路が途切れ、巨大な黒い扉に行き当たった。天井まで届く二枚扉には複雑な模様が刻まれているが、取っ手はない。
「待て。たぶん、ここがボス部屋だ」
デスDが扉の前で僕を止める。
「何か開放条件があるんじゃない?」
「封印の類いかのう」
アイとティアが模様を調べる。僕は扉を押してみた。
「開かないですね」
中央に細い隙間がある。
エクスカリバールの平たい先端を差し込んだ。
がこっ、と音がした。
「おい」
「隙間があったので」
柄へ力をかける。
石が軋み、扉を囲む枠ごと手前へ浮いた。
「おい!!」
「開きそうです」
『もっと力を込めるのである!』
もう一度押すと、巨大な扉は枠の一部を引きちぎって内側へ倒れた。
『開けるって物理かよ』
『また壊した』
『バールの正しい使い方ではある』
『封印とは』
「開きました」
「開けたんじゃなくて壊したんだよ!」
扉の先は円形の大広間だった。
中央にうずくまっていた巨体が立ち上がる。岩の鎧をまとったような二本脚の魔獣。頭は天井近くにあり、四本の腕がそれぞれ太い武器を握っていた。
咆哮だけで床が震える。
「下がれ! こいつが最奥の――」
魔獣が四本の武器を振り上げた。
振り下ろされるより先に懐へ入り、鎧の中央をエクスカリバールで殴る。
鈍い音が一度だけ響いた。
魔獣の全身へ光が走る。岩の鎧も武器も一緒に粒子へ変わり、あとには今までより大きな結晶が残った。
『ボス一撃w』
『今何が起きた』
『Aクラスだぞ!?』
『バールさん強すぎるだろ』
「今のがボスだったんですか?」
「そうだよ!!」
デスDの返事が、がらんとした広間へ反響した。
「異世界の迷宮なら、もう少し奥にいると思ってました」
「比較対象がおかしいんだよ!」
ティアは結晶を一瞥しただけだった。
「この程度で最奥とは、拍子抜けじゃの」
けれど、部屋の奥にはまだ細い通路が続いていた。
その先の小部屋で、透明な巨大結晶が宙に浮いている。人の背丈ほどもあり、台座の上で心臓のように明滅していた。
「あれは何ですか?」
「ダンジョンコアだ」
デスDが即答し、僕と結晶の間へ入った。
「触るな。絶対触るなよ。特にそのバールを抜くな」
「壊すとどうなるんですか?」
「分かってねえから止めてんだ!」
『壊せ』
エクスカリバールの声が低く響いた。
僕はコアを見る。
「今、なんで黙った?」
「バール様が壊せと」
「却下だ!」
「悠、それは壊しちゃ駄目なものだと思う」
アイもデスDの隣へ並んだ。
そのとき、ボスが残した大きな結晶が床を転がった。
ひとりでに台座へ吸い寄せられ、巨大結晶の中へ溶ける。コアの明滅が急に速くなった。
倒したはずのボスと同じ影が、周囲の壁にいくつも浮かび上がる。
「増えるのか?」
デスDが二人を背へかばい、退路を見る。けれど壊した扉の残骸が持ち上がり、出口を塞ぎ始めていた。
「あれが魔獣を作っているなら、止めます」
「待て、まだそうと決まったわけじゃ――」
「ほかに止め方は分かりますか?」
「分からねえ!」
「では、一番早い方法で」
デスDたちの横を抜け、エクスカリバールを振りかぶる。
「悠、ちょっと待って!」
巨大結晶の中央へ、普通に打ち込んだ。
甲高い音が一度した。
コアの中心から亀裂が広がり、白い光が小部屋を埋め尽くす。壁に浮かんでいた魔獣の影が消え、持ち上がった扉の残骸が床へ落ちた。
次の瞬間、ダンジョン全体が大きく揺れた。
「お前は何で毎回『壊すな』って言ったものを壊すんだ!」
「今回は出口が塞がりそうだったので」
「理由を聞いても納得できねえ!」
『壊したwww』
『あっ』
『ダンジョン終わった?』
『バールさん、ついにダンジョンそのもの壊した』
揺れが収まると、壁から漏れていた光は消えていた。遠くで重なっていた魔獣の声も聞こえない。さっきまで生き物の体内のようだった迷宮が、ただの暗い岩穴へ変わっていく。
「アイ、怪我は! 悠、退路を見ろ! ティアは周囲を警戒! カメラは――生きてるな。地上へ連絡する!」
デスDは怒鳴りながら全員の状態を確かめ、電話を取り出した。
連絡するより先に、その画面へ通知が一つ現れた。続けて二つ、三つと増えていく。
《ニュース速報 Aクラスダンジョンで大規模異変》
《内部配信でダンジョンコア破壊か》
《渦中の「バールさん」とは》
配信画面では、コメントがもう文字の形に見えないほど流れていた。
「ニュースになってますね」
「配信どころじゃなくなったんだよ!」
今回の調整点は、一撃必殺の爽快感を保ったまま、その行為の影響だけを一段ずつ大きくすることでした。
A級領域の魔獣を倒し、最深部へ行き、ダンジョンコアまで破壊する。悠には危険を取り除いただけでも、外から見れば歴史的な大事件です。配信コメントだけで終わらせず、最後はニュース速報にまで発展させました。ただし、なぜ壊せたのか、壊したことで何が起きるのかは、まだ答えを出していません。
次回、第8話「元勇者、ニュースになる」。
ダンジョンから出た悠を待っていたのは、魔獣より対処の難しい報道陣でした。




