第34話「元勇者、国家公認勇者になる」
ティアと自衛隊が攻撃を続け、怪獣の進行は一時的に遅くなった。
その間にも、テレビとネットでは同じ言葉が増えていた。
『元勇者なんだろ』
『日本にも勇者が必要だ』
『バールさんに任せろ』
僕たちはヘリの通信で、政府の回答を待っていた。
「怪獣を壊すのに、許可が必要なんですか?」
「必要です」
椿さんは複数の端末を操作しながら答えた。
「現在、あれは迷宮内の魔物ではなく、一般地域を移動中の正体不明生物です。周辺には避難中の住民、自衛隊、警察、迷宮省職員がいます」
「壊すこと自体が駄目なんじゃなくて、安全に壊すための許可なんですね」
「そのとおりです」
椿さんの端末へ、次々に連絡が入る。
「ですが、民間人の二梃木さんへ国家規模の災害対応を任せる制度はありません」
「そうですよね」
「ですので、作ります」
「今から?」
「今作らず、いつ作るんですか」
デスDがカメラを向ける。
「前例はねえぞ」
「前例は作るものです。撮るなら、決定後にしてください」
椿さんは政府、迷宮省、自衛隊との回線を切り替え続けた。既存の災害対応と迷宮対策を組み合わせ、責任者と権限の範囲を一つずつ確定していく。
やがて端末へ、承認の表示が出た。
「二梃木さん」
椿さんが僕を見る。
「政府は緊急措置として、あなたを国家公認勇者に認定します。認定は事件後も継続しますが、特別行動権限は迷宮・怪異災害などの緊急時に限ります」
「国家公認勇者……」
「これは命令ではありません。お願いです」
椿さんはまっすぐ僕を見た。
「この国の勇者になっていただけますか」
異世界では、気づいたときには勇者と呼ばれていた。
帰るために戦い、帰ったあとも、必要なものを壊してきた。
今度は、自分で決められる。
「分かりました」
「引き受けます」
春日部には、もう昔の家はない。
それでも、萌も、アイも、デスDもいる。ティアもこの世界で暮らしている。
「僕の家族が住んでる世界なので」
椿さんが承認を確定する。
政府の公式発表が配信とニュースへ流れた。
『国家公認勇者・二梃木悠』
『本当に勇者になった』
『元が取れるのか』
『勇者がバール持ってる』
『今さらそこ?』
出撃前、アイが僕の前へ来た。
この前、本気で戦う僕が少し怖かったと、アイは言った。
今は目をそらさず、いつものように笑っている。
「行ってらっしゃい、勇者」
「行ってきます」
僕は怪獣の方を見た。
「じゃあ、どうやってバール様を大きくするか考えよう」
異世界では、気づいたときには勇者にされていた悠。今回は「この世界の勇者になる」と、自分の意思で決めました。
この回で一番難しかったのは、制度の話を長々と説明せず、それでも椿を「前例がないから止める人」にしないことです。前例がないなら作る。危険だから力を封じるのではなく、安全に使える範囲を整えてから「お願いします」と託す。椿の信条と、悠の選択が同じ場面で成立するよう組みました。
次回、第35話「バールさん、デカ過ぎだろ……」。
国家公認勇者になっても、残る問題は一つ。どうやってバール様を怪獣より大きくするのでしょうか。




