第33話「バール様、いつものサイズじゃ届かない」
江戸川沿いの道路は封鎖され、住民の避難が続いていた。
その向こうを、巨大な怪獣が北へ進んでいる。
水面から出た脚だけでも建物より大きい。一歩進むたびに川があふれ、地面が揺れた。
僕とティアは先に外へ出た。アイ、萌、デスD、椿さんは政府が用意したヘリから現場を追う。
デスDが配信を開始すると、コメントが一斉に流れた。
『バールさん来た!』
『勝った』
『勇者きた』
『ティア様もいる!』
『春日部を頼む』
「まだ勝ってないよ」
『勝ってから来る男』
『もう安心した』
「油断するな、悠。あれは見た目以上に魔力を蓄えておる」
「うん。まず、一度壊してみる」
ティアが黄金龍の姿へ戻った。
大きく広げた翼で上昇し、怪獣の顔へ正面からブレスを放つ。怪獣が初めて足を止め、ティアへ頭を向けた。
「今じゃ!」
僕はティアの背中から飛び、怪獣の前脚へ着地した。
腰からエクスカリバールを抜く。
「お願いします、バール様」
『任せるのである!』
一度、殴った。
巨大な前脚の一部が、音を立てて吹き飛ぶ。
『いった!』
『普通に壊れた』
『百メートル級にも通るのかよ』
怪獣の身体が傾いた。僕は地面へ飛び降り、次の一撃に備える。
けれど、怪獣は残った脚で身体を支え、そのまま前へ進んだ。
「止まらない」
破壊した箇所へ、周囲から魔力が集まっていく。黒い肉体が盛り上がり、欠けた脚を少しずつ埋め始めた。
『再生してる』
『バールさんでも無理なのか』
『嘘だろ』
『世界穴へ近づくほど、周辺魔力の低下が加速しています』
椿さんの声が通信へ入る。公開配信には、穴ではなく高濃度魔力地点と言い換えていた。
「壊せないわけじゃないです」
殴った場所は、確かに消えた。
ただ、相手が大きすぎる。一度に壊せる範囲より、残っている部分の方がずっと多い。
黄金龍のティアが怪獣の横へ回り込み、翼とブレスで進路をずらす。怪獣は河岸へ爪を立てながらも、春日部へ向き直ろうとした。
「ええい、重いのじゃ! 悠、早く考えよ!」
「分かってる」
もう一度脚を壊しても、その間に別の脚で進む。細かく全部を殴っていては、穴へ着く方が早い。
「……大きすぎる」
『うむ』
「バール様が?」
『怪獣がである!』
『バール様も普通サイズだった』
『比較対象がおかしい』
怪獣全体を見る。
「全部に届けば壊せるんだけどな」
『全部に?』
デスDが聞き返した。
「バール様を、もっと大きくするとか」
通信が静かになった。
ヘリの中にいる全員が、僕を見ている気がする。
『解決策が小学生なんだよ!』
ただし、怪獣を押し返していたティアだけは真顔だった。
「……いや。できるかもしれぬぞ」
今回は「バール様でも壊せない」ではなく、「壊せるけれど一撃の範囲が足りない」という回です。怪獣の脚は本当に吹き飛ぶ。それでも巨体は止まらず、吸収した魔力で欠損まで埋めてしまいます。
悠とバール様の格を落とさず、同時にティアにも黄金龍として正面から怪獣を押し返してもらう。この二人が強いまま苦戦を成立させるため、問題を強さではなく大きさへ絞りました。そして悠が出した解決策は、非常に分かりやすいものです。大きすぎるなら、こちらも大きくすればいい。
次回、第34話「元勇者、国家公認勇者になる」。
怪獣と戦う前に、現代日本では越えなければならないものがあります。法律と手続きです。




