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第28話「元勇者、本気で戦う」

『新たなる破壊神、デスカリバールである』


 デスDの身体から、痛がる声も、怖がる声も消えていた。


 青い紋様が全身へ広がる。


 床が砕けたときには、もう目の前にいた。


 僕は飛びながら障壁を三枚重ねた。


 一枚目が砕ける。


 二枚目を斜めにしてエクスカリバールの先端を流し、三枚目でデスDの身体だけを横へ押す。同時に突風を当て、振り抜く方向を柱のない場所へ変えた。


 壁が大きくえぐれた。


『速すぎて見えん』

『これ配信で追える速度じゃない』

『そういや本当に勇者だった』

『バールさんじゃなくて勇者さんだ』


 デスカリバールは止まらない。


 足首が壊れても踏み込み、肩が外れても振る。エクスカリバールが負傷を破壊すると、形だけ戻った身体でまた攻撃する。


 もうデスDは悲鳴を上げない。骨が折れても、攻撃の速さが落ちなかった。


 痛みと恐怖がないせいで、自分の身体を守る動作まで消えている。


 僕は円形の空間を飛び回りながら、障壁を維持した。


 右からマジックミサイルを五つ。


 上から稲妻を一つ。


 デスDが避けた先へ突風を当て、エクスカリバールを握る右腕だけを浮かせる。


 アイたちへ飛んだ破片には、別のマジックミサイルを当てた。


『何個同時に使ってんだ』

『魔法使えたの!?』

『元勇者なんだから使えるだろ!!』

『バールの情報量が強すぎて忘れてた』


 このまま続ければ、僕一人でも勝てる。


 でも、時間をかけるほどデスDの身体が壊れる。強く押さえれば、エクスカリバールごとデスDを傷つける。周囲を守り続ければ、最深部もさらに壊される。


 腕を使えなくすることも、足を壊して止めることもできる。


 でも、デスDは死なないまま動き続ける。最後には、身体のほとんどを壊すことになる。


 勝つだけでは駄目だ。


『壊れよ!』


 エクスカリバールが僕へ迫る。


 障壁を横へ動かし、先端を外へ流した。


 でも、完全には間に合わなかった。


 赤い先端が頬をかすめる。細い傷から血が一筋流れた。


『当たった!?』

『初ダメージ?』

『これはティア様黙ってない』


「ええい、見ておれん! アイ、わしらも加勢するぞ!」


 ティアが防壁の向こうで身を乗り出す。


「でもどうやって!」


 アイは飛んでくる破片から身を隠すので精一杯といった様子だった。出てくるのは危ない。とはいえ、こっちで守るのにも限界がある。


 どうしたものか――


『あの……私、考えたんですけど』


 めぐみの声が届いた。


 僕はデスカリバールの攻撃を上へ避ける。追ってきた先端を障壁で流しながら答えた。


「何か分かった?」


『お兄ちゃん。一人で全部見なくていいと思う』


「え?」


『私が見ます』


 三機のドローンが、デスカリバールを別々の方向から映していた。


『青い紋様が強く光ってから攻撃しています。右肩と腰の向きも、振る直前だけ同じです』


 萌は映像を同時に見ながら、攻撃の前兆を拾っている。


「……うん。その方がいい」


 全部を自分で見るのをやめた。


『右。三秒後』


 僕は左へ飛ぶ。


 三秒後、右側をエクスカリバールが通り過ぎた。


『次、上です』


 高度を落とす。


『左後ろ』


 振り返らず、後方へ障壁を出した。攻撃を受け流し、そのままデスDの足元へマジックミサイルを撃つ。


『めぐ司令きた』

『司令官が仕事始めた』

『戦闘力0 指揮力SS』

『この妹ずっと何者なんだよ』


『アイさん。デスDじゃなくて、バールを見せられますか?』


「バールを?」


『はい。みんなに、そこだけ見てもらってください』


 アイがカメラの画角を狭めた。


「みんな! デスDじゃない!」


 画面の中心に、巨大な青い本体と赤い先端が入る。


「青いバール! あれだけ見て!」


『バール見ろ!』

『青いとこ!』

『デスD見るなって初めて言われた』

『バール凝視勢』

『今日ずっと何か凝視させられてる』


 大勢の意識がエクスカリバールへ集まった。


 迷宮の道を固定したときと同じ感覚が、今度はデスDの身体とエクスカリバールの間へ向かう。


 一つに混ざりかけていた青い紋様の境目が、はっきり見えた。


 デスDはデスD。


 エクスカリバールはエクスカリバール。


 多数の視線が二つを分けている。


『境界値が安定しました。託見さん、その状態を維持してください』


「分かりました!」


『ティアちゃん。今なら、バール側だけ止められると思う』


「つまり、あのバールを引き剥がせばよいのじゃな!」


『だいたいそうです』


「ならば最初からそう言え!」


 ティアの身体が光に包まれた。


 小さな姿が伸び、くるくるした長い髪が大きく広がる。光が消えると、成人女性形態のティアが床を蹴った。


『ティアマット! 邪魔である!』


「誰が退くか、たわけが!」


 ティアは振り下ろされたエクスカリバールを両手で受け止めた。


 床が沈み、ティアの足元から亀裂が走る。それでも数秒だけ、巨大なバールが止まった。


『ティア様つっよ』

『力業担当きた』

『めぐ司令:見る アイ:見せる ティア:止める 悠:剥がす』

『役割分担が綺麗すぎる』


『お兄ちゃん。右腕の紋様、弱くなってきてる』


 萌の指摘を受け、椿さんが計測結果を伝える。


『ドローンは現在位置を維持。託見さんとティアさんは、そのままお願いします』


 デスDの身体が、わずかに震えた。


「……悠!」


 重なっていた声から、デスD自身の声が抜け出した。


「今だ、持ってけ!!」


『ぬお!? デスD、何をする!』


「俺の身体だっつってんだろうが!!」


『お兄ちゃん、今!』


 僕は飛んだ。


 萌の指示で攻撃の隙を抜ける。


 アイが大勢の視線をエクスカリバールへ集める。


 ティアが力で動きを止める。


 デスDが内側から右腕を開こうとする。


 僕は巨大なエクスカリバールをつかんだ。


「戻るよ、バール様」


『吾輩はまだ――』


「帰ってから聞くから」


 デスDから、エクスカリバールを引き剥がした。


 青い紋様が途中で切れる。


 巨大だった本体が元の大きさへ戻り、僕の手に収まった。デスDはその場へ崩れ落ち、血を吐いた。


「デスD!」


 アイがカメラを持ったまま駆け寄る。


「……生きてる。死ぬほど痛えけどな」


「痛み、戻ったんだ」


「まとめて返ってきやがった……!」


 僕の周囲に満ちていた魔力も静かになった。


「一人でも、たぶん勝てたよ」


「なら最初から一人でやればよかったではないか」


 ティアがデスDを抱え起こしながら言う。


「でも、デスDがもっと壊れてた。ここもかなり壊してたと思う」


 壁には大きな溝が残り、床も何か所もえぐれている。


「みんながいたから、これで済んだんだよ」


『最深部左奥にヒールポイントがあります。死柄木さんの治療を優先してください』


 椿さんの指示で、僕たちはデスDを運んだ。


 ヒールポイントの台座には、魔石を入れるくぼみがある。


「必要量が足りない」


 アイが残量表示を確認した。


 ティアは少し黙り、自分の袋から魔石を取り出した。


「これを使え」


「……いいのかよ」


「うるさい。さっさと治れ」


「あとで返せとか言うなよ」


「これは貸しではない。おぬしが死なぬせいで余計に壊れただけじゃ」


「助けたいのか説教したいのか、どっちだよ」


 ティアが魔石を台座へ入れる。


 淡い光がデスDを包み、無理やりつながっていた骨や筋肉が少しずつ正常な状態へ戻っていく。


『バール様喋って』

『あの声が配信に乗らないのは機会損失』

『科学進歩はよ』


「二度と俺を集音機にすんな」


『吾輩は別に構わぬぞ』


「俺が構うんだよ!!」


 デスDには、もうエクスカリバールの声が聞こえているらしい。


『また壊せるな』


「二度と触らねえからな!!」


 よかった。どちらも壊さずにすんだ。みんなで、助けることができたみたいだ。


悠一人でも勝てる。でも、一人で勝つ話にはしない。この二つを両立させるのが今回の最大の課題でした。


萌が攻撃を予測し、アイがバール様へ観測を集中し、成人ティアが押さえ、デスD本人も内側から抵抗する。最後に悠が二人を引き離して、全員で救出を完成させます。本気の戦闘を描きつつ、終わればデスDとバール様はいつもの調子。しかも念話だけは残ってしまいました。


次回、第29話「バールさん、元の鞘に戻る」。


SS級ダンジョン調査の結果報告。そして、ようやく一行に休暇の話が持ち上がります。

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