第27話「バール様、デスカリバールを名乗る」
デスDがエクスカリバールを持ち上げた。
「ちょっと待て! 俺は離そうとしてんだぞ!」
『不要である』
「俺が決めることだろうが!」
デスDの右腕を走る青い紋様が強く光った。
『内部班はデスカリバールから距離を取ってください。最深部の構造損傷も拡大しています』
「俺までデスカリバールって呼ぶんじゃねえ!」
『呼称は状況把握に必要です』
「まだ正式名称じゃねえだろ!」
次の瞬間、床が砕ける。
デスDは一気に僕との距離を詰め、巨大なエクスカリバールを振り下ろした。
僕は魔力を身体へ巡らせた。
足が床から離れる。
頭上を越えた一撃が、さっきまで僕が立っていた場所を深くえぐった。
『飛んだ』
『これマ?』
『【速報】バールさん、なんならバール無しの方が強い』
『バールさんじゃなくて悠さんなんだよなあ』
『そういや元勇者だった』
『今まで全部バールで殴ってたのおかしいだろ』
「お前、飛べたのか!?」
デスDまで驚いていた。
「飛べますよ」
「先に言え!」
「聞かれなかったので」
僕は空中で向きを変えた。
エクスカリバールを持っている間、魔力のほとんどは封印を維持するために使っていた。今は違う。飛びながらでも、周囲へ何枚も障壁を作れる。
勇者として戦っていた頃なら、これが普通だった。
エクスカリバールが横から迫る。正面に障壁を作ると、青い先端が触れた場所からひびが広がった。
止めるのは無理だ。
障壁を斜めに傾け、軌道を床へ流す。
衝撃で円形の空間が揺れた。
「これはまともに受けちゃ駄目だね」
デスDごと倒すだけなら方法はある。でも、今回はエクスカリバールを引き剥がさないといけない。
デスDの身体と、最深部を壊さずに。
「受ける前に気づけ!」
『よいぞ悠!』
上機嫌な声が重なった。
デスDの右腕は、本人の意思とは関係なく次の一撃を振り上げている。
「ふざけんな! 俺の身体から出ろ!」
『断るのである!』
「デスD、右へ避けてください」
「動かしてんの俺じゃねえ!」
「では、動かします」
僕は横から突風を当てた。
デスD自身を吹き飛ばすのではなく、振り上げたエクスカリバールだけを押す。先端が数十センチずれ、振り下ろした一撃は僕の横を通り過ぎた。
同時に、五つのマジックミサイルを放つ。
二つを足元へ。二つを右腕の周囲へ。残りを、砕けた床から飛んだ破片へ。
デスDは体勢を崩し、エクスカリバールを握った腕だけが上へ引かれた。
さらに三つを右手の周囲へ当てる。衝撃で手首の向きが変わっても、指は一本も開かなかった。
普通に握っているだけなら、これで武器を落とす。
でも今は、青い紋様がデスDの指からエクスカリバールへ続いている。手と武器の境目そのものが曖昧になっていた。
力ずくで腕を飛ばせば止められる。でも、それではデスDまで壊してしまう。
僕はそこへ手を伸ばす。
『遅いのである!』
デスDの身体から、低い声がはっきり響いた。
僕は障壁を蹴るようにして上へ逃げる。エクスカリバールが空を切った。
コメント欄が一度止まり、すぐに爆発した。
『!?』
『今の誰!?』
『バール様!?』
『喋ったあああああ!!』
『意外とイケボ』
『なんで武器が一番声いいんだよ』
『この声で「吾輩である」はズルい』
さっきまでは、デスDの声へ何かが混ざっている程度だった。今はエクスカリバールの声が、デスDの身体を通して配信にはっきり乗っている。
『公開音声上でも、死柄木さん以外の発声を明瞭に確認しました』
「確認しなくていい!」
『記録は必要です』
「お前、なんで俺の喉まで使ってんだ!」
『吾輩の言葉を多くの者へ届けてやっているのである』
「頼んでねえ!」
「なら、これは?」
僕はエクスカリバールへ稲妻を落とした。
『ぬ?』
「ぎゃあああああああ!!」
デスDの身体から煙が上がる。
『何をするのである!』
「効いてないの?」
「俺には効いてんだよ!!」
『草』
『バール様ノーダメでデスDだけ焼けてる』
『装備者にダメージ入ってんじゃねえか』
『フレンドリーファイア』
『デスDずっとかわいそう』
デスDが、両手でエクスカリバールを振り回した。
床と柱がまとめて砕け、大量の破片がアイたちへ飛ぶ。
「アイ! 大丈夫?!」
アイはカメラを構えたままうなずき、後ろへ下がっている。
僕はデスカリバールへ目線を戻し、マジックミサイルを追加した。破片の数だけ軌道を分け、アイとティアへ届く前に空中ですべて砕いた。
『最深部西側の柱、二本損傷。床面の破壊範囲も拡大しています』
「俺に言うな! こいつに言え!」
『デスカリバール。破壊行動を停止してください』
『断るのである!』
「ほらな!」
「わしが守る! アイは撮影と観測を続けるのじゃ!」
「分かった!」
ティアがアイの前へ防壁を張る。よかった、これで安心してデスDを――
その間に、僕の背後で青い紋様が光った。
『隙ありである!』
振り返らないまま、僕は前へ飛んだ。背中を狙った横薙ぎが、髪のすぐ後ろを通過する。
「分かってるよ」
『よい! もっとである!』
「喜ぶでない! さっさと手放せ、この棒め!」
「俺を挟んで喧嘩すんな!!」
デスDが無理やり踏み込む。
右腕はもう曲がってはいけない方向へ曲がっていた。肩も外れ、肋骨が折れる音まで聞こえる。それでも《生存〈ゾンビ〉》は、デスDを死という結果へ到達させない。
「痛え! やめろ! 身体を返せ!」
『この肉体、壊れすぎであるな』
「テメエが壊してんだよ!!」
『ならば、その傷を壊そう』
青い光がデスDの身体を走った。
折れた腕が引き戻され、外れた肩がはまる。裂けた部分も閉じていく。でも治ったというより、壊れた身体を無理やり元の形へ押し込めているように見えた。
「バール様、傷も治せたの?」
「治ってねえ! なんか無理やりくっついてんだよ!!」
デスDは再び巨大なエクスカリバールを振り上げた。
一歩目で足首が折れた。
青い光が走り、足首が元の向きへ戻る。
二歩目で右肩が外れた。
また光が走り、腕が上がる位置まで無理やり戻された。
「やめろ! 治すくらいなら最初から壊すな!」
『壊れるから直しているのである』
「順番が逆なんだよ!」
反動で壊れる。
《生存》で死なない。
エクスカリバールが負傷を壊し、また動かす。
そのたびに出力が上がっていた。
「最悪じゃ……! あやつら、互いの欠陥を補っておる!」
ティアがようやく理解した。
相性がよい。
エクスカリバールが言った意味は、これだった。
「怖えんだよ! 勝手に前へ出すな! もう無理だ!」
デスDは文句を言いながらも、必死に右腕を押さえようとしていた。けれど青い紋様が光るたび、その腕は本人の力を無視して持ち上がる。
「痛えし怖えし、こんなもん二度と持たねえ! 聞いてんのかクソバール!」
渾身の力を振り絞ったのだろう。デスDが、仰向けに寝転がって叫んだ。
「早く出ていけ! おれを手放せよ!!」
『うるさいのである』
「誰のせいだと思って――」
『ならば』
エクスカリバールの声が低くなる。
『貴様の痛みも、恐れも、破壊してやろう』
「は?」
ばきん。
デスDの悲鳴が止まった。
「……デスD?」
ゆっくりと顔が上がる。
『くくく。これでよい。最初からこうしておけば良かったのである』
ふたつの声が、ひとつになっていた。
『危険です! 周辺魔力が急速に増大しています! 発生源は――』
椿さんの声。さっきまでとは、トーンが違う。
『――死柄木さん、です』
そう。これは――危険だ。
『死柄木? 吾輩は、そんな名前ではないぞ』
彼が、いや、“彼ら”が、ゆらりと立ち上がった。
小さな丸サングラスの奥で青い光が灯り、デスDとエクスカリバールの声が完全に重なった。
『吾輩こそが、新たなる破壊神――』
『デスカリバールである』
今回は、悠が飛行・障壁・突風・魔力弾・稲妻を同時に扱います。できることが一気に増えるぶん、技の説明を並べず、誰を守り、何を止めるために使っているのかが追えるよう調整しました。
それでも主役は、デスDとエクスカリバールの危険な組み合わせです。壊れる身体を《生存》が戻し、負傷をバール様が壊す。最後には、邪魔になった痛みと恐怖まで破壊してしまいました。二人分の声が重なり、新たなる破壊神が勝手に名乗ります。
次回、第28話「元勇者、本気で戦う」。
相手は仲間なので、倒して終わりにはできません。DDP全員で、二人を壊さず助けます。




