↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/25

第24話「元勇者、夢と魔法の迷宮に入る」

 翌日、僕たちは政府の管理区域に集まった。


 人工的な地下施設の奥に、巨大な石造りの入口がある。昨日はモニターで見ただけだったけれど、実物は周囲の壁よりずっと古く見えた。奥には淡い光が続いている。


 配信画面の右上には、昨日と同じ透かしが入っていた。


 迷宮省 × DDP

 SS級ダンジョン合同調査


 中へ入るのは、僕、アイ、ティア、デスDの四人だ。椿さんとめぐみは外部の設備から僕たちを支援する。


 外部のモニターには、三機分のドローン映像とデスDのカメラ映像が並んでいた。萌が操作端末の前に座り、椿さんがその隣で資料と現在位置を確認している。予備の二機は、何かあったときすぐ出せる状態で置かれていた。


「今日は内部の映像だけではなく、外部との通信も含めてお届けします。異常があった場合は、迷宮省の判断に従って調査します」


 アイが視聴者へ説明した。


『いよいよ突入』

『夢と魔法の迷宮きた』

『めぐ司令は今日も司令室か』


『お兄ちゃん、ドローン一号が先に入るから待って』


「分かった」


 僕が入口の前で止まると、小型ドローンが頭の横を通って迷宮へ入っていった。


「俺より指示通るの腹立つな」


「デスDの指示も聞いてますよ」


「聞くのと守るのは別だからな、お前」


『スタジオ兼司令室』

『めぐ司令、実戦投入』

『航空戦力きた』

『戦闘力0 指揮力SS』


 萌はドローンの映像だけでなく、デスDのカメラ、入口付近の固定映像、簡易地図も同時に見ている。本人は昨日と同じように、特に難しいことだとは思っていないらしい。


『一号、異常なし。入って大丈夫だよ』


「では、合同調査を開始します」


 椿さんの合図で、僕たちは「夢と魔法の迷宮」へ入った。


 中は名前ほど華やかではなかった。


 天井の高い石造りの通路が、薄暗い奥へ続いている。壁の一部から淡い光が漏れているけれど、飾りはない。人が作ったようにも、自然にできたようにも見えた。


 入口を越えたドローン一号は先頭へ進み、二号は僕たちの後方、三号は少し高い位置から通路全体を撮っている。萌は三つの映像を切り替えることなく、それぞれへ指示を出していた。


「名前ほど華やかではないの」


「SS級で夢の国みてえな内装されても困るけどな」


 デスDはカメラを左右へ向け、壁や天井も撮っている。前を飛ぶドローンは、分岐へ着くたびに一度止まった。


「右の通路を確認してから進もう」


 萌の指示に従い、僕たちは右へ曲がった。


 少し進むと、壁際の暗がりが揺れた。


 黒い獣のようなものが、通路へ這い出してくる。四本の脚で立っているのに輪郭が安定せず、頭の位置にある二つの目だけが白く光っていた。


『あれナイトメア?』

『見た目怖っ』

『全然かわいくない』


 ナイトメアは身体を低くし、アイへ飛びかかった。


「バール様」


『無論である!』


 一歩前へ出て、エクスカリバールを振る。


 一撃を受けたナイトメアは黒い輪郭を崩し、淡く光りながら粒になって消えた。床には小さな結晶だけが残った。


『弱っ』

『一撃じゃん』

『これSS級?』

『ナイトメアとは』


「一体目、討伐を確認しました」


 椿さんの声は落ち着いていた。


「特に硬くはないですね」


「お前基準で報告すんな」


 別の暗がりから、もう一体が現れた。


「邪魔じゃ」


 小型人間形態のティアが片手を向ける。放たれた《ファイヤーボール》が直撃し、二体目のナイトメアも光の粒へ変わった。


「この程度か?」


「敵だけならな」


『A級とそんな変わらなくね?』

『SS級とは』

『バールさん基準だと何も分からん』

『ティア様まで普通に倒してるし』


 魔獣を倒すことだけなら、いつものダンジョンと変わらない。


 僕たちはさらに奥へ進んだ。


 扉を二つ通り、長い通路を曲がる。デスDは戦闘が終わっても撮影を止めず、分岐や壁の模様まで残していた。ドローン二号は僕たちの少し後ろを飛び、来た道を撮っている。


『……あれ?』


「どうしたの?」


『地図と少し合わない』


 萌が地図を配信画面にも表示した。


『今いる場所には、左へ続く分岐があるはず。でも実際には壁になってる。それに、さっきの通路も記録より長い』


 三号が高い位置から分岐を映し、一号が壁の近くへ寄る。二号は来た道を撮ったまま止まった。画面上では三つの位置が同時に更新され、萌が過去の地図へ現在の通路を書き足していく。


「昨日、構造が変わると言っていましたね」


『うん。でも、入る前に受け取った最新の記録とも違う』


『構造変化として記録を続けてください』


 椿さんがすぐに指示した。


 僕たちは壁の位置を確認し、ドローンで周囲を撮る。その先には、過去の地図にない小さな部屋まであった。


「迷宮が動いたということかの?」


「動くところは見てないよ」


「だから余計に気味悪ぃんだよ」


 デスDは来た道にもカメラを向けた。


 僕も振り返る。


 何かがおかしかった。


 通路は続いている。けれど、その先にあるはずのものがない。


「デスD」


「なんだ」


「入口がないよ」


「……は?」


 僕たちが入ってきた方向は、石の壁で塞がれていた。


 扉が閉じたわけではない。入口まで続いていた通路そのものが途中で終わっている。


「え、待って。ここ、通ってきたよね?」


 アイが壁と配信画面を見比べた。


「塞がれたのか?」


『待って。映像戻す』


 萌が記録を確認する。


 配信画面に数分前の映像が出た。ドローン二号の後ろには、確かに入口へ続く通路がある。デスDのカメラにも同じ通路が残っていた。


 現在のドローン映像では、同じ位置に壁がある。


 外との通信はまだつながっている。入口だけが、通路ごと消えていた。


『え』

『入口どこいった』

『今の映像にはあったよな?』

『これSS級だわ』


「ならば壊せばよかろう」


 ティアが言った。


 僕もそう思い、腰のエクスカリバールへ手をかける。


『待ってください。まだ壊さないで』


「はい」


 僕は手を止めた。


『映像では、ここは確実に通路でした』


「俺のカメラにも残ってる。撮った位置も合ってる」


「じゃあ、本当に変わったんだ」


 アイは壁を見たまま、少し声を落とした。


 椿さんは現在位置と映像を短く確認した。萌が壁をドローンで近くから撮り、記録へ追加する。


『構造変化は記録できました。二梃木さん、壁面のみ破壊を許可します』


「分かりました」


 僕はエクスカリバールを抜く。


「バール様」


『無論である!』


 石の壁へ叩きつける。


 壁は簡単に砕けた。


 砕けた石は足元へ落ち、ドローンが開いた穴を正面から撮る。椿さんは外部から穴の位置を確認し、萌は壊す前と後の映像を並べた。少なくとも、目の前の壁が壊れたことだけは間違いなかった。


『はい解決』

『結局バール』

『SS級も物理で突破』


 粉塵が収まる。


 壊した壁の向こうには、短い空間があった。


 その先を、また同じ石の壁が塞いでいる。


「……もう一枚あります」


「は?」


 デスDがカメラを穴の奥へ向けた。


「二重の壁だったの?」


『事前の記録にはありません。もう一枚も記録します』


 萌がドローンを穴の中へ入れる。壁までの距離を確認したあと、椿さんからもう一度許可が出た。


 僕は二枚目を壊した。


 一枚目の破片も、開いた穴も、そのまま残っている。僕たちは短い空間へ入り、二枚目があった場所を越えた。


 その向こうにも、短い空間と三枚目の壁があった。


『これ壁じゃなくね?』

『空間そのもの変わってる?』

『バールで壊しても意味ないの怖い』

『壊せてるのに進んでない?』


『壁は壊れておる』


「うん。でも出られない」


 振り返れば、一枚目も二枚目も壊れたままだ。壁が元へ戻ったわけではない。


 それでも、その先は外へつながっていなかった。


 敵は壊せる。壁も壊せる。


 けれど、出口がないという問題は残っている。


『吾輩なら、この迷宮そのものを壊せるぞ』


「たわけが。ますます出られなくなるだけじゃろう」


『では、どうする』


「調べてみようよ。壊す前に」


 僕は、壊した壁の向こうを見た。


 そこにも、同じ壁があった。


「何でも壊せる主人公」に、壊しても解決しない問題をどう渡すか。それがこの回の中心でした。


ナイトメア自体は悠とティアなら簡単に倒せます。しかし、迷宮は見ていない間に形を変え、入口そのものを消してしまう。椿の許可を得て壁を壊しても、その先にはまた同じ壁があります。ここで迷宮全体を壊さず、「壊す前に調べる」と悠が決めたことが、今後の成長にもつながります。


次回、第25話「バールさん、アイドルに道を作ってもらう」。


突破口を見つけるのはバール様ではありません。まず萌が記録を比べ、アイが視聴者の視線を集めます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。