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第21話「バール様、もう一人の適合者に気付く」

 ティアを包む金色の光が、大広間の天井近くまで広がった。


「近いぞ、デスD」


「変身するところからボスまで同じ画面に入るんだよ。あと少しだけ――」


 光の中から、成人女性形態のティアが片手を向けた。


「《ファイヤーボール》」


「何でだよ!」


 火球がデスDを吹き飛ばした。


 床を転がり、服から煙を上げる。腕と肩には火傷を負っていたが、カメラだけは離していない。


「生きておるな」


「痛えよ! 撮る前に撃つな!」


「どけと言ったじゃろ」


『人型ファイヤーボール直撃』

『普通に起き上がったぞ』

『《生存》の扱いがもう雑』


 ティアの姿が光の中でさらに大きくなる。


 四本の脚が床へ着き、巨大な翼が左右へ広がった。全身を覆う黄金の鱗が、濃い魔力を受けて輝いている。


 翼を一度動かしただけで、床の砂と小石が大広間の端まで吹き飛んだ。角の先まで魔力が満ち、周囲の空気が震えている。


 配信を進めていたアイも、一度言葉を止めた。


 小型人間形態のときとは、声の大きさまで違った。


「さあ、始めるぞ!」


 黄金龍の咆哮が大広間を揺らす。


 コメント欄が一瞬だけ止まった。


『でかい』

『これが本来の姿』

『A級ボスと並んでもティア様の方が怖い』


 ボスも怯まなかった。


 太い脚で床を蹴り、正面からティアへ突進する。外殻に覆われた巨体がぶつかり、大広間全体へ重い音が響いた。


 ティアの身体が半歩押し戻される。


「ほう。少しはやるようじゃな!」


 ティアが前脚でボスを押し返した。


 ボスは倒れず、長い尾を振る。ティアは翼を動かして浮かび、床すれすれを飛んでかわした。尾が当たった柱は途中から折れ、石の塊が床へ落ちる。


 続けて、ボスの口元へ魔力が集まった。


「ティア、来るよ!」


 僕が声をかけた直後、太い魔力の塊が放たれる。


 ティアは翼を前へ出し、正面から受け止めた。爆発で黄金の巨体が煙に隠れ、床が広い範囲で砕ける。


「ティアちゃん!」


「騒ぐでない!」


 ティアが翼を開く。鱗には焦げた跡が残ったが、傷は浅い。


「わしを地へ落としたければ、この程度では足りぬぞ!」


 今度はティアが空中から体当たりした。


 ボスは巨体で受け止め、床を削りながら後退する。外殻の一部は砕けたが、まだ立っていた。


『ボス普通に強いぞ』

『黄金龍の突進受けたよな?』

『これ相手が悪いだけだ』


「悠、正面の脚を止めろ! 壊すのは動きだけだ!」


「はい」


 デスDの指示で、僕はボスの前へ入った。


 振り下ろされた脚をエクスカリバールで受ける。外殻を全部壊すのではなく、踏み込む勢いだけを壊した。


 巨体がその場で止まる。


「ティアちゃん、右が空きました!」


 アイがティアへ声をかける。


 ティアは言われる前から僕の動きを見ていた。右へ旋回し、ボスの側面へ回る。


 ピーッ!


『お兄ちゃん、下がって』


「分かった」


 萌の声に従い、すぐに射線から離れる。


 前回のコラボでは、僕が動くたびに周囲が予定を変えていた。


 今は僕が止めた場所へティアが入り、アイが空いた方向を伝え、萌が僕を戻す。デスDのカメラも、最初から全員の動きを追っている。


 ボスは側面からティアの爪を受けた。


 外殻に深い傷が入る。それでも倒れず、身体を回してティアへ食らいつこうとした。


「左へ回るぞ。悠、頭をこっちへ向けさせろ!」


「分かりました」


 僕はボスの正面へ回り、エクスカリバールで床を一度叩いた。音へ反応したボスが僕を追う。


「お兄ちゃん、三歩だけ下がって」


 ピーッ!


 萌の指示どおりに下がると、ボスの側面がティアへ完全に開いた。


「今です、ティアちゃん!」


 アイの声と同時に、ティアの爪が外殻の亀裂へ入る。


 硬い外殻が大きく剥がれた。


「しぶといのう!」


 ティアが翼で上昇する。


 この大広間なら、巨大な身体で旋回しても壁へ当たらない。ボスは広い部屋を走って追うが、飛ぶティアには届かなかった。


『ボス部屋広すぎて草』

『設計者、黄金龍の存在を想定してない』

『広間なのが敗因』

『狭かったらワンチャンあった』

『A級ボス、建築に殺される』


「こいつ、部屋が広かったせいで死んだな」


「わしが強かったからじゃろ!」


「両方じゃない?」


 ティアが大きく息を吸い始めた。


 大広間の魔力が、黄金龍の口元へ集まっていく。


「みんな、ティアちゃんの正面から離れて!」


 アイの声で、僕たちは左右へ分かれた。


 デスDだけが前へ出る。


 黄金龍ティアとA級ボスを同じ画面へ入れるため、撮影位置を変えたらしい。


「デスD、そこ危ないよ」


「あとちょっと撮らせろ!」


「デスD! どけ!」


「あと三秒!」


「下がって!」


 アイが叫ぶ。


 ピーッ!


 萌もホイッスルを鳴らした。


 デスDはカメラを回し続ける。


 ボスがティアの狙いに気づき、射線から外れようと身体を動かした。このまま待てば、アイたちがいる側へ突っ込む。


「知らん!」


 ティアが本気のブレスを放った。


 白く輝く高熱と魔力が、大広間を一直線に貫いた。


 ボスは正面から受け止める。硬い外殻が一瞬だけ耐え、次の瞬間には亀裂が全身へ走った。


 そのまま巨体が光に飲み込まれる。


 デスDも、カメラごと射線の中にいた。


「デスD!」


 ブレスが止まる。


 床は赤く焼け、煙で奥が見えない。


 ボスの姿は消えていた。


 デスDも見えない。


「デスD?」


「デスDさん?」


 アイが呼んでも、すぐには返事がなかった。


 ティアが翼をたたみ、煙の中を見つめる。


「……さすがに、まずかったかの」


 焼けた床の上で、何かが動いた。


 焦げたカメラが先に見える。その後ろから、デスDが腕だけで這い出てきた。


 髪も服も焼け、全身に火傷を負っている。立ち上がろうとしたけれど、身体を起こすこともできなかった。


「……だから死なねえだけで大丈夫じゃねえんだよ!」


『生きてる!?』

『黄金龍の本気ブレスでも死なないのかよ』

『《生存》やばすぎる』

『不死身の使い方が雑』


「動かないで。今そっちへ行く」


「カメラ……映像……」


「それよりデスDさんです!」


「撮れてるなら、先に保存しろ……」


 アイが怒りながらも、落ちたカメラを拾った。


「……あれ? カメラ、無事だ」


「……頑丈なんだよ」


「いや、そういう壊れ方じゃなかったでしょ」


「機材は大事にしてるからな……」


 ティアはデスDの近くへ顔を寄せる。


「……本気のブレスでも死なんのか」


「だからって、もう一発試すなよ」


「人型の火球でも死なん。龍のブレスでも死なん。気味の悪いスキルじゃの」


 デスDは答える代わりに呻いた。


 ボスがいた場所には、大きな魔石の結晶が残っていた。


「これは上物じゃ!」


「待て! 売れる!」


 倒れたまま、デスDが止める。


「わしのデート用じゃ!」


「今日は集める日だよ」


「一口だけ味見じゃ!」


「怪我人の横で取り合わないで!」


 アイの声で、大広間にいつもの調子が戻った。


『A級を普通に終わらせた』

『こいつらならあそこもいける』

『あり得る』


 僕はエクスカリバールを腰へ戻そうとした。


『……ほう』


「バール様?」


『悠』


「なに?」


『あの男。我輩を振るえるやもしれぬ』


「デスDが?」


「やらねえぞ!」


 デスDが床から叫んだ。


『まだ何も言っておらぬのである』


「悠が全部言ってんだよ!」


「バール様、デスDのことを見てる」


「言わなくていい!」


『人の身でありながら、我輩の力に耐えうる可能性があるとはな』


「死なないだけだぞ。痛いのは嫌だからな」


『……もう一人、いたのであるな』


「何が?」


『我輩に耐えうる者が』


 その声は、いつものように笑っていなかった。


 なぜだかわからない。背中に、冷たいものがひとすじ、流れた気がした。


今回は総力戦の爽快感に、デスDの《生存》検証という危険なコメディを重ねました。成人ティアのファイアボールでも死なない。腹を立てた黄金龍の本気ブレスでも、やはり死なない。ただし痛いものは痛いので、本人はまったく喜んでいません。


もう一つ、アイが拾ったカメラまで無事だったことを、短いやり取りで残しました。この時点では「頑丈な機材」で流せますが、デスDの力がどこまで及ぶのかを示す小さな伏線です。最後だけ温度を落とし、バール様がもう一人の候補に気づきました。


次回、第22話「元勇者は歌わない方がいい」。


戦闘はお休み。アイのデビュー曲を、みんなで歌います。悠も歌います。


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