第19話「バールさん、黄金龍とデートする」
「まずお前! 留守番するって約束したよな!?」
新しいDDPスタジオで、デスDがティアを指さした。
「悠が困っておったから仕方あるまい!」
「困らせた原因の半分お前だからな!?」
ティアは椅子の上で腕を組み、納得していない顔をしていた。
「わしが行かなければ、あのポンコツ連携が続いておったぞ」
「相手はお前らが混ざる前まで完璧に連携できてたんだよ! ポンコツにしたのは悠だ!」
「僕ですか?」
「次はお前だ!」
デスDが僕へ向き直った。
「左を頼まれて、何で合図を待たずに全部倒した」
「左をお願いしますと言われたので」
「危なくなったら援護しろと言われて、何で限界まで待った」
「まだ怪我してなかったので」
「中央で待機しろと言われて、何で壁を壊した!」
「右から回るより近かったので」
デスDは両手で顔を覆った。
隣に座るアイの肩が震えている。笑ってはいけないと思っているらしい。
「お前は指示を聞いてるようで、一番大事なところを聞いてねえ。あのパーティは最短で魔獣を倒せと言ったんじゃない。一緒に作戦どおり動けと言ったんだ」
「なるほど。次から作戦を変える前に聞きます」
「そうしろ。勝手に壁も壊すな」
「はい」
「ティアもだ。助けに行くなら、せめて俺たちか現場へ連絡しろ」
「連絡しておったら間に合わぬ」
「間に合わせる必要がある危機じゃなかったんだよ!」
結果として、怪我人はいなかった。
けれど、壊したダンジョン内の設備や通路には修繕が必要になった。コラボ相手には謝罪し、どこまで映像を公開するかも改めて確認している。費用と後処理はDDPが負担する。
「相手がまともな連中だったから話を進められてるだけだ。迷惑をかけたことは、ちゃんと覚えとけ」
「はい。申し訳なかったと思ってます」
「わしも、少し派手にやりすぎたことは認めておる」
「少しじゃねえ」
デスDは机を一度叩いた。
「とにかく! 今後は単独コラボ禁止! 禁止な!!」
「分かった。僕もみんなと一緒がいいな」
「当然じゃ♡ そもそも今回はわしを連れて行かなかったことが問題だったんじゃ。のう、悠?♡」
「わかってなさすぎる……」
アイがとうとう吹き出した。
◇
説教の次は、謝罪動画の撮影だった。
僕とティアが並び、アイもDDPを代表して同席する。デスDはふざけずにカメラを構えた。
「このたびのコラボ配信では、僕が事前に決めた作戦を守らず、皆さんの行動を妨げました。さらに、許可を確認せずダンジョンの壁を壊しました。申し訳ありませんでした」
頭を下げ、デスDの合図まで待つ。
「二梃木、もうちょい申し訳なさそうな顔しろ」
「申し訳ないと思ってます」
「顔が『次はうまくやります』なんだよ!」
「次は確認してから動きます」
「ほら、それだよ!」
撮影をいったん止め、最初からやり直す。
ティアの番になると、さらに時間がかかった。
「なぜわしまで謝る必要があるのじゃ。助けに行っただけじゃぞ」
「お前が一番壊したからだよ!」
「壊したのは魔獣と邪魔な壁じゃ」
「邪魔かどうかを決めるのは管理してる側だ!」
何度か話したあと、ティアもカメラへ向き直った。
「約束を破って現場へ入り、許可なく通路と設備を壊したことは、わしが悪かった。迷惑をかけた者には謝るのじゃ」
助けに行ったこと自体は謝らなかった。
それでも、壊したことと迷惑をかけたことは自分の言葉で認めた。
最後にアイが、DDPとして責任を持って対応を続けると説明する。謝罪動画は、先方にも内容を確認してもらってから公開することになった。
「よし。これで撮影は終わりだ」
デスDがカメラを下ろす。
「それと二人とも、数日間は謹慎。DDPの仕事と配信には出るな。勝手に企画へ混ざるのも禁止だ」
「では今日は暇なのじゃな?」
「そうだね。仕事は休みみたい」
「謹慎だっつってんだろ!」
ティアが僕を見る。
「悠。約束を覚えておるか?」
「一日二人で出かけて、魔石を好きなだけ食べる約束だね」
「うむ♡」
「じゃあティア、行こうか」
「うむ♡」
「どこ行く」
「デートです」
「謹慎中だぞ!?」
「仕事はしてないよ」
「謹慎とは休みなのであろう? なら問題ないではないか♡」
「そういう休みじゃねえ!」
デスDは止めたけれど、仕事も配信もしない私的な外出まで禁止する理由はないらしい。
「カメラは持っていかぬぞ。二人きりと言ったじゃろ」
「分かってるよ」
『我輩は数に入っておらぬのか』
「バール様はいつも一緒だから」
「武器は数に入らぬ」
『神である!』
僕とティアは、怒鳴るデスDを残して出かけた。
◇
外へ出る前に、ティアは金色の光をまとい、成人女性の姿になった。
今日のティアは白いドレス姿だった。胸元は大胆に開き、豊かな胸の谷間、その中央では一枚の金色の鱗がきらりと光っている。頭の角と鱗の尾も隠していない。
「今日はデートじゃからな♡」
地上では魔力を多く使う姿だけれど、今日は高品質な魔石を食べる予定がある。短い時間なら問題ないらしい。
「悠。腕を組むぞ♡」
「歩きにくくない?」
「そういう問題ではないのじゃ!」
ティアが僕の腕を取る。
異世界でも見慣れていた姿のはずなのに、以前の酒席から、近づかれると少し意識するようになった。
街へ出ると、すれ違った人たちが次々に振り返った。ティアは視線を気にするどころか、僕の腕を抱く力を少し強める。
「悠、顔が固いぞ?」
「近いから」
「近づいておるからの♡」
ティアの尻尾が、僕の脚へ機嫌よく触れた。
街を歩き、食事をして、ティアが気になった店を順番に見た。ティアは人間のデートとは何をするものか何度も聞いたけれど、僕も詳しくない。
「二人で出かけて、楽しく過ごせればいいんじゃないかな」
「ならば、今のところ成功じゃな♡」
最後に魔石を扱う店へ行き、品質を確かめながらいくつも買った。
「これは美味じゃ♡」
新しい巣へ戻ると、ティアは買ったばかりの魔石を次々に食べ始めた。
「それ、一個で結構するよ」
「食べ放題と言ったのは悠じゃろ?」
「そうだったね」
僕が案件でもらったボーナスは大きかった。けれど、魔石の山は思った以上の速さで減っていく。
「まだ食べられるぞ♡」
「思ったより減ったね」
「遠慮しておる方じゃが?」
「そうなんだ」
そのとき、事務所側の扉が開いた。
「レコーディング終わった……って、何その量」
仕事を終えたアイが、資料を持って入ってきた。
「二人きりの約束じゃぞ!」
「ここ、DDPの事務所でもあるんだけど」
続いてデスDも入ってくる。
「監視だ。謹慎中に何してるか確認しに来た」
「デートと食事です」
「堂々と言うな」
「撮影はしておらぬぞ!」
「そこだけは守ったんだな」
さらに、修学旅行から帰った萌が土産を持って顔を出した。
「お兄ちゃん、本当にデートへ行ったんだ」
「約束してたから」
「謹慎中に?」
「仕事はしてないよ」
「うん。そう言うと思った」
気づけば、二人きりだったはずの巣にいつものメンバーが集まっていた。
「約束が違うぞ!!」
「みんなで食べる方が楽しいよ」
「そういうところじゃぞ悠!!」
ティアは怒ったけれど、アイと萌のために椅子を出した。デスDが手を伸ばした魔石だけは、すぐに自分の方へ取り戻す。
「これはわしのじゃ。おぬしらには普通の菓子をやる」
「わたしたちまで魔石を食べないよ」
「今日は特別じゃ。悠が大切にしておる者ゆえ、巣にいることを許してやる」
「会社の事務所に入る許可を、何でお前が出してんだ」
文句を言いながらも、ティアの尻尾は楽しそうに動いていた。
一日の終わりには、用意した魔石はほとんど残っていなかった。
「楽しかったね」
「……まあ、悪くはなかったのじゃ。二人きりの時間は足りぬがな」
「魔石も足りなかった?」
「まだ食べられるぞ」
「じゃあ次は、みんなでダンジョンに集めに行こうか」
「よいぞ! 高品質なものを山ほど集めるのじゃ!」
「お前ら謹慎中だからな?」
「うん。仕事はしてないよ」
「そこじゃねえんだよ!」
前回の大失敗を軽く流さず、かといって説教だけで一話を終わらせない。その切り替えに苦労しました。
悠とティアは謝罪動画を撮り、数日間の謹慎へ。ただし二人は「仕事が休みになった」と解釈し、約束どおり出かけます。白いドレス姿の成人ティアが街で目立ち、高品質な魔石を大量に食べる。デートらしい時間なのに、やっていることはほとんどドラゴンの餌やりです。
次回、第20話「元勇者、仲間の大切さを知る」。
今度はDDP全員で、ティアの魔石を集めにダンジョンへ入ります。




