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第18話「元勇者、初めて苦戦する」

「なぜじゃ」


「今回は一人で来てほしいって言われたから」


「なぜじゃ!」


 朝から、ティアは同じ質問を繰り返していた。


 今日は別のダンジョン配信パーティとのコラボだ。相手から、今回は僕一人で参加してほしいと希望されている。


 アイは新曲のレコーディング。デスDはプロデューサーとして付き添っている。萌は修学旅行中だ。


「コラボなら、わしもできるぞ!」


「今回は人間のパーティに一人だけ加わって、戦い方を見せる企画なんだって」


「わしも人型になれるぞ!」


「そういう問題じゃないと思う」


 ティアの尻尾が床を何度も叩いた。


「悠はまた、わしを置いていくのか」


 急に声が小さくなった。


 僕が異世界から消えたあと、ティアは五年間も探してくれた。今日一日出かけるだけでも、置いていかれること自体が嫌なのだと思う。


「じゃあ今度、一日ティアと二人で出かけよう」


「……二人きりか?」


「うん」


「朝からか?」


「朝からでいいよ」


「魔石は?」


「好きなだけ食べていいよ」


 床を叩いていた尻尾が、今度は勢いよく左右へ振られた。


「仕方ないのう。今回は譲ってやるか」


「ありがとう」


「日が決まったらすぐに教えるのじゃぞ。予定を入れるでないぞ」


「分かった」


 ティアは上機嫌になったけれど、出発する僕を玄関まで見送ったあとも、少しだけ離れた場所から見ていた。


 ◇


「今日は来てくださって、ありがとうございます」


「こちらこそ。よろしくお願いします」


 コラボ相手は四人のパーティだった。


 前に立つリーダー、敵を受け止めるタンク役、魔法役、周囲を確認する後衛支援。全員が配信で何度もダンジョンへ入っている経験者で、僕のことも普通に歓迎してくれた。


「まず僕たちの動きを見てもらって、次の戦闘から入ってください」


「分かりました」


 最初の魔獣の群れが現れた。


 タンク役が一歩前へ出て、盾を鳴らして注意を集める。魔獣がまとまったところで、リーダーが横へ回り、逃げ道を一つだけ残した。


「今です」


 短い声で魔法役が攻撃する。逃れた一体も、待っていた後衛が足を止め、リーダーが仕留めた。


 魔獣は順番に淡く光り、粒になって消える。床に残った結晶を拾う間も、二人が周囲を警戒していた。


「すごい。全員が次に何をするか分かってる」


『普通に強いパーティだ』

『連携うま』

『バールさんいらなくね?』


「本当にいらないかもしれませんね」


「いやいや、次はお願いします」


 リーダーは笑って、次の戦い方を説明してくれた。


「次の群れが来たら、バールさんは左をお願いします」


「分かりました」


 ほどなく、正面と左右から魔獣が現れた。


 左には三体いる。


 僕はすぐに踏み込み、三体をエクスカリバールで続けて殴った。すべて光の粒となり、結晶へ変わる。


「倒せました」


「……はい。倒せましたね」


 タンク役へ集まるはずだった魔獣が、急に空いた左側へ流れた。リーダーが追い、魔法役が向けていた攻撃は誰もいない場所を通り過ぎる。


 後衛がすぐ退路を塞ぎ直し、残りの魔獣も倒した。誰も怪我はしていないけれど、さっきのようにはいかなかった。


『あれ?』

『強いけどなんか違う』

『連携が死んだ』


「すみません。左を倒すのが早かったですか?」


「こちらも説明が足りませんでした。集めてから合図を出すので、そのあとにお願いします」


「分かりました」


 怒るのではなく、次の指示を変えてくれた。やっぱり、いいパーティだと思う。


 次に魔獣が出たとき、僕は動かずに待った。


「危なくなったら援護をお願いします!」


「はい」


 タンク役が群れを受け止める。リーダーが二体を押し返し、魔法役が攻撃の準備へ入った。


 一体が横から回り込み、後衛が避ける。まだ怪我はしていない。タンク役も押されているけれど、立っている。


「二梃木さん、そろそろ!」


 まだ大丈夫そうだったので、待った。


 盾が大きく傾き、魔法役が詠唱を中断して下がる。


「援護! 今です!」


 僕は群れの中央へ入り、一度に倒した。


「遅い!!」


「でも、まだ誰も怪我してません」


「怪我する前に援護してください!」


「なるほど」


『今度は待ちすぎた』

『バールさんの危ない判定がおかしい』

『異世界基準で待つな』


「次は、やることを細かく決めましょう」


 リーダーは息を整えながら、床へ簡単な配置を描いた。


「僕たち三人が右から回り込みます。タンクが正面を止めます。二梃木さんは中央で待機してください」


「分かりました」


 魔獣の気配は、壁の向こうに集まっていた。


 右から回るより、壁を開けた方が早い。


「あ、こっちの方が近いですね」


 エクスカリバールで壁を一部壊した。


「待機って言いましたよね!?」


「右から回るより早かったので」


 開いた壁の向こうには、予想より多くの魔獣がいた。


 予定していた群れと、壁の向こうの群れが同時に通路へ流れ込む。右へ動き始めていた三人が戻り、タンク役も向きを変えた。


「先に数を伝えてください!」


「すみません。倒した方が早いと思って」


「早いのは分かります! 僕たちがどこにいるかも見てください!」


 僕が前へ出ると、今度は全員が僕を避けるために下がった。


 魔獣は倒せる。


 でも、僕が動くたびに四人の動きが止まっていた。


『バールさんが足引っ張ってる』

『こんなことある?』

『個人戦は最強、団体戦は要調整』


 残った魔獣を倒し終えると、リーダーが僕の前へ来た。


「二梃木さん、強いんですけど……」


「はい」


「すごく強いんですけど、ちょっとだけ何もしないでもらえます?」


「分かりました」


 僕は通路の中央で立ったまま、動かないことにした。


『世界最強、待機命令』

『バールさんベンチ入り』

『戦力過剰ってこういうことか』

『強すぎてパーティに入れない男』


「僕がいると、やりにくそうですね」


「すみません。二梃木さんが悪い人じゃないのは分かってます。ただ、僕たちの考えるより全部が早すぎるんです」


 デスDなら、先に壊していいものを決める。


 アイなら、僕が動く前に周りへ声をかける。


 萌なら、してはいけないことを短く言う。


 ティアなら、説明しなくても僕の動きについてくる。


 今まで普通に戦えていたのは、みんなが僕のやり方を知っていたかららしい。


 ◇


 その頃、ティアは巣の大きな画面で配信を見ていた。


「ふん。わしがおらずとも、悠一人で十分じゃ」


 最初は金色のクッションへ座り、余裕の顔で肉を食べていた。


 悠が早く動きすぎると、尻尾が一度だけ床を叩いた。


「何をしておる悠! 今は待つところじゃ!」


 次に悠が待ちすぎると、尻尾が何度も床を叩いた。


「そこではない! なぜ今度は動かぬ!」


 悠が壁を壊し、完全に待機させられる。


「その者ども、悠の扱いが分かっておらぬ!」


 ティアは立ち上がった。


「見ておれん」


 朝の約束を忘れたわけではない。


 それでもティアは巣を飛び出し、屋上で黄金龍の姿へ戻った。


 ◇


 増えた魔獣を相手に、四人はもう一度隊列を組み直していた。


 僕は何もしないように言われているので、後ろで待っている。


「二梃木さん! 今度は合図したらお願いします!」


「分かりました」


 遠くから、何かが壊れる音がした。


 次の瞬間、頭上から轟音が落ちてくる。


 ドゴォォォン!!


 天井の一部が砕け、巨大な黄金龍が光と破片の中から降りてきた。


「ドラゴン!?」


「ティア?」


「悠ーーーー!!」


 ティアが翼を広げる。


「見ておれんかったわ!!」


 大きく息を吸い、通路の奥へブレスを放った。


「待ってティア、それ壊しちゃ駄目な――」


 遅かった。


 魔獣の群れも、僕が壊した壁の残りも、その向こうの障害物も、まとめて光に飲み込まれた。


 魔獣は粒になって消え、いくつもの結晶が床へ落ちる。広くなった通路に、四人のパーティと撮影スタッフが立ち尽くしていた。


『ティア様きた!?』

『黄金龍乱入は聞いてない』

『バールさん一人の方が被害少なかっただろ』

『救援が一番壊してる』


「ティア、来ちゃったんだ」


「これも悠のせいじゃぞ。このわしを寂しがらせたばかりか、こんなポンコツ連携を見せおって。わしがおらんと何もできないではないか!」


 ティアは上機嫌だった。


 コラボ相手のリーダーは、天井に開いた穴を見上げてから、僕へ聞いた。


「いつも、こうなんですか?」


「今日は少しうまくいかなかったです」


「少し……」


 ◇


 レコーディングの合間、アイは配信画面を見て顔を覆った。


「ティア、何してるの……」


「収録へ戻るぞ。こっちは俺たちが見ても止められねえ」


 デスDはそう言いながらも、スマートフォンから目を離さなかった。


 修学旅行先では、萌が同じ配信を見ていた。


「……お兄ちゃん、今日だめだ」


 一緒にいた生徒たちも、何も言えずに画面を見ていた。


 ◇


「なんとかなってよかったね」


「本当じゃな! このティア様のおかげじゃぞ、悠。やっぱりわしらは分かち難い運命なのじゃ♡」


 ◇


 レコーディング先で、デスDがとうとう立ち上がった。


「なんともなってねえよ!!!」


最強主人公にどう苦戦させるか。その答えを、敵の強さではなくパーティ行動に置いた回です。


早すぎる、待ちすぎる、良かれと思って作戦を変える。悠は一つ一つ合理的に動いているのに、四人の連携を崩してしまいます。そして留守番中のティアは、その配信を最後まで見ていられませんでした。屋上から黄金龍となって現場へ飛び、全部まとめて解決した結果、仕事上の問題はさらに増えています。


次回、第19話「バールさん、黄金龍とデートする」。


まずはデスDの説教から。そのあと、謹慎中の二人は約束していた一日を過ごします。

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