第17話「バール様、過去を語る」
新しいスタジオに、僕たちは横一列で並んでいた。
全員、肩からタスキを掛けている。
僕は「世界最強」。
アイは「みんなのアイドル」。
デスDは「不死身のデスD」。
ティアは「巣穴の主です」。
学校帰りに参加した萌は「JK司令官」。
そして僕の隣に立てたエクスカリバールには、小さな「おめでとう!」のタスキが巻かれていた。
『なぜ我輩が最も内容のない言葉なのであるか』
「バール様も開設を祝ってるからだと思うよ」
『祝っておらぬ。あと、この布を外すのである』
「似合っておるぞ」
『黙れ、巣穴の主』
ティアには念話が聞こえるので、さっきから二人だけで言い争っている。
「ちょっと待って。始まる前から悠とティアだけで進めないで」
アイが僕たちを止め、カメラへ笑顔を向けた。
「スタジオ&事務所&ティア様巣穴開設記念! 視聴者質問回答企画~!」
僕たちはデスDに言われたとおり、そろって拍手した。
『タスキが全部ダサい』
『世界最強だけ雑に強い』
『不死身のデスD、自分でつけてんの?』
『JK司令官かわいい』
『バール様のおめでとうで耐えられなかった』
「狙いどおりだな」
デスDが満足そうに言う。
「このタスキ、デスDさんが作ったんですか?」
「正確には発注した。開設記念らしい華が要るだろ」
「華っていうか、忘年会みたい」
「数字が出てるから正解だ」
アイは納得していなかったけれど、質問を読み始めた。
「最初の質問です。『ここは本当にティア様の家なんですか?』」
「家ではない。巣じゃ」
ティアは「巣穴の主です」を両手で示した。
「DDPの事務所とスタジオでもあるけどね」
「わしの財宝を置き、悠と暮らす場所じゃ」
「僕は暮らさないよ」
「まだ部屋が空いておるだけじゃ」
『悠の部屋、本当にあるんだ』
『アイちゃんも住めば解決』
「何も解決しないから!」
次の質問はデスDへ向けられた。
「『本当に不死身なんですか?』」
「死なねえらしい。それだけだ。痛えし怪我もするし、まだ腕も上がりきらねえ」
デスDは「不死身」の文字を指で弾いた。
「このタスキのせいで、説明が全部嘘っぽくなってません?」
「作った奴に言え」
「自分ですよ」
『不死身なのに満身創痍』
『説得力あるのかないのか分からん』
「続いて、わたしへの質問! 『バールさんの番組になってますけど、アイちゃんは本当にみんなのアイドルですか?』」
「そこ疑われてるの?」
アイは立ち上がり、「みんなのアイドル」をカメラへ見せた。
「本当です! この番組の進行も、視聴者のみんなの視線を集めるのも、わたしの仕事ですから!」
『そこは堂々と言っていい』
『今日はちゃんとアイドルしてる』
『タスキはダサいけどかわいい』
「最後の一言いらない!」
萌への質問は、「JK司令官は今日もお兄ちゃんを止めるんですか」だった。
「必要なら止めます。でも今日は壊すものがないので、大丈夫だと思います」
萌が僕を見る。
「ないよね?」
「今のところは」
「今後もなしでお願いします」
『確認が早い』
『めぐ司令の安心感』
『学校帰りに世界最強を管理するJK』
「僕は管理されてないよ」
「お兄ちゃんはそう思ってていいよ」
僕の「世界最強」についても質問が来た。
「『バールさんは本当に世界最強なんですか?』」
「分かりません。僕より強い相手がいるかもしれないので」
「エクスカリバールを持った悠より強いものなど、そうはおらぬぞ」
「ティアも強いよ」
「そういうところじゃ。少しは誇ってもよかろうに」
『本人だけ世界最強を認めてない』
『そんな正式名称だったんだw』
『無駄にかっこいい』
『聖剣か』
『じゃあエクスカリバールって何なんだよ』
『そもそも何でバールなの?』
『誰が作ったの?』
同じ質問が一気に増えた。
デスDが確認画面を見る。
「ここだな。今日一番、視聴者が聞きてえのは」
「どこまで話していいの?」
アイが小声で僕に聞いた。
僕はエクスカリバールへ尋ねた。
「バール様。話してもいい?」
『我輩を何だと思っておるかと問われ、黙っている理由はないのである』
「自分で答えるそうです。ただ、バール様の声は僕とティアにしか聞こえないので、僕が伝えます」
『バール様、喋れるの!?』
『いつも会話してたのマジだったんだ』
『ティア様にも聞こえるんだ』
ティアがエクスカリバールの横へ移動した。
「わしが証人になってやろう。こやつは話を大きくする必要がないほど、元から大迷惑な存在じゃ」
『余計な前置きをするでない』
エクスカリバールの声から、さっきまでの軽さが消えた。
『我輩は、破壊神である』
僕がそのまま伝えると、コメント欄に笑う反応が並んだ。
けれどティアは笑わなかった。
「冗談ではないぞ。わしらの世界で、こやつは本当にそう呼ばれておった」
『我輩に善悪はない。敵も味方もない。壊せるものがあれば壊す。それが我輩である』
エクスカリバールが力を振るえば、城壁も結界も大地も残らなかった。止めようとした者は大勢いたが、破壊そのものを殺すことはできなかった。
「倒せなかったの?」
アイが聞いた。
「うん。僕も倒せなかった」
異世界での旅の最後、僕たちはエクスカリバールと戦った。
攻撃を受け止めても、魔法を防いでも、周りの方が先に壊れていく。僕とティアが力を合わせても、完全に消すことはできなかった。
『ゆえに、汝らは我輩を器へ封じることを選んだ』
「殺せないなら、封印するしかなかったんです」
『我輩を収める器には、封印を維持する者の強い像が必要であった。汝は、最も信頼できる武器を思い描けと言われたのである』
「そうだったね」
僕は、壊れにくく、構造が単純で、余計な機能がなく、必要なときに確実に使えるものを考えた。
剣の形にこだわる必要はない。切るより殴る方が対象を選びやすく、隙間へ差し込めて、扉も開けられる。道を塞ぐものがあれば、壊して進める。
「それで、これになりました」
僕は「おめでとう!」を掛けたエクスカリバールを持ち上げた。
『なぜである!』
『そこでバールになるの!?』
『最も信頼できる武器=バール』
『勇者の武器選びが現場作業員』
『見た目の謎が解けたのに謎が増えた』
「光が収まったら、この姿だったんだよね」
「あのときのこやつの絶叫は、今でも覚えておるぞ」
「何て言ったんですか?」
萌が尋ねる。
「『我輩を何に封じたのであるか!』じゃった」
『言わなくてよい!』
「バール様は名前が必要だと言ったので、僕がつけました」
「待って。嫌な予感がする」
アイが止めようとしたけれど、もう答えは知られている。
「伝説の剣みたいに強くて、バールのようなものだから、エクスカリバールです」
『その安直な命名を誇らしげに語るでない!』
『エクスカリバー+バールだったのかよ』
『駄洒落で破壊神の名前決める勇者』
『バール様かわいそう』
『でも似合ってる』
エクスカリバールが震えた。
『悠よ。この布と建物を壊すのである』
「開設記念だから駄目だよ」
『我輩へ恥を重ねた場所であるぞ』
「でも、みんな喜んでるよ」
『我輩は喜んでおらぬ!』
声はいつもの調子に戻っていた。
「最後にもう一つ。『バール様は、バールさんのことをどう思っていますか?』」
アイが質問を読み上げる。
『我輩は破壊する。悠は壊すものを選ぶ。それだけである』
「それだけ?」
『我輩を恐れず、崇めず、ただ使い続けられる者は他におらぬ』
僕が言葉を伝えると、コメント欄が一瞬だけ静かになった。
「僕にとっても、バール様は一番信頼できる武器です」
『武器ではない。神である』
「今日は『おめでとう!』だけどね」
『今すぐ外すのである!』
破壊神は改心していない。
今も、何かあれば壊せと言う。
ただ、その力が僕の手にある間は、何を壊すかは僕が決める。
開設記念配信で一番注目されたのは、新しいスタジオでも巣でもなく、「おめでとう!」のタスキを掛けた世界最悪の破壊神だった。
配信を締めようとしたところで、もう一つ質問が流れてきた。
『バール様って、バールさん以外でも使えるの?』
「どうなの、バール様?」
『こやつ以外が我輩を振るえば……その肉体は耐えられぬであろうな』
僕がそのまま伝えると、コメント欄が騒ぎ始めた。
『ガチの破壊神やん』
『諸刃の剣…じゃなかったバール』
そこで終わるはずだった。
『でも待てよ』
『デスDなら……死なないんじゃね?』
設定開示の多いQ&Aを、説明会ではなくちゃんと配信企画として読める形にするのが今回の課題でした。ダサいタスキ、コメントの脱線、デスDの進行を挟みながら、エクスカリバールの正体へ近づいていきます。
正式名称が妙に格好いいこと。かつて討伐不能の破壊神だったこと。悠以外が振るえば肉体が耐えられないこと。危険性を明かした結果、視聴者は当然のように、一番試してはいけない組み合わせへ気づいてしまいました。
次回、第18話「元勇者、初めて苦戦する」。
ただし相手は強敵ではありません。悠が初めて苦戦するのは、他人との連携です。




