↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/27

第16話「元勇者、ドラゴンの巣作りに巻き込まれそうになる」

「全員、よくやった。今回はボーナスを出す」


 デスDが、DDPの机へ三枚の明細を並べた。


 A級ダンジョンの調査案件は成功した。異常なコアの映像も残り、暴走を止め、全員が帰ってきた。依頼元から支払われた報酬は、今までの配信収益とは比べものにならないらしい。


 デスDの片腕にはまだ包帯が残っている。


「デスDさんの治療費を先にした方がいいんじゃないですか?」


「必要な分は別に確保してある。これはお前らの取り分だ」


「桁、間違ってない?」


 アイが明細を見直す。


「間違ってねえ。命張ってA級を片づけたんだ。会社だけ儲けて出演者へ出さねえ方がおかしいだろ」


「おぬしが一番命を張っておったがの」


「次はもう少し離れて撮りますか?」


「撮れなくなるほどは離れねえよ」


 死なないと分かっても、撮り方を変える気はないらしい。


 ティアは自分の明細を両手で持ち、書かれた金額を何度も数えていた。


「数字だけでは宝らしくないのう」


「使えば家具でも金でも買えるよ」


「金も買えるのか?」


 ティアの尻尾が勢いよく椅子を叩いた。


「全部を金に換えるのはやめてね。生活に必要なお金も残して」


「宝は生活に必要じゃぞ」


「ティアにとってはそうなんだね」


「これだけあれば、巣が作れるの」


「巣?」


「うむ。地上へ来てから、わしには宝を置く場所がなかった。悠の近くに落ち着ける巣を構えるのじゃ」


「今までどこに置いてたの?」


「大事なものは持ち歩いておる」


 ティアは僕を見た。


「僕は置いてないよ」


「まだの」


「今、『まだ』って言った?」


 アイが反応した。


 デスDはすぐにカメラを持ち上げようとして、包帯の巻かれた腕を押さえた。


「決まりだ。次の企画は、黄金龍の巣作り」


「これはわしの私生活じゃぞ」


「物件の場所と個人情報は出さねえ。見せていい範囲だけでいい」


「報酬を出した直後に企画へ戻すんだね」


「金を使うところまで撮って初めて経済が回る」


 よく分からないけれど、ティアは自分の巣を大勢に見せることには乗り気だった。


 ◇



 巣作り配信を始めてから、ティアはいくつもの候補を見て回った。


 一つ目は、宝を置く場所が狭いという理由で却下した。二つ目は床が頼りない。三つ目は僕が今住んでいる場所から遠い。


「最後のは物件の問題じゃないよね?」


「最重要条件じゃ」


『駅からの距離より悠からの距離』

『ドラゴン向け物件情報に載ってない条件』

『宝物本人が内見に同行してる』


 ティアは間取りを見るたび、財宝の場所と僕の寝床へ印をつけた。僕は住むと答えていないのに、寝床だけは毎回用意されていた。


 そのあと、僕たちはティアが一番気に入った建物を見に来た。


 外から細かい場所が分からないようにして、建物の中だけを配信している。広い部屋と高い天井があり、奥には物をしまえる場所もある。住居というより、事務所や撮影場所として使う方が合いそうだった。


「ここなら黄金龍の姿でも入れますか?」


 アイが天井を見上げる。


「無理じゃ。わしを何だと思っておる」


「ドラゴン」


「そうじゃった」


『ティア様でも入れない巣』

『龍形態基準で物件探すな』

『天井なくせば入れるぞ』


「バール様で壊しますか?」


「壊すな。借りる前から物件を更地にするな」


 デスDのツッコミがすぐに飛んできた。


 ティアは小さな姿のまま部屋を歩き、壁や床を確かめる。奥の一番広い部屋で立ち止まると、満足そうにうなずいた。


「ここなら悠と暮らすに十分じゃ」


「僕も住む前提なんだ」


「当然じゃろ」


『当然なんだ』

『巣作りというか新居では?』

『アイちゃん聞いてる?』


「聞いてる! ティア、悠は一緒に住むなんて言ってないからね」


「わしの巣には、一番の宝を置くに決まっておろう」


「宝って僕?」


「他に誰がおる」


「それなら、僕の家の近くに借りれば十分じゃない?」


「近くにあるのと、巣にあるのは違うのじゃ」


 ティアにとっては、とても大きな違いらしい。


 建物自体は気に入ったので、僕たちは契約の話へ進んだ。


 そこで問題が起きた。


「借りられぬとは、どういうことじゃ?」


 ティアには現世の戸籍も、契約する本人だと確認できる書類もない。小さな姿から成人女性の姿に変わって見せても、同じだった。


「わしは黄金龍ティアじゃぞ。本人が本人だと言っておる」


「姿を変えた直後に言うと、余計に難しいと思うよ」


「ならば悠。名を貸せ」


「僕の名義で借りればいいの?」


「駄目!」


 アイが僕より先に答えた。


「実際に使う人を隠して借りるのは駄目。何かあったら、悠が全部責任を負うことになるでしょ」


「壊しませんよ」


「壊すかどうかだけが問題じゃないの!」


 学校帰りにDDPへ来ていた萌にも相談すると、答えは同じだった。


「お兄ちゃん。ティアさんが使うなら、ティアさんが使うって説明して借りないと駄目だよ」


「二人とも同じことを言うね」


「普通のことだからね」


「それに、悠の名で借りれば、そこは悠の巣でもあることになるのじゃ」


 ティアが付け加えた。


「やっぱり一緒に住ませるつもりだったんじゃない!」


「当然じゃろ」


「だったら、わたしの名義で――」


「お前も個人で背負おうとすんな」


 デスDが止めた。


「何で対抗して名義を差し出す流れになるんだ。会社で借りられるか確認する」


 デスDは椿さんへ連絡した。


『個人名義を借りる形にはしないでください。DDPが使用目的を説明し、事務所、撮影場所、ティアさんの生活拠点として正式に契約できる条件を整えます』


「ティアが巣として使うのも説明するんですか?」


『当然です。黄金龍の巣を隠して契約した前例など作りたくありません』


「前例はないんですね」


『ないので、今から作ります』


 話し合いの結果、建物はDDPが借りることになった。新しい事務所兼撮影場所として使い、ティアの生活拠点にもする。費用や使い方は、隠さず条件を整えることになった。


 ティアはボーナスから必要な費用を出し、残りで巣の中身を揃えることにした。頑丈な棚、大きな寝台、鍵のかかる保管場所。それから、金色の敷物やクッションを次々に選んでいく。


「本物の金は買わないの?」


「まずは巣を整えるのが先じゃ。財宝はこれから増やせばよい」


「意外と計画的なんだね」


「何百年使う巣になるか分からぬからの」


「借り物だってことは忘れるなよ」


「事務所兼巣穴じゃな」


「巣穴兼事務所じゃ」


「会社の方を先に言え」


『DDP、ついに巣を持つ』

『底辺事務所からドラゴンの巣へ』

『出世の方向がおかしい』


 配信が終わったあとも、ティアは楽しそうに部屋を見て回った。


「ここには財宝を積む。こちらには大きな寝台が要るの。アイと萌が来たときの場所も作ってやろう」


「わたしたちも宝扱い?」


「悠が大切にしておるものは、わしにとっても価値があるからの」


 所有されることには納得できないらしく、アイは複雑な顔をした。萌は少し考えてから、僕を見た。


「お兄ちゃんの部屋も作るの?」


「もちろんじゃ」


「僕は住まないよ」


「今は、じゃろ?」


 ティアは上機嫌で尻尾を振り、奥の一番広い部屋へ僕の名前を書いた紙を貼った。


 DDPの新しい事務所ができたはずなのに、僕の寝床だけは最初から決められていた。


ドラゴンが大金を手に入れたら巣を作る。そこまでは自然ですが、現代日本では戸籍も本人確認書類もないので、物件を借りられません。


今回は制度の細部を勝手に作らず、「名義だけ貸すのは駄目」「用途を説明し、DDPの事務所兼撮影場所兼生活拠点として借りる」という着地にしました。問題は解決したはずなのに、ティアは最初から悠の部屋まで用意しています。事務所と巣穴の境界は、かなり曖昧です。


次回、第17話「バール様、過去を語る」。


新拠点の開設記念配信。全員が妙なタスキをかけ、視聴者の質問に答えます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。