9話「撃破」
空間が、限界を迎えていた。
崩れかけた悪きものが、周囲を軋ませている。
圧が重い。
息をするだけで、肺が押し潰されそうだった。
逃げ場はない。
「……まだ、足掻くのか」
大和は低く呟いた。
炎を纏う刀を握り直す。
歪みが動く。
最後の抵抗。
空間が一気に圧縮される。
潰す。
その意志だけがはっきりと伝わってくる。
「来るよ」
静紀の声は短い。
余計な言葉はない。
次の瞬間、静紀が動いた。
結界が展開される。
それは“守る”ための形ではなかった。
それは、動きを止めるための結界。
悪きものの動きが止まる。
隙が生まれた瞬間——
「……そこだ」
大和は踏み込んだ。
身体はすでに理解していた。
悪きものを、目掛け一閃。
炎が走る。
刃が切り裂く。
迷いはない。
ただ一直線。
音が遅れてやってくる。
次の瞬間、悪きものは崩れた。
「……終わったな」
大和が息を吐く。
肩で呼吸を整えながら、刀を下ろした。
炎がゆっくりと消えていく。
静紀も結界を解いた。
張り詰めていた空間が、一気にほどける。
さっきまでの圧が嘘のように消えている。
風の音が、やけに遠い。
「……うん」
静紀が小さく答える。
それだけだった。
それだけなのに、さっきまでとは違う距離がそこにあった。
近いのに、少しだけ違う。
言葉が続かない。
沈黙だけが落ちる。
その静けさの中で、静紀は封域と現世をつなぐ。
かざした手の前の空間が揺らぐ。
境界がゆっくりと開き、歪みの残滓が封域へと引かれていく。
大和はその様子を見ていた。
「……そういうこともできるんだな」
ぽつりと呟く。
静紀は答えない。
ただ、淡々と処理を続ける。
やがて悪きものはすべて封印へと還り、夜の空気だけが残った。
⸻
支援要請の式神が届き、現場に着いた頃には、すでに決着はついていた。
長谷部は目を細め、顎を軽く触れる。
戦いを想定して同行していた長谷部のバディ、山手が息を吐いた。
「……初陣にしては上出来だねぇ」
長谷部は視線を細めたまま言う。
「さっきまで喧嘩してたのに、あの連携か」
山手は肩をすくめる。
「結番ってのは、そういうもんさ」
その声は軽い。
だが、その評価は確かだった。




