最終話「変化」
戦いの翌日。
何もなかったかのように、日常は始まる。
教室のざわめき。窓の外の光。聞き慣れた声。
すべてが、昨日と変わらない。
それなのに——
どこか現実感が薄い。
まるで、自分だけが少しズレた場所に立っているような感覚が残っていた。
大和は、机に肘をつきながら、小さく息を吐いた。
身体の奥に、まだ熱が残っている。
炎の感覚。
そして、もう一つ。
意識しようとしなくても、ふとした瞬間に浮かぶ気配。
静紀の存在が、どこか近い。
繋がっている——そんな違和感。
無意識に、その気配を探ってしまう自分がいた。
一方で静紀もまた、変化を感じ取っていた。
神力の流れが、以前とは違う。
自分一人のものではない感覚。
結番によって生まれた、“他者と繋がる状態”。
それを、はっきりと自覚している。
変わった。
それだけは、互いに分かっていた。
だが——言葉にはできない。
昼休み。
教室で、自然と距離が近くなる。
以前とは違う距離。
近いのに、どう詰めていいのか分からない。
沈黙を破ったのは、大和だった。
「……昨日の怪我は大丈夫か」
静紀は、いつも通りの調子で答える。
「大丈夫。山手さんに治してもらったから」
「……そっか」
短いやり取り。
普段なら、それだけで終わるはずだった。
だが、大和はふと思い出したように続ける。
「そういえばお前、夜会ではさんざん言ってくれたよな」
拗ねたような声音。
軽口のようでいて、どこか引っかかりが残っている。
「あー……、うん。ごめん」
静紀は気まずそうに視線を逸らした。
しばらく、大和の小言が続く。
そのやり取りは、どこか昔に戻ったようで、わずかに、空気を和らげていた。
やがて、言葉が途切れる。
数秒の沈黙。
そのあとで——
大和が、ぽつりと口を開いた。
「これからよろしくな」
軽い言い方だった。
だが、その奥には確かな覚悟がある。
静紀は、ほんの少しだけ間を置く。
そして、静かに答えた。
「……無理しないでね」
二人の距離は、確かに縮まった。
だが、すべて分かり合えたわけではない。
信頼が完成したわけでもない。
それでも——
もう、以前のような他人には戻れない。
チャイムが鳴る。
いつもの日常が、また動き出す。
何も変わらないように見える世界の中で——
確かに、変わってしまったものがある。
見えない繋がり。
その感覚だけが、静かに残っていた。




