2話「遭遇」
放課後。
大和は、いつも通り帰路に着く。
桜がはらはらと舞う通学路。見慣れた景色。
ふと違和感を感じ取る。
空気が少し重い。
音も、どこか遠くに感じる。
「……またか」
大和は足を止めなかった。
こういうことは、たまにある。
気にしても仕方がない。
普段通り無視しようとしたが、今日はいつもより異常だった。
看板の文字が歪み、文字がおかしい。
曲がり角が増えたように見える。
さっき通ったはずの道をまた通っている。
周りの人は普通に歩いている。
スマホを見ていたり、笑っていたり。
でも、大和だけが気づいていた。
「なんか、おかしいな……」
その時だった。
空気が止まる。
音が消える。
人の気配がなくなる。
「……え?」
大和は立ち止まった。
目の前の景色がゆっくりと変わっていく。
まるで別の場所に来たような感覚だった。
そして、それは現れた。
形ははっきりしない。
黒い影のようなもの。
だけど、こちらを見ているのは分かる。
「……なんだよ、これ」
大和は後ずさる。
でも、逃げられない。
体が少し重くなる。
足が思うように動かない。
「来る……!」
大和に向かい、影が両手を伸ばす。
その瞬間。
「させないよ……」
聞き覚えのある声がした。
振り向くと、白に近い灰色の髪が揺れる。
静紀だった。
静紀と影の間に、薄い壁のようなものが浮かんでいる。
それは盾のように見えた。
攻撃ではなく、守るためのもの。
影の攻撃を、はじくように動く。
大和は思わず竹刀を構えた。
でも、その瞬間。
「来るな」
静紀の声で、体が止まった。
その声は、命令じゃなく“境界線”だった。
静紀は敵を攻撃しない。
ただ、外へ押し返すように動いている。
やがて黒い影は、ゆっくりと消えていった。
静かになる。
さっきまでの異常が、うそのようだった。
元に戻っている。
人の声も聞こえる。
夕方の普通の景色。
「今の、何だったんだ」
大和は静紀を見る。
静紀は少しだけ黙ったあと、言った。
「……見なかったことにして」
「なんでだよ」
大和は思わず声を上げた。
「なにを隠しているんだ!?」
静紀は目をそらさない。ただ、淡々としている。
「関係ないからだ」
それだけ言うと、背を向けた。
大和はその場に立ち尽くす。
納得できない。
でも、追いかけることもできなかった。
その時だった。後ろから声がした。
「君、見えてるね」
振り向くと、男が立っていた。
どこか軽い雰囲気の男。
その男は、にこっと笑った。
「ちょっと話、しようか」
夜は、始まったばかりだ。




