表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/20

6話「噛み合わない」

夜は、完全に祭りを飲み込んだ。


提灯の灯りが連なり、通りを赤く染める。

人の声は途切れず、笑い声と呼び込みが重なる。


その中に、確かに“濁り”があった。



「さっきよりタチ悪くなってねぇか」



大和が眉をひそめる。



「……うん」


静紀の返事は短い。


視線はすでに、人混みの奥へ向いていた。



——来る。



空気が揺れた。



人の流れの隙間から、悪きものが滲み出る。


一体、二体——さらに奥にも、気配。


 

「チッ……」


 

大和は迷わず踏み込んだ。


間合いに入り、刀に炎を纏わせ、斬る。


それだけで終わるはずだった。


同時に、静紀が結界を展開する。


——はずだった。


刃が届く、その直前。


『そっちじゃない』


「……っ」


大和の動きが、わずかに止まる。


ほんの一瞬。


それだけで、軌道がズレた。


斬り損ねた影が、横へ逃げる。


「くそっ」


追おうとしたその背で、


『ちがう』


静紀の指先が止まる。


結界の展開が、わずかに遅れる。


位置が、ずれる。


「——っ!」


 

噛み合わない。

 


最初から、全部がズレている。



影が一体、二体と人混みに紛れる。


 

「待って、人が——」



静紀が声を上げる。


だが、その前に。


大和はもう踏み込んでいた。

 

振り抜かれる刃。


だがその先に、人影が割り込む。


「っ……!」


大和は無理やり軌道を変える。


すぐ横を、人が通り過ぎる。

だがその視線は、こちらにも、影にも向かない。


——見えていない。


はずなのに。


一人の子どもが、足を止めた。


影の方を、見ている。


「……っ」


静紀の呼吸が、わずかに乱れる。


結界を広げる。


人の視線を逸らす。

巻き込まないように。

 


だが。



広がりが、鈍い。


引っかかる。



「……なんで、ズレるの」


小さく漏れる声。


——自分のせいだ。




その隙間を縫って、影が動く。


『……えらばれた』




『……ちがう』


 

声が、重なる。


 

場所も、距離も、わからない。



「っ……!」



判断が、遅れる。


守るべき位置が、定まらない。


「……邪魔だ、静紀!」



大和の声が飛ぶ。


「守ってる!」


静紀が返す。


互いの声が、ぶつかる。


影が、子どもの方へ滑る。


「下がって!」


静紀が結界を広げる。


その分だけ、大和の動きが制限される。


「くそっ……!」


踏み込みが遅れる。


距離が足りない。


影が、手を伸ばす。



「——危ねぇ!」



大和が無理やり踏み込む。


間に合わない。




——そう思った瞬間。


刃が、かすめた。


 

影は弾ける。



だが同時に、大和の腕に浅く裂ける痛みが走った。



「うっ……!」


血が滲む。


「……っ」


静紀が言葉を失う。


——間に合わなかった。



その事実だけが、重く残る。



その後も、いくつかの悪きものを処理した。


倒している。


——はずなのに。


消えた感触が、ない。


一つも、気持ちよく終わらない。


祓っても、祓っても。


影は、尽きない。


「…………」



大和は何も言わない。


 


「………」


 


静紀も、口を開かない。


 


視線も合わせないまま、ただ前を見る。


 


連携は、もうない。


 


気づけば、川沿いに出ていた。


人の声が、少し遠くなる。


水音だけが、一定のリズムで響く。


風が、止む。


音が、薄れる。


 


その中で——



『……いけにえ』



はっきりと、聞こえた。


 

静紀が、顔を上げる。


 


「……違う」


 


初めて、言葉にする。


 


だが、それが何を否定しているのかは、自分でもわからない。


 


沈黙が落ちる。


 

ただ——


確実に噛み合っていない。


それだけが、はっきりしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ