表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/20

1話「結番講習」

 春の風が、校舎の窓をやわらかく揺らしている。


 "桜恵祭"を間近に控え、校内はどこか浮き足立っている。


 廊下では祭りの話題が飛び交い、笑い声が絶えない。



 そんな中——食堂だけは、いつも通りだった。



「……うまっ」


 

 朝日大和は、山盛りの定食を豪快にかき込む。


 周囲の生徒たちはちらりと視線を向けるが、すぐに苦笑して視線を戻した。


 ——いつもよく食べるな、という顔だ。


 だが、その隣。


 夜月静紀は、同じ量を無言で食べていた。


箸の動きは静かで、整っている。


 表情も変わらない。


 ただ、量だけが異常だった。


「……え」


 近くの生徒が思わず声を漏らす。


 

「大和は分かるけど……夜月もあんな食うのかよ……」


「無理だろ、あれ……」


 ざわ、と小さく空気が揺れる。


 


 大和はちらりと静紀を見る。


 

「……何?」


 静紀は顔も上げずに言う。


「お前、細い体のどこにそんなに入ってくんだ?」


「さぁ?」


 会話はそれだけ。

  


 それでも——前よりも隣にいるのが心地よく感じるようになっていた。


 



 


 放課後。


 二人が向かったのは、夜会の拠点——古びた和風の屋敷だった。


かつては神社の社務所か何かだったのか、敷地には今も神域のような空気が残っている。


 いつ来ても現実からかけ離れた異質な空気を感じる場所だ。



「……やっぱここ、空気おかしいよな」



「神骸の影響が濃い場所だから」



 


 そのまま玄関へ足を踏み入れた瞬間——


「やあ、新人」


 低い声がかかる。



 視線の先にいたのは、二人の男だった。



 一人は気だるげに立つ長谷部。


 もう一人は、穏やかな笑みを浮かべている山手だ。


「今日の講習は、私たちが担当だよ」


山手が言う。



「よろしくなー。新人」


 長谷部が軽く手を上げた。

 



 


「さて、と」


 


 山手がゆっくり口を開く。



「まずは簡単に、この町のことから説明しておこうか」




 静かな声で語られる。


 


 恵伏町。


 神骸が眠る土地。


 そして——“悪きもの”。


 


 大和は眉を寄せた。


 


「……ちょっと待ってくれ」


 


「うん?」


 


「つまりさ、それって倒しても終わりじゃないってことか?」


 


 山手は小さく頷く。


 


「そうだね。倒すだけじゃ、意味がないんだ」


 


 


「この町の“悪きもの”はね——神骸の力を取り込んでいる」


「普通の霊能者が祓っても、いずれまた戻ってくる」


 

「じゃあどうすんだよ」



「だから、“結番”が必要になる」


 


 山手の声は、変わらず穏やかだった。


 


「契が祓い、鍵が“行き先”を決める」



「行き先……?」


 


「悪意のないものは“幽世”へ返す」


「危険なものは“封域”に送る」


 大和が頭を押さえる。



「倒すだけじゃダメで、送る場所が二つ?その場所は鍵にしか開けない??」


山手が小さく笑った。


「そういうこと」


その横で、静紀が静かに口を開く。


「……幽世は“帰る場所”、封域は“隔離”」


「そう考えればいい」



「……なるほどな……いや分かったような分かんねぇような……」


 


「頭がパンクしそうになってるな」


 長谷部がぼそりと挟む。


 

「うるせぇな!」


 

 即座に返す大和。


 その様子に、山手が軽く肩をすくめた。



「まあ、細かい話はおいおい覚えようか」


「頭を使った後は体を動かすぞー」


長谷部の気の抜けた声がいう。


 「訓練場に行こうか」


 ———


 訓練場。


「じゃあ今度は実践体験だ」


山手が空に向かって何枚か札を投げた。


 一角に、白い影が数体現れた。


 人の形をしたそれは、顔に大きく「式」と書かれている。



「式神だ」


 長谷部が言う。


「訓練用だが、“悪きもの”を想定してる」


 

「レベルで言えば?」


 

「……1か2ってとこかな」




「へえ……」


ゆらゆらと動く式神を大和は興味深そうに見る。


「弱そうだな」

 


「言ってろ」



その言葉が終わるより早く——


 

「行く!」


 

大和が地面を蹴った。


 

一気に距離を詰める。


炎を纏った刀が式神を斬る。

抵抗する間もなく、霧のように消えた。



「よし!」


その背後で、静紀が手を上げる。



「……結界、展開」


 


淡い光が広がり、大和の動きを支えるように場を整える。


攻める者と、支える者。


一見すれば、理想的な形だった。


次々と式神が現れる。


大和が斬り、静紀が援護する。


危なげなく、すべてを処理していく。


やがて、最後の一体が消えた。


 「……こんなもんか?」


 長谷部は少しだけ間を置き、


「……まあ、こんなもんか」


 

 それだけ言った。




 だが——


 


 どこか、引っかかる空気が残る。


 静寂の中。


 山手がゆっくりと口を開いた。


「結番はね」


穏やかな声が、静かに響く。


「“一人で強い”じゃ意味がないんだよ」


わずかな沈黙。


 静紀の視線が、ほんのわずかに揺れる。


「……」


 何かに気づきかけているような、そんな表情。


 一方で——


(……大したことないな)


大和は、そう思っていた。


戦えた、問題なかった。


 


 ——なら、十分だろう。

 

その認識のズレに。


まだ、誰も気づいていなかった。


 春の風が、訓練場を静かに抜けていく。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ