第9話「陽炎の眠り」
「ケセラム遺跡の入り口か」
グンダが剣を握り締める。洞窟へ入ると、真っすぐに続く道を進む。
やがて部屋のような場所に出ると、檻が置かれていた。
ガチャガチャと鈍い音を出して、中で動いているのは頭のない四本足の生き物だった。
部屋は行き止まりで、奇妙な生き物はこちらに気付いているのか分からないが、暴れる様子もなく行き来している。
スギヤマが檻の前に立ち、吸い寄せられるように覗く。
するとスギヤマの頭の中に声が響いてくる。
「不死ならざる者よ、陽炎の眠りを求めよ」
スギヤマの視界が塞がれていき、暗闇に包まれる。
グンダとシティスの声も聞こえない。
やがて目が暗闇に慣れると、遠くに螺旋階段が見える。
近付こうとするが辿り着かない。
足元が沈んでいく、水に体が包まれるが息は出来る。
骨だけの魚が泳いでいる。
沈んだ底に足が着くと、青い紐が床に伸びている。
辿っていくと朽ちかけた箪笥が置いてある。
中を調べると鍵が入っていた。
鍵を手にすると、出口を求めて歩く。
奥から足の生えた球根の群れが移動してくる。
現れた方へ向かおうとすると急な下り坂になっており、慎重に進んで行く。
坂を下り終えるとシーソーが置いてあり、片方に頭陀袋を被った人のような者が座っている。
その者はこちらへ向かって手招きをしている。
シーソーに座るとシーソーごと下に沈んでいく。
いつの間にか被り物をした人は消えていた。
シーソーが止まると降りて進む。進んだ先は巨大な檻だった。
檻の外に頭のない四本足の生き物が座っている。
檻にかかっている鍵を先ほど手に入れた鍵で開ける。
頭のない生き物がこちらにやってくると、頭のない部分から勢いよく黒い液体が噴き出す。
スギヤマは顔に浴びると意識が遠のいていく。
「スギヤマ!どうした!」
グンダが必死に呼びかける。
スギヤマは気が付くと膝をついて檻の前に座っていた。
檻の中の生き物は何事もなかったかのように行き来している。
「陽炎の眠りを求めよという声が……」
「こんな部屋で陽炎は発生しないぞ、檻の中か、壁か、何かあるはずだ」
グンダが辺りを探る。
「あの床、模様が描かれています」
スギヤマが指で示す。
床に描かれていたのは揺らいだ景色の絵だった。
「これが陽炎か」
「この床、外れるぞ」
スギヤマが模様の描かれた床を持ち上げ、裏返しにする。
ゴゴゴゴゴと音が響き、壁が動き、道が現れた。
淡い光を放つ道を進むと開けた空間に出る。
広間には斧を持った騎士と豹の像が並んでいた。
隅に装飾の施された箱が置いてあり、開けようとするが鍵が掛かっていて開かない。
「スギヤマ、壊してくれ」
グンダが頼み込む。
「鉄鋼!」
力を込め鍵の掛け金に向けて拳を振り下ろす。
小さな掛け金に上手く力が加わらず壊れない。
箱に衝撃を与えて鍵を外そうとしたところ、シティスが何かを見つける。
「天井から何か落ちて来た!」
振り返ると、蛸のような巨大な生物がうごめいている。
ぼとりぼとりと次々に落ちてきてその数は三匹になった。
大きさは2メートル程で触手を上下にゆらゆらと揺らしていたかと思うと、素早い動きでシティスに向かって飛び掛かる。
咄嗟に避けると何か聞き取れない言葉を発し始める。
辺りの空気が冷え、鋭い氷の塊が宙に現れると、こちらに向かって飛んで来る。
シティスが避け切れずに腕を切り裂かれる。
グンダが剣で斬りかかるが、一体を相手にしている間に氷の刃が飛んで来る。
防御の得意なスギヤマが体を固め拳を振り下ろすが、柔らかな体に攻撃が通らない。
シティスは術を唱えようとするが傷の痛みで狙いが定まらない。
「俺がこいつらを抑えます!」
スギヤマが提案すると、蛸の腕と密着して呪文の詠唱を中断させる。
その隙にグンダが剣で蛸の触手を切り落としていく。
緑色の血を噴き出して倒れると、残りの二体も切り刻まれ動かなくなった。
「大丈夫か」
スギヤマがシティスの傷を気に掛ける。
「深く切られたみたい、血が止まらない」
スギヤマが服を破り止血する。
「ありがとう」
「箱の中身を確認したら引き返すぞ」
グンダが落ち着いた様子で言う。
再びスギヤマが箱に力を加えると、鍵が壊れ箱が開いた。
中に入っていたのは更に容器に入った透明な円盤だった。
「何だこれは、また外れか」
「CDのような物みたいですね」
「CD?分からんが宝剣でないのは確かだ。やれやれ」
スギヤマが箱の中身を鞄にしまうと、広間を後にする。
元来た道を戻り外に出ると雷鳴は収まっていた。
港へ向かい船を待つ。
「次は西にあるズードゥ遺跡を探索する。噂では武器が祀られているという。期待は高い」
グンダが腕組みをしながら話す。
しばらく待ち、船がやって来たので乗り込むと、疲れからかそれぞれすぐに眠ってしまった。




