第3話「犬頭の男」
「まぁ好きな物を頼みなよ」
メニューを見て見慣れない単語に驚くが、空腹だったため片っ端から頼んでいく。
「まずは自己紹介をしようか。俺の名前はグンダ。この国にはとある物を探しに来た」
「スギヤマです。海で漂流していたところ、船に拾われて流れのまま来ました」
日本の事を説明しようか迷ったが、もう少しこの世界の事について知ってから解決策を見つけようと考えた。
一先ずは生活する方法を模索する必要があった。
「それは奇矯な成り行きだな。だが、不思議には思わん。何故なら刻晶を持つものは天より現れるという言い伝えがあるからだ」
「刻晶とは何なんですか」
「詳しくはわからん。ただ、各地で異能を持つ者が現れ、混乱が起こり始めているという話だ」
異能。明らかに異常な生き物と戦い、傷を負わなかったのはその力のおかげだった。
これまでの生き方をまるで変えてしまう出来事が立て続けに起こっている。
それは食事でも同じだった。
甘みを含んだ肉を頬張り、突き刺すような酸味のある飲み物で喉を潤す。
食べた事のない味だが、満足度は高い。
口に合わないような異国の料理かと思ったが、また食べたいと思わせる数々だった。
「それで君の力を見込んで頼みがある。一緒に幻瑚の宝剣を探さないか。食事と宿代は払う。それなりに蓄えはあるのでね」
思ってもみない依頼だった。慣れない土地で仕事を見つけるよりは、割のいい報酬だと考える。
「協力しましょう」
「おお、ありがたい。早速だが、目的地として各地の遺跡を巡る。一番近い場所はダンテッヒ遺跡だ」
空腹が満たされると、眠気がやってくる。
宿へ向かい一日の疲れを取る事になった。
翌朝、準備として武器が必要かという事になり短剣を購入してもらった。
数日分の食品を買い込み、遺跡へ向けて出発する。
道を進んでいると小型の熊のような群れに出会う。
「ダープだ。こちらから近づかない限り襲ってこない。しばらくやり過ごそう」
焚き火をして休息を取り、乾燥肉を齧りながら遺跡についての詳細を確認する。
「盗掘者から侵入を防ぐ機構が仕掛けられているという噂だ。慎重に進もう」
草原に入り、じりじりと照り付ける陽射しに体力を奪われる。
しばらく進んでいるとゴーグルをかけた男がこちらに向かってくる。
「あんたら金持ってんだろぅ?置いてけよ」
銃を取り出し、こちらに向ける。
グンダが剣に手を掛けながら話す。
「怪我をするぞ、やめたほうがいい」
「ああ?お前たちがな!」
発砲音が響く。身構えていた体は銃弾を弾いていた。
「くそっ、どうなってやがる!」
男は弾を撃ち尽くすと、呆然と立ち尽くす。
「行こう。構っている暇はない」
ゴーグルの男をやり過ごし、草原を進む。
変わらない光景に疲れが滲む。
すると、首の辺りがズキズキと響く。
体が熱くなったかと思うと、いつか見た浮遊する小動物が現れた。
「やぁ久方ぶりだね。順調そうで安心だよ。ご主人の健康が僕の健康だからね」
グンダは気付いている様子はない。試しに聞いてみる。
「この生物を知っていますか?」
「何も見えないが、どうした?」
お互いに怪訝な表情を浮かべる。どうやら見えていないようだ。
「僕は霊体みたいな存在だからねー。今は力の目覚めの報告くらいしか出来ないよ。この言葉を唱えてみて。……鉄鋼」
言われた通り呟くと、腕の筋肉が隆起し、手が光を帯び始めた。
「岩でも砕ける強さだね。試してごらん」
目の前の岩に向かって拳を振り下ろす。
すると鈍い音と共に岩はひび割れ、真っ二つに割れてしまった。
横でグンダが驚いている。
「力は解放されたけれど、その使い方はご主人次第だよ。それじゃあね」
ふっとどこかへ消えてしまうと、大分体力を消耗している事に気が付く。
それをグンダに伝えると、お互いに腰を下ろし休息の準備をする。
「明日には着くだろう」
夜は寒いくらいの涼しい風が吹いていて、横になっている内に眠気がやってきた。
新しい生活への不安はあったが、上手くやっていけている現状に、落ち着いた気持ちだった。




