第2話「銀煌の刻晶」
穏やかな快晴の空、爽やかな風が吹き、静かな波が揺れている。
船は着実に進み、進行を妨げるものは何もない。
「船長、海に人が浮かんでいます」
「何?引き上げるぞ!」
海から甲板に引き上げた男は意識が朦朧としていた。
「この男妙な出で立ちですね」
「一体ここは……?」
船長と呼ばれた男が引き上げられた男の所に向かう。
「よく溺れなかったな、そして運がいい」
「確かトラックにぶつかって……」
「詳しい事情はわからんが港に寄るまで乗っていけ」
夜になり、涼しい気候で船は進む。
引き上げられた男は部屋で横になっていた。
「おい、食事だ。置いておくぞ」
硬いパンを齧りながらまとまらない考えを頭に浮かべる。
特に怪我のない体を確かめていると、いつの間にか眠りについていた。
次の日、窓から日光が射し込み目を覚ます。
起きて船に乗っている現実に、まだ頭が付いて行かない。
そこへ船長がやってくる。
「起きたか、そういえば名前を聞いていなかったな、何て言うんだ?」
「杉山です」
「スギヤマか。俺の名前はスラークだ」
そう言って操舵室へ戻っていった。
数日が過ぎ、ようやく港に到着する。
「お世話になりました」
「元気でやれよ」
スラークはにやりと笑うと船の中へ行ってしまった。
辿り着いた港は活気に溢れていた。出店が立ち並び、多くの人が行き交う。
人々の姿に、違和感を抱いたのはすぐだった。
アシカ頭の生き物が店番をしているのだ。
他にも、羽の生えた生き物が二足歩行をしている。
「コスプレ会場なのか……?」
まじまじとアシカ頭を覗いてみると、ツヤツヤとした人肌とは違う見た目に、白い髭が生えており、現実感のなさに立ち竦んでしまう。
「どうした?買うのかい」
会話は通じるようだが、お金を持っていないため、そそくさと立ち去る。
今、自分が何処にいるのか。それが第一に知りたかった。
日陰で涼んでいる、普通の人の見た目の女性に話しかけてみる。
「すみませんここはどこの国でしょうか」
「何だいアンタ、キュレシアだよ。船に乗って来たのかい。そりゃお疲れ様」
聞いた事のない国だ。日本は存在しているのだろうか。
食事や寝る場所の心配も出てくる。
役所の様な場所を探す事にした。
人以外の見た目の生き物には話かけづらいが、多くの種類の動物達が会話しているのを聞いていると感覚が麻痺してくる。
中折れ帽子を被って腕を組んでいる大男に話を聞いてみる。
「すみません、この国は初めてなのですが、助けてもらえる場所とかってありますか」
「ん、難民か。それなら街道を西へ向かいメートデルという街へ向かうといい。君は戦えるか?人気のない場所では妖獣に襲われる危険があるぞ」
「妖獣とは?」
「何処から来たのか知らないが、肉食の魔物はここら辺では妖獣と呼ばれている」
大男はこちらの首の辺りをじっと見つめ驚いた様子で言葉を続けた。
「おっと、その首にあるのは銀煌の刻晶か。これは失礼、心配は無用だったな」
船で目を覚ましてから鏡を見ていないため、何の事だかわからない。
言葉に詰まっていると、大男は何処かへ立ち去ってしまった。
妖獣に襲われるという危険を知り、港から動けなくなっていると、夜がやってきた。
人気のなくなった港で、横になり昼間教えられた首の刻晶の事を考える。
眠れずに首をさすっていると何処かから声が聞こえて来る。
「……起こして……呼びかけて……」
辺りに声の主はいない。
頭の中から聞こえてくるような声に戸惑っていると、鼓動が速くなり、冷や汗が出始める。
やがて思考が出来なくなる程に体が熱くなる。
すると一つの言葉が頭に浮かぶ。
「レピリク……!」
眩い青い光が全身からほとばしり、体に力がみなぎる。
光の奔流が収まり、また辺りが暗く包まれたかと思うと、目の前に浮遊する物体があった。
「ふわぁあ、よく寝たー。初めましてご主人」
暗くて良く見えないが、大きいモモンガのような生き物で、尻尾が3本あった。
「知りたい事はいくつかあるだろうけど、戦う力に目覚めたって事は伝えておくよ。じゃぁ起きたばかりだけど、朝が来るまでいったんおやすみー」
そう言うと一回転して消えてしまった。
体が程よい疲労を感じて、しばらくする内に眠りについていた。
夜が明けると、がやがやと声が聞こえてくる。
目を覚まし、昨夜の出来事を思い返す。現れた生き物は何だったのだろうか。
腹が減り、いよいよ街へ向かう決断を迫られる。
考えた結果、昼まで待って街へ向かう人達が現れないか探し、いなければ単独で向かう事にした。
やがて港へ到着する船がやってきた。
船からは様々な種族が現れる。
その中に剣を携えた犬の頭をした生き物がいた。様子を伺い、後を付ける事にする。
予想通り港を出て街へ向かうようだ。
ぱらぱらと他にも同じ道を進む者達がいる。
集団に紛れ道を進んで行くと、馬のような体に異様な頭部を持つ生き物が複数現れた。こちらが身構えもしない内に素早い動きで襲いかかってくる。
鋭い蔦のような物が生えた頭部を振り回し威嚇している。
「ダンッ」
集団の一人が発砲する。
妖獣は怯み、唸り声を上げる。
そこへ犬頭が斬りかかる。
首を一刀両断すると、黒い血を噴き出して倒れる。
手慣れた動きで対処していく彼らに目を奪われていると、妖獣の一頭がこちらへ向かって来た。
為す術もなく体を硬直させる。すると体が熱くなり光を放つ。
「ガキィン」
蔦のような一撃が体に触れると、金属音が響き、無傷で弾き返していた。
防御に徹していると、犬頭が剣を振るい妖獣に攻撃を加える。
残りの妖獣は二頭だ。
こちらの反撃を受けて激昂し、同時に飛び掛かってくる。
再び体に力を込めると、妖獣の攻撃を無効化する。
硬くなった拳で相手の足を狙い、叩きつける。
動きを止めたところへ犬頭が追撃を加える。
残りは一頭になったが、走り去っていった。
「なかなかやるじゃないか」
犬頭が話しかけてくる。
「戦い慣れていなさそうだが、術は一級品だな。街までもう少しだ」
その後は問題なく道を進むと、街へ辿り着いた。
一同は解散し、それぞれの目的へと向かう事になった。
しかし犬頭がその場に残っている。
「君の首の刻晶なんだが、少し気になることがあってな、食事を奢るから少し話をしないか」




