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グレイトディバイド  作者: 白煤芒洋


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第1話「占い師」

 照り付ける陽射しの中、撃ち込まれた緑のボールを力強く打ち返す。


 左右へ飛んで来るボールを無心で追いかけていると、夏の暑さも忘れて、ただその瞬間に集中する。


 狙いを付けて勢いよくボールをコートに叩きつけると、得点を告げる審判の声が響く。


「ゲーム!」


 ベンチへ戻りタオルで汗を拭うと、部員の本田が声を掛ける。


「相変わらず強烈なストロークだな!杉山!」


「大会までもう少しだからな。調子を上げていくぞ」


「ところで杉山、帰りにラーメンでも食べないか?」


「おう、そうしよう」




 部活の時間が終わり、駅前の味噌ラーメン屋へ向かう。


 くたくたになった体が高カロリーの食べ物を求める。


 芳醇(ほうじゅん)なスープが鼻を刺激し、コシのある麺が喉を駆け抜ける。


「美味かったなー」


「ああ、何度食べてもいいな」




 暗くなってきた帰り道、とりとめもない雑談をしながら歩いていると、道の真ん中で赤いブラウスを着た女性が二人の男に絡まれている。


「本田、なんか様子がおかしくないか?」


 しばらくすると片方の男が女性の髪を掴み怒鳴り始める。


「だからさぁ、どうしてくれんだよ!」


「おいおいマズいぞ」


 本田が呟く。


 俺はラケットを握ると男の背中に向けて振り下ろしていた。


「いってぇ!」


「走ろう!」


 女性を連れてしばらく走ると、男達は追ってこなくなった。




「はぁはぁはぁ」


「振り切ったか」


「大丈夫ですか?」


「ええ、ありがとう、今度きちんとお礼がしたいから、私の家に来てほしい」


 そう言うと女性は二人に名刺を手渡した。


「それじゃぁ、また」


 占い師、近藤郁恵(いくえ)。名刺にはそう書かれていた。


「住所も書いてあるけど、ここが家なのか?どうする杉山」


「大会も近いし土日は練習があるからな」


「占い師なんて初めて会ったぞ、今度練習終わりに行ってみようぜ」


「よし、行ってみるか」




 週が明け、練習の疲れが残る部活帰り、本田が話しかけてくる。


「今日、占い師の家に行かないか?なんかご馳走してくれるかもしれないぞ」


「住所は隣町か、それ程遠くないし行くか」


 辿り着いた住所には、大きく構えた門があった。巨大な庭に大きな家。


 豪邸ともいえる建物が住宅地の真ん中に聳え立っていた。


「おいおい、ここで合ってるよな。一体あの女の人何者だ?」


 本田が怪訝(けげん)な顔をする。


「見た目は20から30代だったよな」


「まぁここまで来たから尋ねてみるか」


 インターフォンを鳴らすと、しばらくして門が自動で開く。


「入って来いって事かな」




 玄関までの長い道のりを歩き、辿り着くと中から人が現れる。


「ようこそいらっしゃいました」


 白い髪が混じる中年の男性がにこやかに笑う。


「こんにちは」


「話は伺っております。悪漢から郁恵様を助けてくれたお二人様ですね。立ち話も何ですから、家の中へどうぞ」




 建物の中に入ると、嗅いだことのない高級な匂いが漂う。


 広間には巨大な振り子時計が置いてあり、吹き抜けの階段が二階に続いている。


「夕食の準備が出来るまで、こちらでお寛ぎください」


 案内されたのは、風景画が掛かった部屋で、二人はソファーに座った。


「いやぁ良い家だな、あのおじさんは旦那じゃないよな、様付で呼んでいたし」


「執事?使用人って事か」


「お腹も空いてるし楽しみだな」


 置かれている写真を眺めたりして時間を潰していると、ぱたぱたと歩く音が聞こえてくる。


「やぁやぁ君達がお姉さまを守ってやったという二人組だな」


 現れたのは中学生ぐらいの紺色の服を着た女の子だった。


「中々精悍(せいかん)な顔つきで良いじゃないか」


「はぁ」


「私は近藤つづら、大学生だ」


 本田と顔を合わせて困惑する。


「お姉さまは仕事柄厄介な人物と関わってしまってね、相手方の不満が溜まってしまったそうだ」


「占い師でしたっけ」


「そうだ。前世を占い、現在の不安事に繋がる手がかりを示す」




 部屋に白髪の男性が入ってくる。


「料理の準備が出来ました。食堂へどうぞ」


 席には既に濃紅の服を着た郁恵が座っていた。着席すると、続けてつづらも部屋に入ってくる。


「先日はどうもありがとうございました。私の仕事の不手際で揉め事を起こしてしまっていて」


「いえいえ、怪我がなくて良かったです」


 スープが運ばれてくる。暖かい人参のスープだった。


「美味いな」


 本田が舌鼓を打つ。


「お姉さま、お二人に問題事を話してみては?」


 つづらが話を切り出す。


「ええ、私としても協力者が欲しいところだったから。問題事というのは金銭トラブルなの。それも一方的な言い掛かりの」


 何やら雲行きが怪しくなってきたと思いつつも話を聞く。


「言い掛かりというのは?」


「私が占うのは未来ではなく過去。依頼人の前世では航海をして世界を回っていた姿が見えました。それを伝えたところ、一世一代の賭けだという事で全財産を船の購入につぎ込んでしまって」


「ははぁ」


「マグロ漁船を購入したらしいのです。ただ、経験がないため船を出せずにいるそうです。そこで占いのせいだという事になり、押しかけてくるようになって」


「とんでもないな」


「まずは下積みからでは?」


「きちんと説明が出来ればいいのですが。船は売却するべきなどと伝えました」


 高校生には荷が重そうな話だと思っていたところに料理が運ばれてくる。魚のソテーだ。


「頼みたいのは、話し合いの場を設けるので、一緒に同席していただきたいのです」


「それだけでいいならいいですよ」


「ありがとうございます。日時が決まりましたら連絡します。電話番号教えてね」


デザートのアイスが運ばれてきて、食べ終わるとお開きとなった。


「ご馳走様でした」


家を出ると、本田が話しかけてくる。


「暴れないように見張っていればいいわけか」


「その後はどうなるかわからないけどな。いい気分転換になったし、また明日な」


「おーう」




 二週間が経った後、郁恵から電話がかかってくる。


「もしもし、今週の土曜日13時に私の家に来てください。それでは」


 土曜日になり、本田と待ち合わせをして家へ向かう。


「さてどうなるか」


 家へ着いてインターフォンを鳴らすと使用人が出迎える。


「コーヒーを淹れますので、郁恵様の準備をお待ちください」


 案内された部屋でしばらく待っていると郁恵が現れた。


「私の仕事場で話合います。早速ですが、向かいましょう。近いので歩きで行きます」


 世間話をしながら三人は進んでいく。


 交差点の横断歩道を渡っていると、遠くから動きの怪しいトラックが走ってくる。


「危ない!」


 間一髪で郁恵を突き飛ばしたが、体に大きな衝撃が走る。


 道路に転倒すると、意識が消える。


「杉山!しっかりしろ!」


「ああ一体どうして」



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