第27話「金淵のサルバ」
「……ティス、シティス!」
じっとりと汗が布団を濡らし、目を覚ましたシティスは震えていた。
「どうした、悪い夢を見たのか?」
「夢……そうよ……夢なんだわ……でもお母さん達とハルアはどこに行ったの?」
「この世界に来るまでの記憶かしらね」
リルが言う。
「落ち着くまで待とう。朝食を持ってくるよ」
シティスは飲み物を口にすると震えが収まっていった。
「ごめんなさい、もう大丈夫、そして私の願いも決まったわ」
「聞いていいか?」
「家族との幸せを取り戻す、もちろん私自身も。この世界に家族を呼ぶわ。そして私が守る。デコ、聞いてた?出来るわよね」
首の刻晶を押さえ呼びかけると、猫のような生き物が現れた。
「なーなー、まぁ出来るだろ」
「となると俺はグンダさんの治療か。願いは別に決めてあったんだけどな、ところで願いは一つだけなのか?」
「なーなー、世界の理に通じるんだ、好きなだけ叶うよ、ただずっとは続かないから決めておけよ」
「信じられないが、信じるしかないか……」
トントン、とノックの音がする。
「どうぞー」
「スギヤマさん、お城からお見えの方がいます」
扉を開けて現れたのは筋肉質な体の大柄な男だった。
「私はフィルクセップ国軍の大佐を務めております、ウルと申します。あなた方が、ヴィーズとキアニアを倒した方々であると伺っております。この度の戦において重要な人物、『金淵のサルバ』から襲撃予告が届いておりまして、城内の護衛に加わって頂きたいのです。何卒お願いいたします」
「金淵?刻晶持ちか」
「報酬はどうなの?」
リルが聞く。
「サルバを抑えて頂けたら、それなりの物をご用意させていただきます」
「どうせ戦うんだから引き受けても良いわよね、スギヤマ」
「そうだな」
「ありがとうございます。それでは早速ですが城の方へお連れいたします」
宿を出て城へ向かう一行。
門をくぐり抜け城内へ入る。
大理石の広間に、玉座へ続く階段があり、玉座には男性が座っていた。
「国王陛下であらせられます」
ウルが国王と呼ばれた人物の隣に行って二言三言話す。
「そなたらが烈妖獣を討伐した者達か。その力を貸してくれるとの事、期待しているぞ、部屋を用意する、楽に過ごしてくれ」
翌朝、朝食に呼ばれ食堂に向かうと、ドレスを着た若い女の子が席に座っていた。
「あなた達が新しい衛兵の方?私はキエラ、よろしくね」
「ええ、よろしくお願いします」
パンを中心に、質素な料理が運ばれてくる。
「後で遊び相手になっていただけないかしら。庭で待ってるわ」
食事を終え、言われた通りスギヤマ達が庭へ行くと、色とりどりの花が咲く庭園の椅子にキエラが座っていた。
「いらしたわね。あなた達、魔法は使えないかしら」
「魔法……」
スギヤマが困っていると、リルが咳ばらいをする。
「それでは」
リルが腕を掲げると、光の槍が空に浮かび上がり明滅する。
「凄い!奇麗だわ!」
キエラは嬉しそうに顔をほころばせる。
ふと空を見上げるスギヤマだったが、太陽を黒い雲が覆い始めるのを見て異変を感じる。
「雲、いや霧か?」
気が付くと視界が覆われ、辺り一帯は暗闇に包まれていた。
「キャァ!」
「今の声はキエラか!くそっ!」
しばらく時間が経ち、霧が薄くなってくると、そこにはキエラの姿はなかった。
「これを見て!」
シティスが地面を指差す。
「何だ、手紙か?」
拾って読み上げるスギヤマ。
「姫は預かった。返して欲しければ国王自ら取引をしにトルクメアまで来い」
「やられたわね、私たち、立場がないわよ」
「とりあえず報告しに行かないと」
衛兵に話しかけ、ウルを呼び出してもらうと、慌てた様子でやってきた。
スギヤマは先程の出来事を伝える。
「門の兵士が気絶させられていまして、何事かと思いましたが、まさか姫様が攫われるとは……。恐らくサルバでしょう。しかし国王を呼び出すとは、間違いなく罠です」
「その場にいたのに守れなかった俺達の責任です、連れ戻します」
「ですが、敵国の中心です。一体どうやって?」
「私の術で警備を止めます」
シティスが力強く言う。
「そうですか、まずはあなた達に行ってもらいましょう、もし帰りがなければ、トルクメアに攻め込む事も考えなければなりません」
「それではすぐに出ます」
「ええ、頼みます」




