第16話「裏技」
少し時間が経って、観客席の間の通路を人型の狐が縄に繋がれて歩いてくる。
縄は発光しており、魔力が加えられているようだった。
狐の顔に瞳は四つあり、上の二つは閉じていた。
檻へ入ると縄が解かれる。狐は四つの瞳を瞬きさせ伸びをした。
「次なる獣は不気味な佇まいの怪物、翁鬼フレス!」
スギヤマは檻へ入ると相手の様子を確認する。
体格は痩せ型で、力もそれ程強くなさそうな見た目だが、油断せずに間合いを詰める。
走り出し、拳を固め、相手へ振りかざすスギヤマ。
だが狐に攻撃は届かなかった。
素早く移動する細い体が、一瞬でスギヤマの後ろに回り込む。
回り込んだ狐はスギヤマの体を羽交い絞めにする。
虚を突かれたスギヤマは体を振って逃れようとするが、狐の痩せた体からは信じられない程強い力が加えられる。
やがて狐の手がスギヤマの口を塞ぎ始める。
息が出来ず、意識が飛びそうになる中で、腰に差した短剣を掴み、狐の顔目掛けて突き刺す。
短剣は狐の四つある目の一つを切り裂き、スギヤマへの拘束が解かれる。
目を押さえる狐の体にスギヤマは全力で拳を叩き込んだ。
狐はうずくまると舌を出して興奮し始めた。
姿が消えたかと思うとスギヤマの頭を掴み地面に叩きつける。
硬化させたスギヤマに痛みはなかったが、視界が激しく揺れ、攻めに転じられない。
再び頭を掴まれたスギヤマは、その腕に素早く拳をぶつける。
痛みで手を抑える狐の腹に続けて拳の一撃をお見舞いすると、狐は耐えきれず卒倒した。
再び歓声が巻き起こる。
「おぉっと、またしても参加者の勝利だぁ!ピンチを乗り越える男スギヤマ!次は最終戦!果たしてどうなるか!」
グンダは頷き、シティスは大きく腕を振っている。
スギヤマは安堵の表情で待機席に座った。
会場の奥から車輪付きの巨大な箱が運ばれてくる。
檻の中に入れられると、箱の鍵が開けられる。
中からは、赤い毛並みの虎が現れた。
出てくると間もなく、箱を運んでいたフードの人物に飛び掛かる。
鋭い牙が腕に突き刺さり、血が着物を汚していく。
フードの人物は慌てて檻から飛び出すと、檻は閉められた。
「常に獲物を欲する貪欲な渇き!狂焔獣ログガル!数々の参加者を屠って来た獣闘場の主!間も無く試合開始だぁ!」
スギヤマは呼吸を整えると檻へ向かった。
これまでの経験から鋭い牙は対処出来そうだったが、先程の試合で窒息されそうになった事に一抹の不安を覚えていた。
虎と睨み合うスギヤマ。
攻撃のタイミングを伺い、先手必勝で決めるのが最善だと判断すると走り出した。
拳を振り上げるスギヤマ、そこへ虎が口から勢いよく火炎を吐き出した。
全身が炎に包まれる。
地面に転がり火を消すが、かなりのダメージを負ってしまった。
間合いを取り、相手の様子を伺うスギヤマだが、虎は火炎を吐き出し続けていた。
走って避けてはいるが、全身の痛みは酷く、攻撃に転じられそうになかった。
虎の火炎が収まり、スギヤマは痛みと疲れで立ち止まる。
ここまでか、と思い倒れそうになる。
すると、フッと体の痛みが引いていく。
火傷を負った皮膚が光に包まれ治癒していく。
咄嗟にシティスの姿を探すと、目を閉じて何やら念じているシティスが居た。
「シティスの治癒術か!」
再び活力が戻ると、虎の動きを観察する。
火炎を放たなくなり、動きもほぼ止まっていた。
「俺の術って事でやらせてもらうか」
拳を固め虎の体に一撃を御見舞いする。
虎は動き出すと同時に倒れてしまった。
ガヤガヤとした騒めきの後、歓声が上がった。
「ついに完全制覇者が誕生したぁ!その男の名はスギィイヤマァア!」
スギヤマは檻から出ると、グンダ達と合流した。
「結局一人だと厳しいわね!」
シティスが笑いながら言う。
「術を誰が使っているか見抜ける奴はいないだろう」
グンダも納得したような表情で言う。
「勝ち抜いた訳だけど、これで魔導士に会えるのかな」
スギヤマが言う。
熱気が残る会場に、先日会った燐火団の首領の姿があった。
「確かゼリトとか言ったか。話を聞きに行こう」
グンダが指差しながら言うと、三人はゼリトの元へ向かった。




