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運命の再会、三助と猿   〈2〉

“そうか、あやつ__”

信長はやぐらに登った。

“猿め、あの時食ろうた糞の礼をせねばなるまい”

鋭く端正な顔立ちに一瞬底抜けに明るい笑顔が現れたが、すぐさま元のムスッとした顔に戻った。

矢張りこの時も、大真面目な信長であった。

櫓にかかった梯子を上ると、その壁に空いた節穴に逸物を差し込み、勢いよく放尿したのである。

「__?!」

下で掃除をしていた猿が、一瞬何事かと声をのみ込んだ。

上を見てみると、やぐらの節穴から男根が顔をのぞかせている。事態は至極簡潔である。

「わりゃあ、一体何奴じゃあ!?」

“猿め__”

信長はさも愉快そうに胸中でつぶやいた。

“相変わらず大きな声じゃのう”

「こりゃあ、そのようなモノを見せても話にはならんわ!面を見せイ、面を!」

「うろたえるな、猿」

節穴から息子を引き抜くと、信長が顔を見せた。

「と、殿?!」

信長の顔を目の当たりにした猿がその猿眼を更に見開いて素頓狂な驚きを見せた。その顔を見ただけで信長は吹き出しそうになった。

「文句はあるか、猿よ?」

「当然にござる!」

主である信長を前にしてなお、猿は引き下がらない。

「如何に殿であろうと、この振る舞いだけは断じて見過ごす訳には参らぬ!」

“やれやれ__”

喚き散らす猿の大声を背に、信長は梯子を下りてくる。

“一度言い出したら引き下がらぬ所も昔のままじゃ。猿め、月日を経たというに、全く成長が見られぬとは、困った奴よのう”

自分の事を棚に上げて、信長は猿の無分別ぶりを笑っていた。

「さあ、殿!一体どのような仔細あって斯様な御振舞いに__」

今にも噛みつきそうな勢いで食ってかかる猿を前に、悠然と構える信長であった。

「猿よ」

「猿では御座いません!」

猿が__否、猿ではないと自ら雑人が名を名乗った。

「やつがれには、木下藤吉郎という立派な名がござる」

「デアルカ」

信長は頷いた。

「立派な名前じゃのう。猿めには勿体ないような名乗りじゃて」

「殿!」

先程の無礼を詫びようともせず、ますますこちらをなぶるようにからかう信長に、猿__藤吉郎は更に目じりを釣り上げた。

「猿よ__」

「ですから、木下藤吉郎と先ほどから」

「貴様、ちっとも変らんのう__」

「__?」

藤吉郎には信長の言わんとすることが理解できない。

「思い出さぬか、わしの顔を」

「思い出すも何も__」

信長の、謎かけのような言葉に藤吉郎もしばし戸惑った。

「その猿眼開いてわしの顔をしかと見よ」

言われた通り、猿のようなギョロ目を向いて藤吉郎は、しげしげと信長の顔を見詰めた。

「あー?!」

藤吉郎はその猿眼を見開いて、素っ頓狂な大声をあげた。

「あ、あの時の__」

間違いない、子供の頃、畑で会った例の大根泥棒ではないか。

唖然とする藤吉郎を前に、信長はしてやったりとばかりに大口を開いて訶々と大笑した。

「どうじゃ、猿__」

信長はニヤリと笑った。

「貴様はあの時、自分はだれにも仕える気など無いなどとほざきよったが、やはりこうしてわしの家来となりよったのう」

「は__」

藤吉郎は声も無い。

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