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縊鬼

 私たち1年生を担当する樹季先生は、私たちの話をにこにこして聞いています。


「元はね、狙った人に首をくくれって言ったそうだよ。言われた人はどうしてかそうすべきだと感じて首をくくって死んでしまうんだ。精神支配を得意とする妖だから、取り込まれないようにしないといけないね。」


「それであの男の人は、縄を持ってフラフラ歩いていたんですね。」

 拓が納得したみたいな表情になった。


「縊鬼はそこらの地縛霊とは全然違うからね。今じゃ飛び降りから水死、自爆までなんでもありだ。事件として注目されているのにも、影で縊鬼が関わっているものも多いはずなんだよ。」


「それは証拠が見つからないということですか?」


「そうだね、術者協会でも縊鬼の正体は全く判っていないんだ。人間に取りついている筈なんだけどね。縊鬼のすごいところは、取りつかれている人間すら自分が縊鬼だとは気づいていない点だね。」


「それじゃぁ、全くなすすべがないんですか?」


「そうではないよ。人を操る時には正体を現すしかないからね。その時が勝負だ。という訳だから今から結界札の作成と結界札を使った防御と攻撃を教えよう。まずは実演してみせるからね。わざわざ実技室を借りたんだからよく見ていて下さいね」


 そう言うと樹季先生はものすごい数の結界札を空中に浮かべると、自分を中心として球形に陣をひいた。


「このように前後左右。上下すべてを結界札で覆う。これが防御だ。それでは攻撃だね。まこと、ハクに攻撃させてくれ、本気でね。」


「樹季せんせい、ハクをなめたらあかんで!ハクは体術やったら誰にも負けへんのや。」


 マコの言葉にかぶせるようにハクがジャンプするなり凄まじいキックを放った。

 そのまま凄まじい勢いでパンチやキックが炸裂して、何枚もの結界札がバラバラと下に落ちている。

 

「では、行きますよ!」

 樹季先生がそういうと、今まで防御に徹していた札が、猛スピードでハクに襲い掛かる。


 ハクは素晴らしい動体視力を発揮して直撃を免れているけれど、それでも直接当たってもいないというのに、ハクには無数の切り傷が出来る。


 かまいたちみたいに風圧だけでも身体を傷つけるのだ。

 それに反してハクの攻撃はすべて結界札にはばまれ、樹季先生は最初の場所から動いてもいない。


「そこまでです。まこと、ハクを癒して下さい。」

 樹季先生はそういうと術を解いた。


 「すごい!」

 みるくが感動したように言うと、樹季先生は


「いや、ハクみたいな物理攻撃と、相性が良いので相手になって貰っただけですよ。けれども威力はわかりましたね。あなた達にはこれをマスターしてもらいます。防御札を作れる人は最低百枚は作って下さい。作れない人はこちらへ。」


 防御札を作れないのはみるくと守だけだったので、樹季先生か簡単にレクチャーするとあとは2人で仲良く試行錯誤するのに任せてしまった。


「防御札が百枚以上あるひとは?」

 俊と拓が手を挙げたので、樹季せんせいは防御札の制御を教えている。


 マコはまだ10枚しか防御札がないらしく、みるくと守のグループに入ってせっせと防御札を制作し始めた。


「なんかさぁ、同じように入学したのにもう差が開いてもうた気がして凹んでしまうわ。」


「そんなことないよ、マコはさっきハクのケガ治してたでしょう。すごいねぇ、そんなこともできるんだぁ。」


「あれはな、普段から守護獣は主の霊力を食べてるんよ。せやからあんな風にケガしたりしたときには自分の霊力を受け渡しすることで、ケガくらいなら治療できんねん。みことがみるくの身体にはいってるのは、そのほうが効率的に霊力を貰えるからやねん。」


「そうなの、それでハクは大丈夫?」


「たいしたことありません。主さまから霊力も貰ったし。けれども手も足もでないで負けたのが悔しいですわ。」


「それは違うでしょう?僕がみたところハクってさっきは自分の力の半分も出さなかったじゃないか。樹季先生にケガをさせたくなかったんだろ?見てたらわかるよ。ハクの力なら簡単に結界を壊せたはずだもん。」


 守がそういえば、ハクはすこし照れたように赤くなり

「私の仕事は人間を守ることですから。」

 とだけ言った。


「守、樹季先生は縊鬼は誰かに取りついているって言ってたでしょう?その誰かってもしかして術者ってことも考えられる?」


 みるくがそんな質問をすると、守は慌てて

「みるく、その話はここじゃまずい。後にしよう。」と言う。


 それでみるくは守たちも気づいたんだとわかった。

 みるくの考えは間違ってなかったようだ。


 だったらここでは話さない方がいい。

 みるくは素直に頷くのでした。



 みるく達は全員で居間に集まっている。

 守が説明をはじめた。


「聞いた人もいるかもしれないけれど、みるくから縊鬼は術者じゃないかという話があったんだ。そういう話は皇学園でするのはまずいから、今まで待ってもらっている。」


「みるくはどうして術者が怪しいと思ったんだい?」

 俊がみんなを代表して聞いた。


「かすかにだったから気が付かない人もいたかもしれないけれど、あの首を吊ろうとした男の人の身体から、妖の残滓と一緒に術者の霊力も感じたの。だからもしかしたらって思ったのよ。誰かほかに同じような感覚を持った人はいないの?」


 ヤマトが興味を持ったみたいに話し出した。

「確かにな。ごくわずかだがお前たちとは違う術者の霊力があの男に残っているようだったが、男が正気に戻ったら、もう臭わなかった。ただ不思議なんだがあの霊力を知っていた気がするんだが……。」


「まさか、それでは我々術者の中に縊鬼がいるとでもいいたいのか!」

 

 拓が怒鳴った!

 拓は生真面目な少年だった。

 だから妖と命をかけて戦っている仲間を疑うなんて、許せないに違いない。


「拓、全ての可能性を排除してはいけないんです。みるく、ヤマトはああ言っているがみるくもその霊力を知っているのかい?」


 みるくは困ったように、迷ったように俊を見つめたが答えようとはしなかった。

 それを見て拓が謝った。


「みるく、ごめん。僕は君たちを責め立てるつもりなんかじゃないんだ。ただ無性に腹がたって。さっきのはただの八つ当たりなんだ。だからごめん。気がついたことがあるなら正直に言ってくれ。間違ってても誰もみるくを責めたりしない。お願いだよみるく。」


「でもなぁ~。ありえないんだもん。その霊力って樹季先生だったんだもん。」


「そりゃ、ありえへんわ。まさか皇学園の教師が縊鬼、あほらし。ありえへんて。」


「だよねぇ、マコ。私もそう思うもの。きっと気のせいよね。」


 なんだ間違いかとみんなの気が緩んだ瞬間、俊が爆弾発言をした。


「いや、しかし樹季先生のなまえは『いつき』縊鬼も『いつき」と呼ぶ地方がある。どちらも同じ『いつき』だ。そして霊力の残滓。間違いだとは言い切れないだろう?」


「まさか。」

「そんな。」

「本気か」

「馬鹿な。」


 みんなは悲鳴のような声で叫んだ!

 それを守が落ち着かせた。


「待て、ともかく落ち着こう。俊、拓とマコは半年以上樹季先生の授業を受けている。熱心な良い先生だ。拓たちは樹季先生のことを信じているはずだろ。しかし俊の言うことも最もだ。この件は長老に報告してくれ。監査がうごけばきっと樹季先生の潔白も証明される筈だ。」


 みんなはほっとしてその意見に賛成した。


 これは樹季先生を告発するためではなく潔白を証明するためのものだし、潔白さえ証明されれば何も無かったことにできる。


 それに万が一、万が一のことだけれど樹季先生が縊鬼に取りつかれていたにしても、きっと監査のエリート術者なら樹季先生を傷つけることなく縊鬼を祓うことができる筈だ。


 そんな風に思ってしまったのは、みんながまだ術者について詳しく知らなかったからだ。

 その証拠にみんながほっとして明るくなったのに対して、俊だけが思いつめた顔をしていたのだった。


「みこと」


 みるくとマコは同じ部屋で寝ることになったし、ひとりで行動することも禁止されてしまった。

 だからみるくはみこととゆっくり話す機会を失っていたのだが、マコはいま拓に用事があるとかで拓と二人で話し込んでいる。


 みるくの呼び声に黒猫がみるくの膝に飛び降りて来た。


「みこと、あなたはどう思っているの。このままではみんなの仲がギクシャクしてしまいそうだわ。」


「みるく、僕が言えるのはひとつだけだ。みるくは何があっても僕が守る。いいねみるく。だから安心して。」


「いやよみこと。私はみことに無理をして欲しくないのよ。みことはなるべく私中で自分の力を取り戻すことに集中して欲しいの。」


「馬鹿みるく。そんなこと言って不安なんだろ。バレバレなんだよ。みるくこそ無理すんな。」


 そう言うとみことはいつものようにみるくの首筋をペロリと舐めると消えてしまった。



「あれ?いまみことがいたん?」

 マコが寝室に入りながら聞いてくる。


「うん、みこと、心配するなって言ってたんだぁ。」


「そうなんよ。みるくは気い回しすぎなんやって。なんてことあれへんよ。きっとすぐに縊鬼なんて祓われておしまいや。拓もそう言っとったわ。もう寝よう。明日になったらみんなきっと悪い夢になってるって。」


 マコの意見は能天気に過ぎるとみるくは思ったが、いまはマコの能天気さが心地よかった




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