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妖の見つけ方

「せっかくの休日なんだから、近所を探検しないか?」


 そんなことを言い出したのは、拓だった。

 拓にすれば引越しといいながら全部専門家がやってくれていて、片づけるものも少ないのだろう。


「マコちゃん、どうする?荷ほどきが必要なんじゃないの?」


 みるくは昨日引越しの片づけを手伝うといった手前、すぐに遊びの誘いに乗るのはどうかなぁと考えて、マコに決めてもらうことにしました。


「面白そうやん。明日も休みなんやし、今日ぐらい遊びたいもん。何処にいくつもりなん?」


「皇居ランナーって有名だろ?僕たちは毎朝ジョギングしてから学校に行くことに決めたんだよ。術者には体力が必須だって俊が言うからね。なので下見も兼ねて皇居に行くつもりなんだ。女子もジョギングに参加するかい?」


 守が昨日男子で話し合ったことを教えてくれました。


「皇居ランナーかぁ。そーいえばジョギングウエアもしっかり揃えてあったなぁ。つまりはジョギングせぇっちゅうことやんか。うちらも走るで。なぁみるく。」


 本当は家でグダグダしているのがすきなみるくでしたが、空気は読めます。

うんざりしながらも

「わかったぁ!」

 と、よいこのお返事をするのでした。


「今はジョギングウエアでなくてもいいの?」


「そうだね、今日は見学だけにしよう。明日は6時に居間に集合してジョギングに出発。6時40分帰宅。シャワーを済ませて7時に朝食。学校がある時は、7時40分に車が来るから、それで学校まで行く。迎えの車は17時。なのでなるべくクラブ活動には参加すること。帰宅部は図書館で自習して待つこと。」


「待って。何なん。それやったらまるで寮生活みたいに厳しいやんかぁ。なんでそんなん守らなあかんの?」


「もしかしてマコは未だ妖に遭遇したことがないんだな。残念ながら霊力が高く、術が未熟な術者の卵は妖に狙われやすい。それにこのスケジュールは拓だって自宅でしていたことだ。マコは術者の生活に少し疎かったんだな。」


 守は容赦なく言いました。

 それを聞いてみるくはそれこそ術者をクーリングオフできたらと、己の不運を嘆げいていました。

 しかし俊がそんなみるくの心を読んだように付け加えました。


「術者の力がよわいと、守護者たちがその身を削って我々を守ることになってしまう。人間は死んでも輪廻転生の輪に戻れるが、御使いたちは消えてしまうんだ。自分の御使いを守るのも術者の力なんだぞ。」


 それを聞けばマコもみるくも、文句なんか言えなくなってしまいました。

 みことがすでに自分の力の大部分を削がれて、術者の体内に住み着いていることを御使いたちに教えられたばかりなのです。


「なぁみるく、みるくは妖に会ったことがあるの?」


「そうだね。人面樹と天狗礫になら出会ったよ。人面樹は別に害がないけれど、天狗礫は石を投げてきたから守とかはぶつけられてたかな。けどヤマトが追い払ってくれたから、実害はなかったんだよね。その事件のせいで皇学園に急いで編入することになっちゃったの。」


「ほんまに妖っているんやなぁ。なんか術者って言っても他人事みたいに思っとったけど、俊の話を聞いて怖くなったわ。ハクを消させるわけにいかんからなぁ。うちって熱血とかスポ根が苦手なんよ。なんや暑苦しいと思ってしまうねん。」


「あ~、それ私も一緒。やっぱりマコとは気が合うなぁ。わたしのモットーはのんびり、ゆったり。最小の努力で最大の結果を!がスローガンなんだよね。」


 そういうとまことはプッと噴き出して、笑い出してしまいました。

 みるくらしいと言うのですが、自分からいいだしたことなのにと、みるくは釈善としませんでした。


「ほうぅ、二重橋だぁ。」

 拓が嬉しそうに言います。

 拓は信州に実家があるので皇居ははじめてなんですって!


「拓、桜田門を入ると楠木正成公の像があってね、そこの楠公レストハウスがあるんだよ。昔の人が食べたお弁当だって食べられるんだから。」


「みるくは食べ物の話をしてれば元気だなぁ。」

 守が出来の悪い従妹を見る目で言うので、むっとしたみるくは


「江戸城三の丸の跡地の階段の一部が、当時のまま残されていることだって知ってるもんねぇ」

 そんな風に知ったかぶりをしましたが、拓は興味があるのか


「江戸城は跡形もないってきいたんだが?」

 と不思議がります。俊がにこにこしながら


「みるくの言う通りだよ。ほんの少しだけ階段部分が当時のままに残っている。だけど歩きにくいし、わざわざそんなところ通るひともめったにないけどね。」


「それじゃぁ、ぜひいかないとな」

 拓はうれしそうです。


「なぁみるく。拓って歴史オタクなんかなぁ」


「なによ、拓とはマコの方が付き合い長いでしょう?私なんて昨日あったばっかりよ。」


「そうなんやぁなぁ。みるくとは昨日会ったばっかりやった。けど不思議やなぁ、もうずっとこんな風に友達やった気分やわぁ。」


 マコは不思議そうい言っていますが、みるくもまったく同感です。

 それは拓と俊や守だって同じではないでしょうか。

 きっと縁があるんだなぁとみるくは思うのでした。


 東御苑に入ってしばらくすると、高い木の上から赤ん坊の笑い声が聞こえてきて九鬼が頭上に飛び上がりました。


「九鬼、ウブメだろう。無理に追うな!」


「忌々しい、あれでもいちおう烏の眷属。私がいるのにちょっかいをかけるとは、捨て置けません」


 九鬼は八咫烏だから、おなじく烏である姑獲鳥が主を挑発したのが許せないようです。

 俊は特に気にする様子もありません。

 確かに赤子が攫われている気配もないようです。


「みるく、今のが……?」


「うん、妖だね。八咫烏がいるからちょっかいなんてかけてはこないよ。格がちがうもの。」


「う~ん、みんな妖がわかるん?うち全然わからんかった。」


「私は小さい時から色々感じてしまう方だったからね。だから見えやすいんだと思う。マコは何も感じなかった?」


「う~ん、なんかゾクゾクする感じはあったんやけど。」


「なるほどね、じゃぁその感覚を覚えておくといいよ。妖の感じ方ってみんな違うの。私は頭が重くなったり、頭痛や耳鳴り、吐き気なんかがするんだよね。」


「そうなんや、みるく見て!ホラ、なんか腕にサブいぼが出てるやろ?」


 まことの腕は、まるで鳥みたいにぶつぶつが浮き上がっています。

 これで妖がわからないなんてよく言えたものだとみるくは呆れてしまいました。


「マコ、すっごい反応してるじゃない。今までもそんなことあったんじゃないの?」


「うん、ときどきなぁ。そうか妖やったんか。てっきり蕁麻疹かと思って、散々アレルギー検査をしたのに……」

 

 マコは妖気を感じながら、アレルギー反応だと思っていたというのです。

 みんなはあっけにとられてしまいました。


「さすがにみるくの友達になるだけあるわ。すっごい天然ぶりだなぁ。」


 守がみんなの気持ちを代弁しましたが、マコはそれが気に入らないらしく。


「うちは術者がだれもおらん世界で生きとったからしゃぁないねん。いくらなんでもみるくと一緒にされることはないと思うわ。なぁ拓。うち天然ちゃうやんなぁ?」


いきなりそんな風にふられてしまった拓はあわてて


「マコは天然というより、無鉄砲なタイプだろ。実技になったら無茶ばっかりするけど、ちゃんと計算しているところがあざといんだよね。」


「そこは、知恵者というところや、拓のばか!」


 どっちでも言いんのですがみるくが天然というのは、みんなの共通認識になってしまったんでしょうか?大いに不満なみるくでしたが、このメンバーでみるくが何かいっても返り討ちにあう未来しかみえないので、なにも言えないみるくでした。


 そのかわり、「みこと」と呟けば

「にゃぁ。」と慰めて貰えました。

 みこともあんまりみるくが不憫だと思ったのかも知れません。


「俊、どうする。こんな真昼間。しかも人も多いのに、妖が出張ってきている。早めに帰るか?」


「そうだな、帰りは神保町方面にでてみよう。美味しい親子丼があるんだ。みるく好きだろう。」


 俊がそういったので、みるくもマコも上機嫌になりました。

 乙女心をちゃんと理解しているあたりが俊が食えない理由だと、守がしみじみと思っていてのは内緒のことです。


 神保町で名物の親子丼を食べた一行は、そのまま靖国神社に参拝して帰ることにしました。


 そうして境内の深い木々の間を縫うように歩いていると、ふらふらとひとりの男が手に縄を持って歩いているのに出くわしました。


 なんとなく違和感を感じて、男の姿を目で追っていると、いきなり男が木に縄をかけて首を吊ろうとします。


 「みこと!」「みずち!」


 黒猫が素早く縄を絶ちきると、白蛇が男を拘束しました。

 あっと言う間の出来事です。


 男にすばやく活を入れて、俊がどうして首吊りなどするのかとたずねています。

 しかし男には首吊りをする理由もなければ、自分がどうして縄を持って境内を歩いていたかも思い出せないようでした。


「みるく、妖の気配がわかるか?」


 守の問いにみるくは首を横にふりました。

 男には妖の残滓がありますが、肝心の妖はこの近くにはいないようです。


「拓、マコ。君たちは授業で呪術は習っているな。結界札はもう作れるのか?持っていたら出してくれ。」


 拓とマコはあわててお札を何枚が出して俊に見せています。

 俊はその内から数枚を抜き取ると、男に手渡しました。


「これは肌身離さずに身に着けて下さい。これは北側、こっちは西の壁に貼っておくこと。それから札をはがしてくれと頼まれても、絶対にはがしてはいけません。いいですね。」


 俊の真剣な様子に男も思うところがあったのでしょう。

 お礼を言って札を持ち帰りました。


「俊、いったいなんやの?」


「縊鬼だ!こいつは人を操って首吊り自殺をさせるんだ。恐ろしい妖だから僕たちではまだ祓えない。お祖父さんに報告しろヤマト!」


 おうとばかりにヤマトはオオカミに変化すると空をかけていきました。 

 俊も九鬼を放ちます。皇学園に報告にいかせたようです。 


「これからは絶対にひとりで行動するんじゃない。縊鬼はきっと僕たちを狙っているんだ。みるくとマコがペアだ。しばらくは同じ部屋で寝る事。オレ達三人も同様だ。縊鬼を滅するまでは厳戒体制で臨む。しばらくはジョギングもクラブもなし。わかったか!」


 みるくたちは蒼白となってうなずきました。

 恐ろしい妖がみるくたちを縊り殺そうと狙っているのです。


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