みるくの能力
翌日はみんななぜか妙にハイテンションだった。
ジョギングをする必要もないし、日曜日だったから寝過ごしても良かったのに朝の7時にはみんなで朝食を食べたくらいだ。
「そーいえばさぁ、拓もジョギングするんだよね。昨日だって全然足悪くないみたいだったのに。じゃぁなぜそんな銀のステッキなんて持っているの?」
拓はにやりと意味ありげに笑うと。
「残念でしたみるく。それは教えられないなぁ。だって術者ってものは自分だけの技を磨くもんなんだぜ。このステッキはそのための小道具って訳さ。」
「凄い!なんかカッコイイ!。他の人も必殺技とか持っているの?」
「うちはこれからやわ、拓は天才やねん。まだ術を習ろうて半年やのにもう自分の技を見つけたんやもん。」
「みるくは必殺技なんて考える前に、結界札を作るところから始めないとね。昨日は何枚作れたんですか?」
俊がそんな意地悪を言ってくる。
「まだ十枚だけど、初めてだから霊力を物に込めるのが難しいのよ。もしかして俊はなんか技もってるんでしょ?」
「みるく、俊の言う通りだぞ、みことに負担をかけたくないなら今日中に百枚作っとけ。そうすれば明日は操作の練習に入れるだろ。」
と、守がいえば
「うちと守はもう百枚出来たから、今日は拓にコントロール教えて貰うねん。みるくはおりこうにお留守番しとき。」
「どっかいくの?」
「学校の実技室は、休日でも開放しているんだよ。術者は熱心な人が多いからね。みるくは今日はお札作りだな。」
「俊も行っちゃうの?」
「僕はおじいさまに呼ばれているから一度三峯に戻るよ。明日は休むことになるから休暇届けを提出しておいてね。みるく。」
「もう、私ばっかり雑用係じゃない。」
「みるくがサボるから悪いんやん。」
というわけで、みるくはみことと二人でせっせとお札を作成しています。
もっともみことは手伝うわけでもなく、面白そうに見ているだけですが……。
「みるくの札、おもしろいなぁ、それ自分の意思で動くんじゃないのか?」
「まさか、そんな訳ないでしょ。」
「やってごらんよ。どうやらみるくは操作系に強いみたいだから。」
「そんなことわかるの?どーすればいい?」
「まぁ守人が操作系の使い手だったからね。使い方は簡単だよ。お札に命令すればいいんだ。」
「うん、マコたちを見張って頂戴。」
みるくは1枚のお札を手にとるとそう命令しました。
するとあっというまにお札は窓の外に飛んでいってしまいました。
「すごい、勝手に出ていちゃった!」
「ほらね。お札が見たものを自分でもみたければ、対の札を作って映像をながさせればいいんだよ。」
みるくはさっそくもう1枚のお札を手にとると、マコ達を見せて!といいました。
するとお札が空中に浮いたかと思うと、そこにマコたちの姿が現れたではありませんか。
ヒユーとみことが口笛をふきました。
「立体映像とは恐れいるね。守人でもそこまではできなかったぞ。」
マコと守はどうやらお札を空中に浮かべようと苦心しているようです。
それを拓が熱心にサポートしていました。
「あれ、私は命令するだけでお札が勝手に動くよ?」
「だからみるくの能力が操作系として卓越しているんだよ。そのかわり物理攻撃とかは無理みたいだけどね。」
「誰がどんな能力を持っているかみことならわかるの?」
「それは無理だね。拓も言ってたように術者にとって自分の能力は秘するものだ。戦かう時にはその方が絶対有利だからね。ぼくがみるくの能力がわかったのは、みるくの霊力が守人そっくりだったからだよ。」
「お父さんも操作系の能力者だったんだ。お父さんの必殺技って何だったの?」
「みるくが思うような必殺技ってのはないと思うよ。けれどお札に霊力を付与して操るように何かを媒介にして操作することを考えてごらんよ。」
「なら、私は人型にしようかな?人型を用意しておいて、それを張り付けて相手を操作することって出来ると思う?」
「みるく、君ってば……。」
「正解です。それが守人の必殺技だよ。まったくなんでこんなに似ているのかねぇ。」
そんなまことの言葉を聞きながら、みるくは考え込んでしまいました。
縊鬼の能力はやっぱり精神操作です。
それならみるくの人型で縊鬼の精神操作をキャンセルできるのではないでしょうか?
みるくがその考えをみことに相談すると、まことは考え込んでしまいました。
「それだと対象者は一度に二つの異なる命令を受けて混乱するだろうけど、キャンセルする訳じゃないから、対象者への負担が大きくなりすぎるぞ。下手したら精神が壊れてしまう。」
なるほどなぁ、けれども対象者が縊鬼の命令を嫌がっていたらどうでしょう?
みるくの命令が、対象者を解放することができる可能性はありますよね。
そう言うと、みことはそれはそうだが危険な賭けになることは間違いないし、術が破られたら術者に術が返されてしまって危険だから、使うんじゃないぞ!と怖い顔をしました。
みるくの周りは、こうやってみるくに命令する人ばかりです。
みるくは理不尽に思いながらも、せっせと結界札と人型作りに励みました。
それと同時にお札や人型をしまっておくための、小さなみるく専用の結界を作ることにも成功しました。
これでいつでもお札や人型を取り出すことができます。
「みこと、眠くなっちゃた。」
そういうなり、みるくはバタンと倒れてしまいました。
「馬鹿みるく、お前霊力の使いすぎなんだって。」
みことはそう言うとやさしくみるくをベッドに入れてやると、力を亡くして部屋に落ちてしまったお札を机に置いておきました。
今頃、その片割れも落ちてしまっていることでしょう。
やれやれ、手間のかかる主だと思いながらみことは回収のために学校に向かいました。
術者がみればみことの札の特異性がわかる可能性があります。
そんなものを放置しておく訳にはいきません。
マコが訓練でへとへとになって帰ってみれば、みるくはぐっすりと眠っていますし、机にはお札が2枚あるだけです。
「まったく、人が訓練でへとへとになってるというのにたった2枚なんて!まったくみるくったら。みるく!おきなさい。もうお昼ご飯の時間よ!」
「ふぁ~い。マコおはよう。」
「おはようじゃないわよ。みるくはお札を作るんじゃなかったの?」
「う~ん、作ってたら眠くなった。」
それを聞いてマコはすっかり脱力してしまいました。
しかたないか。
みるくはなりたての術者の卵なんです。
先輩である私が、しっかり教えてやらなくっちゃ!
マコはそう決意するのでした。
「さぁ、お昼はカレーだってよ!」
「カレー大好き!」
みるくはいそいそと飛び起きて、マコの腕を引っ張ります。
「マコ、ほら。さっさとご飯にいくよー!」
たっぷりと訓練を積んだ子供たちの食欲は旺盛です。
御使いさまたちもカレーを食べるのかなぁ?とみるくは心配したのですが、御使いさまも優雅にカレーを召し上がっています。
「みるく、お札を作らずに寝てたっていうのは本当かい?」
守が出来の悪い子をみるような目でみるくを見ながら聞きました。
「みるくは眠ったんじゃない。霊力不足でぶっ倒れたからオレがベッドに運んでやったんだ!」
みことはむすっとして守に噛みつきました。
「あ~、みことが運んでくれたんだぁ。おきたらベッドだったから驚いたよ。ありがとうみこと。」
みるくがお礼を言うと。
「みるく、あんたお札を作っただけで倒れてしもうたんか?」
呆れたようにマコが尋ねました。
「う~ん、なんかいきなり眠くなってそのまま意識がなくなったんだよねぇ。」
そのみるくの天然発言を聞いたみんなは一様に、どうしたらたかが結界札作りで霊力切れを起こせるんだろうと首をかしげるばかりでした。
「まぁなんだな。みるくも一生懸命がんばってたんだ。」
守がなんとかこの場をフォローしようとするとみるくが。
「うん、と~っても頑張ったんだよ。」
とあっけらかんというので、台無しになってしまいました。
なにしろみんな心のうちで、それはがんばったうちにはいるかー!と突っ込んでいたからです。
けれども霊力切れといわれればどうしようも有りません。
「そうだねー。」
「がんばったねー。」
と、守の言葉に乗っかることにしました。
ただ、この会話を聞いていた御使いたちは、みるくの力におののいていました。
なぜなら普通の術者なら霊力切れをおこすところまでは、訓練ができないのです。
無意識に自分を守ろうとするブレーキが働いてしまうからです。
それなのにみるくは平気で霊力切れまで自分を追い込んだ訳です。
霊力を高めるためには本当は霊力を使い果たすギリギリまで訓練をした方がよいのです。
霊力枯渇に陥ると、回復した時の霊力は驚くほど増大するからです。
しかもみるくの霊力は、結界札つくりくらいでどうこうなるレベルではありません。
なにかがあったなぁと御使いたちは思うのでした。
「それでみんなの訓練はどうだったの?上手くいった?」
みるくの問いかけに、みんなは目を輝かせました。
なにしろ攻撃するところまでは進めませんでしたが、防御なら結界札百枚をきちんと制御できたのですから。
拓に至ってはハクを相手に模擬戦まで行い、いくらか攻撃をすることにも成功しました。
きっと明日には、樹季先生のようなかまいたちを彷彿とさせる攻撃も出来るだろう。
実技室に参加したメンバーはそれぞれに手ごたえを感じて意気軒昂だったのです。




