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縊鬼との激闘

 月曜日、みるくは少しだけ緊張したのですが樹季先生はいつもと同じように穏やかに私たちを迎えてくれましたし、皆も何事もなかったかのように楽しそうにしています。


「まことさんから聞いたんですがみるくさん以外は結界札の制御に成功しているとか?それで今日も実技室で結界札を使った防御と攻撃の実地訓練を行いたいのですが。」


 樹季先生はそう言うとみるくを見て尋ねました。

「みるくさんはこの教室に残って結界札を完成させますか?それともみんなの見学をしますか?」


 みるくが返事をする前に守が言いました。

「みるくは結界札の作成をするそうです。みことだけでは不安なので九鬼をこの部屋に残してみるくの守護にあたらせます。」


「それはいいですね。それではみなさんは訓練室に移動して下さい。」


「ちょ待てよ、みるくの守護ならオレひとりで十分だ。この皇学園で妖に襲われる訳ねぇだろうが!」


 みことの抗議はもっともだとおもったのですが、守は何も言わずにさっさと部屋を出てしまいましたし九鬼が物柔らかにみことを宥めたので、みことも渋々承知しました。


「それでみるくさまはあと何枚残っているんですか?」


「う~ん、1枚作り上げるのに時間がかかるんだよねぇ。出来上がると使い勝手がいいんだけどねぇ。後八十枚残ってるよ。」


「ちょっと待っててね」

 みるくはそう言うと結界から2枚のお札を取り出して命令しました。


「守達の所へ!」

「映像をここへ!」


 たちまち教室には守達の姿が浮かびあがります。


「これはこれは、これはもう結界札などではございませんな。すでに式神になっておる。」


「式神って?」


「このように命令されれば自分で動くことのできるものでございますよ。上手に作り上げれば人間や動物の形に変化させることも可能でございます。」


「本当に!すごいじゃない。みことったら何で教えてくれないの?」


「だってお前、昨日は霊力切れをおこしたろうが。式神をあやつるのは凄い霊力が必要になるんだよ。九鬼も余計なこというんじゃねえぞ!」


「これは失礼しました。しかしみるくさま、そのようにお札を式神仕様にすれば時間がかかるのは当然です。念を込めずにただ書き写すだけのものも用意なさいませ。通常の札ならそれで十分でございますよ。」


「しかたねえ、俺が結界札を書いてやっから、お前は人型を作っておけ!」


 みことがそう言ってくれたので、みるくは特別に時間をかけて人型を準備することにしました。

 みるくとしては作ってみたいものがあったのです。


 九鬼さんはしみじみとみことに話しかけています。

「なぁみこと、みるくさまはどんどん守人さまに似てくるようじゃのう。」


「守人よりよっぽどおバカだけどな。」

 みことはプイと横を向いてしまいました。


 しかたなく九鬼は自分の主である守を見まもっていたのですが……。


「まずい!みるくどの失礼します。」

 そう言うなり九鬼は八咫烏にを変えるとたちまち外に飛び出していきました。


「どうしたの?みこと。」


 みるくは集中すると何も見えず何も聞こえなくなります。

 八咫烏が飛びだした気配で異常を感じて意識を取り戻したようです。


「みるく、映像を見てみろ!。」

 なんと一反木綿が何体も入り込んで、守・マコ・拓・みずち・ハクの首を締めあげています。


 そして樹季先生の身体は真っ黒な鬼に変じています。

「みこと、先生方にお知らせして頂戴!」


 みことは職員室を目指して駆けていきます。

 これだけ大勢の術者がいる前で正体を現すなんて縊鬼も馬鹿な真似をするものです。


 みるくは映像を映していた札を解除すると、急いで訓練室まで走りました。


 訓練室ではすでにあらかた片付いてしまったようです。

 一反木綿のような妖にやられるみずちたちでもないでしょう。


 縊鬼はみるくの姿を認めるとにやりと笑い、あっという間にみるくを引っさらうと姿を消してしまいました。


「みるく、しまったあいつみるくが目当てだったのか!」


「くっそう、どこにいったんだ!」


 それに応えるように紙でできた白い人型が、ちょいちょいと手招きしています。


「あれは一体何なんだ?」


「みるくの人型だよ。連れ去られる時に自分を案内するように術をかけておいたんだろう。」

 飛び込んできたみことが答えました。


「うそ、みるくにそんなことができるなんて!ほんまなん?」


「説明は後だ、追うぞ!」


「ハク、あんたは残って先生方が来たら案内するんや。うちの霊力追えるやろ?」


「はい、わかりました。まことさま!」


 人型はちょいちょい後をついてくるのを確認すると、すごいスピードで突き進みます。


「これは千鳥ヶ淵の方向だな。」


「近いぞ!急げ!」


 たどりついたのは1本の古い桜の木でした。


「どこなん?」


「多分ここに縊鬼の結界の入り口があるんだ、なんとか結界を壊さないと。」


「任せろ!」


 拓はそう言うと銀のステッキを桜の大木めがけて投げつけました。

 ステッキは見事に桜の木に突き刺さり、びりびりと大きな雷鳴がとどろいて結界を破ろうとしています。


「いたぞ!」


結界がその姿を現して、中ではねじ曲がった2本の角を持った異形の鬼が、みるくの首を締めあげているところでした。


「拓、まだ結界は破れないのか!」


「くっそう、もう少しなのに力が足りない。」


 その時真っ黒な固まりが身体ごと結界にぶつかっていきました。

 

 バリバリ、ガシャーンと大きな音を立てて結界は壊れ、結界に飛び込んだみことは血だらけになって倒れています。


 「忌々しい奴らめ。」


 縊鬼はそう言うと、ぐったりとしたみるくを投げ捨て守たちに向かってきます。


 守とマコは習ったばかりの結界札で応戦しますし、拓はステッキを振りかぶり、みずちは縊鬼を締めころそうと巻き付き、八咫烏は空中から次々と鋭い羽を短剣のごとく投げつけます。


 しかし縊鬼はその膂力でもってみずちを引き裂き、八咫烏の攻撃も鋼のような固い皮膚を貫くことはできません。


 守とマコそれに拓は、縊鬼の腕の一振りで吹っ飛んでしまいました。


 もはやこれまでかと思われた時、狼に乗って空を飛んで駆けつけた俊が手に持った錫杖を縊鬼に投げつけました。


 確かあの錫杖は役小角のものではないでしょうか?


 さすがの縊鬼も錫杖を引き抜くことはできないようで、錫杖に貫かれたままそれでも凄いいきおいでヤマトと俊に向かっていきます。


「あなたの相手は私でしょう。」

 いつの間に意識を取り戻したのか、みるくがまっすぐに縊鬼を見つめています。


「みるく、ここは僕らにまかせるんだ!」

 俊の言葉にみるくは言い返します。


「いやよ、そうしたら樹季先生まで殺してしまうのでしょう?」


 みるくにそういわれて一瞬、俊は迷ってしまいました。

 その隙をついてみるくは人型を縊鬼に貼り付けます。


「樹季先生、縊鬼なんかに負けないで!縊鬼よ、樹季先生から出ていけ!」


 みるくの命令に縊鬼は悶え苦しみました。

 そうして縊鬼が地に伏した瞬間、真っ黒い瘴気がみるくめがけて飛びついてきました。


 そこを待っていたのがヤマトです。

 ヤマトは瘴気にガブリと食らいつくと、俊は錫杖を瘴気に突き立てて印を結びました。


「滅せよ!闇に帰るがよい!」


 瘴気は氷が解けるようにズルズルと溶けて消えてしまいました。


 

 

「お~い。大丈夫か?」

 ハクの案内で次々と術者の先生方が駆けつけてきました。


 あまりの被害に一瞬息をのみましたが、手早く分かれて手当を施していきます。

 

「みるく。」

 俊がよびかけるとみるくは安心したように俊に倒れ掛かり意識を失ってしまいました。



 皇学園の病室は久しぶりに大勢の患者を抱えることになってしまいました。

 なにしろ術者の戦いにおける怪我や後遺症は、一般の病院で診てもらうわけにはいきません。


 そこで皇学園の中には、立派な病院も併設されているのです。

 術者たちよりは御使いさまたちの方が、被害は甚大でした。


 みずちは身体を半ば引きちぎられていましたし、みことは全身がずたずたに裂けていました。


 この外傷については優秀な術者によって後も残らず回復しましたが、御使いが持つ霊力については主から分け与えるしかありません。


 拓はみずちを自分のステッキの中に吸収すると、大事そうに手元に置いています。

 

 みるくもみことを自分の中で癒したいのですが、みことは全く意識を回復しません。


 困ってしまったみるくはみことが首にキスすることで自分の中に入れるなら、みるくだってみことにキスすることでみことを取り込めるのじゃないかと考えました。


「みこと、どうか私の中に入って傷を癒してちょうだい。」


 そう言いながらみるくはみことの唇にキスを落としました。


「な、な、なんだお前、いきなりキスなんてしやがって。少しはつつしみってもんを持て!」


 みことは目をさますなり理不尽にもみるくを怒鳴りつけました。


「だってみことが心配だったんだもの。」


 そういうみるくの目には、いまにもこぼれそうなほど涙が貯まっています。


「ばかみるく。おれがやられる訳ねえだろ。オレはおめぇの守護者なんだからよ。」

 

「これはおかえしだ。」

 そう言ってみことはみるくの額にキスをしました。


「お前、なに真っ赤になってやがんだよ。おめぇからキスしたんだろうが。」


「だって、だって。」


「しかたねぇなぁ。」


 みことはそっとみるくにキスすると、そのまま唇を首筋まで這わせて花の印をペロリと舐めるてみるくの中に消えていきました。


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