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特訓を希望する

 みるくとハクは温泉をのんびりと満喫しようとしていましたが、ハクはそういうわけにはいきませんでした。

 なぜなら食堂を出たところでハクはマコに呼び出されたからです。


「マコさまがお呼びですわ。みるくさま失礼します。」


 ハクが消えてしまったので、みるくはのんびりとひとりで温泉を楽しみました。

 小さいころから母親が働いていたので、ひとりで行動することに慣れているので、特に寂しとも感じないみるくなのでした。


 自分の部屋に戻ったみるくは、面白いものを見ることになりました。


 海から火の玉が次々と連なるように上がってくると、それらはこの宿泊施設の庭木に次々ととまっていくのです。


 それはどんどんと連なっていき、あまりに沢山つらなったので、大きな竜の姿のように見えました。


「どうしたのみるく。妖怪火かい?」


「違うみたいね、みこと。これは竜灯のようだわ。妖怪火なら吉凶がおきることもあるでしょうが竜灯なら悪さをしないもの。それにしてもしょうけらといい竜灯といいこの島は妖を呼び込みやすいのかしら?」


「まぁそうだろうね。怪異が多いのだろうさ。だってみるくたちを乗せてきたパイロット達は、僅かの時間さえもこの島にいたくなさそうだったじゃないか。」


「そうねぇ、あれは面白かったわね。理由をいえないものだから、よけいに早く離陸したくて、私たちがに荷物を降ろすのさえ苛立ってたもんね。」


「あぁそうだな。当然みるくは気がついてた訳だね。それにしちゃぁ焦っているようにも見えないけれどね。」


「だって焦ってもしかたがないわ。それに樹季先生の計画なら悪い事がおきる訳はないもの。せっかくだから強くなれるならなりたいものね。学びたい術式は多いんですもの。あとでいらっしゃると言ってたけど、明日には樹季先生はいらっしゃるかしら?」


「明日?もうここにいるとおもうけどね。オレは。」


「みこともそう思う?けれど樹季先生の霊力を見つけられないのよね。式神たちがよいめくらましになっているのでしょうけど。まぁいいわ。今夜は竜灯も見ることができたし、もう寝ましょう。おやすみ、みこと。」


「おやすみ、みるく。」

 みことは当然のようにみるくの首すじにキスすると、みるくの中に消えていきました。


 翌朝は眩しいほどの快晴でしたがみるくの部屋は西向きだったので、お日様に邪魔されずにぐっすりと眠ることができました。


「おはよう、みこと。朝ごはんを食べにいきましょう。」


「おはよう、みるく。今朝は何もおきないみたいだな。」

 みことはこの南国にいる間は人型でいることにしたようです。


「おはようございます。」

 みるくが食堂にいくと、みるくが最後だったらしくみんな揃っていました。


「みるく、夕べは俊と夕食を食べたんだって。僕らも食べればよかったよ。もうお腹ペコペコさ。」


 守はそんなことを言っていますが、機嫌はよいようです。

 それは守の前に並んでいるいかにもおいしそうな朝食にあるようでした。


「そうだねぇ。でも例え夕食を犠牲にしても現状を確認するまで部屋にこもるという選択だって悪くなかったと思うよ。わぁ、ワッフルにベリー類がたくさん盛られているのね。はちみつとバターのいい匂い。カリカリのベーコンもおいしそう。」


「美味しいに決まってるわ。うちは守と拓を夕食に呼ぼうとして、随分長い間この施設を彷徨うことになったし、夕飯もほとんど食べられへんかったから、よけい美味しく感じるわ。」


「でもちゃんと自分の部屋には辿りついたんでしょう。」


「そうなんやけど、なんでみるくは知ってんの?」


「私がかわいい教え子をひと晩中苦しめる訳ないからですよ。みなさんがた、昨日は冷静に突発的な出来事に対処できましたね。ここの妖たちはいたずら好きではありますが、害はないので祓うのは勘弁してあげて下さいね。」


 樹季先生が食堂にあらわれるなりそんなことを言いました。


「術師が妖をかばうんですか。面白いですね。」

 拓が皮肉をいえば


「あれらは、私がこの島に居場所を提供する代わりに、人間に悪さをしないと誓ったものたちなんですよ。それにあれらがいると人が寄り付かなくて便利なんですよ。ここなら集中して術を磨けますからね。」


「休暇だと聞かされていたのですがね。」

 守は少し皮肉を言ってしまいました。


「ええ、そうですね。ここはリゾートにはとてもいいところですよ。森林や渓谷、川遊びもできますじ、もちろんマリンスポーツも充実していますよ。」


「けど、ここは妖がぎょうさん暮らしている妖のパラダイスなんやろう。妖の悪戯はしゃれにならへんってきいてるんやけどなぁ。」


「どうでしょうねぇ、人間に大けがをさせたりしたら当然滅することになりますから、そこまでのことはないですよ。心配しないでくださいね。マコさん。」


 あんまりないいようにマコは口をパクパクさせています。


「樹季先生、わたしはいくつか教えていただきたい術があるんですが……。せっかく5日間もあるんですが、自分の欠点を潰しておきたいんです。」


 まさかのみるくの良い子発言に守は唖然としてしまいました。


「どうしたんだい、みるく。夕べ悪いものでも食べたの。努力なんて大嫌い。のんびりがみるくの信条じゃないか!」


「守、それはちょっと違うかなぁ。私は無駄な努力とかが嫌いなだけだよ。とにかく頑張ればなんとかなるみたいなね。けれどこれでも必要な努力はしているんだけどなぁ。」


「守の負けだよ。みるくは守が思っているよりずっとがんばりやさんなんだよ。案外みるくは大事なことは外さない子だったじゃないか。」


 俊の言葉にそういわれれば縊鬼の被害者を真っ先に助けたのもみるくだったと守は思い出しました。


「みるくばっかり強ようなるのはずっこいやないの。みるくが特訓するんやったら、私だって負けないわよ。」


「マコ、そんな特訓とかそんな大げさなものじゃなくて、ちょっとやりたいことがあるだけだよ。」


「決まりだね、守。先生僕たちに特訓してください。よろしくお願いします。」

 拓がそう言って綺麗な礼をしてしまいましたので、いつの間には休暇は宿泊訓練にその様相を変えてしまいました。


「まぁ。そう気負うな。まずはゆっくりと美味しい朝食を食べようじゃないか。9時になったら各自筆記用具をもって会議室に集合してくださいね。」


 樹季先生はそういうと、丁寧にドリップされたコーヒーに目を細めていました。


「俊、白状しろよ。いったいどうやって樹季先生をたきつけたんだ。どうせ犯人はお前に決まっているんだからな。」


「守の意見に賛成ですね。俊がここまで策士だとはおもいませんでした。本当にのんびりと休暇を楽しむつもりだったあの純真な僕の気持ちをどうしてくれるんですか。」


「だって特訓は拓から願い出たことじゃないか。樹季先生はのんびり休暇が楽しめるって言ってたろ。」


「この妖だらけの島で気を抜ける訳ないだろうが!」

 守と拓の声は見事にハモりましたが、俊は涼しい顔をしていました。


 いっぽう女の子のほうもけっこう騒いでいます。


「みるくは薄情すぎるんとちゃう?守や拓をほっておいたのは、助けようとしたらひどい目になるとわかっていたんやろ?そんならうちに言うてくれてもええやんか。」


「だって私はただ拓や守の選択を大事にしたかっただけだもん。昨日みたいな場面で、無理をして部屋を壊わしてでも脱出を図るほうがいいのか、夜が明けるのをまってじっくり脱出計画をたてるのがいいのかわからないでしょう?」


「たまたま昨日は外にでたほうに夕食が振る舞われたけど、これが妖の罠でそとに出たところを待ち構えていることもあるでしょう?そんな時には夜目がきく妖にアドバンテージが出来てしまうのよ。」


「けど、私を止めようとしなかったやないか?なんで止めくれへんかったんよ。」


「う~ん。あの段階で止めようとしてもマコは止まらなかったでしょう。みるくは無駄なことはしないことにしてるのよ。」


 あっけらかんとしたみるくの言葉にまことは脱力してしまいました。


「せやけどせめてポーズだけでも止める真似せえへんかなぁ。普通。」


「それが無駄なんだって。人が聞く耳をたてていない時には、何を言っても無駄。かえって怒らせえるだけなんだからね。無駄なことをするのもメリットがあることは知っているけれど、マコにはわざわざそんなポーズをとらなくても、もう親友だもん。だからいいんだよ。」


「みるく、あんたって天然の人たらしなんちゃうの?そんなん言われたらなんにも言えなくなるやんか。」


 マコはうんざりしたようにいうと、気持ちは朝食に向かってしまったようだった。


「みるく、こっちのスコーンも美味しいで。ちょっと食べてみた方がええよ。」


「マコ、このミックスジュース凄い濃厚で甘くておいしいよ。」


「どれどれ、あーこれは大阪方式や。ミルクの代わりにバニラアイスをいれるとこんな風に濃厚で甘いミックスジュースになるねん。懐かしい味やなぁ。」



 それを見ながら守は昨日から何回となく思ったことを俊にぶつけてみました。


「なぁ俊、女って気楽そうで良くない?」


「なら守、お前女になるか?」


 そう俊にいわれて守は女になった自分を想像してみました。

 そしてブンブンを頭を振るとそのイメージを追い払ってしまいます。


「嫌、絶対男に生まれてよかったと思うぞオレは。」

 その発言には妙に力がこもっているのでした。


 会議室にいくと樹季先生はたくさんの雑誌や写真、カラフルなマーカーに糊やハサミを準備していました。


 そしてそれぞれに大きなボードを渡して言いました。


「君らが術者としてどういう風になりたいかを、視覚化したいんだ。自分の持つイメージをこの雑誌や写真から選んで、そのボードにどんどん貼ってみてくれ。マーカーも用意しているから、何かかき込んでもいいが、基本は絵やイラスト、写真をつかうこと。いいね?」


「待ってください。どんな術を体得したいか、文章で書き込んではいけないんですか?」


「文章化すると理屈で考えてしまうだろう?写真や絵を張り付けていくのはイメージ像だからね。明確に自覚していない願望や、隠されている力をそのイメージから読み取ることができるんだよ。騙されたと思って、心の赴くままにやってごらん。答は出来上がった時にわかる筈だからね。」


 そう言われて子供たちは不承不承作業にとりかかりました。

 貼り絵なんてまるで幼稚園児みたいじゃないか?そんな風に思いながら……。


 しかし作業が進むにつれてみんな夢中になって楽しんでいました。

 イメージがどんどん膨らんでいくのがわかります。

 自分のイメージピッタリの写真や絵を探している子供たちの瞳は、まるで幼い時のように無邪気にキラキラと輝いています。


 樹季せんせいは時々子供たちの間を歩き回って、

「ほう!」

「いいねぇ」

「これはこれは!」


 などと短い言葉を発したり、椅子に座ってにこにこしながらこどもたちの姿を見たりしていました。


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