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 白銀の青狼・漆黒の焔使い・雷の蛇使い・疾風の舞姫・金色の鈴姫

 自分たちが仕上げたボードをみると、驚くぐらいはっきりとそれぞれの能力の特性が現れていました。


 それは自分の御使いさまや自分の特性だと考えていたのとは、違っていることもありました。


 俊のボードは、青い狼を従えて銀色の鋭い剣を構えた男がモチーフになっていました。


「俊君はイメージ通りだね。術者の基本といってもいいだろうね。もともと持っている霊力を具現化するようにしてごらん。このモチーフのように妖を打ち払う退魔の剣を作り上げることができるだろう。」


「ありがとうございます。樹季先生。自分に馴染む武器が欲しいと模索していたのですが、このセッションでイメージが明確になりました。退魔の剣、この研修期間に完成させますよ。」


「焦る必要はないよ。白銀の青狼ですね。あとはそのイメージを鮮明にしていくことだよ。」


 守のボードにみるくは驚きました。

 優等生で落ち着いたイメージの守だったのに、そのボードは全く違っていたからです。


 守のボードには薄闇を切り裂くような真っ赤焔な焔を駆使する男の姿がイメージされていたのです。


「守は自分の力をまだ開放していないようだね。守には一瞬にして妖を滅してしまうような強い霊力がある。

 このイメージのように、霊力の焔をなるべく多くつくりだして自分の周りを囲むようにしてごらん。

 散弾のように降り注ぐように使うことも、一つにまとめあげて大きな焔にすることもできますよ。」


「はい、樹季先生。おじいさまから生まれた時から強い霊力を持っていたと聞かされていても、なかなか自分ではわからなかったのですが。このボードを作っているうちに、自分の中の焔に気がついたんです。これはなかなか面白いことになりそうですね。」


「そうですね。漆黒の焔使いですか。自在に扱えれば無敵ですよ。」


 拓のボードはとても幻想的なものだった。


 真っ白な大蛇を巻き付けた男が、凄まじい数の蛇を解き放っているのだが、その蛇は敵に当たるとたちまち青白い光を纏った雷光にその姿を変えているのです。


 なかには敵を縛り上げている蛇の姿もありますから、拓の蛇は丈夫な綱にも、悪を打ち据える雷にもその姿を変えるようでした。


「これはこれは、拓くんは随分器用な術者のようですね。雷と蛇使いの2つの能力もちですか。上手く使えば敵を無力化することも、峻厳に祓うことも出来ますね。楽しみです。」


「はい、僕は銀のステッキに霊力を貯めて雷を使うつもりでいたのですが、この絵のように大量の蛇の式神を使うのも面白そうです。このセッションで戦術の幅が広がりました。」


「雷の蛇使い、確かにおもしろいですね。使い勝手のよい能力ですよ。」


 マコのボードは思いがけなく美しい女性が描かれていました。

 白い衣を纏った赤目の少女を従えた黒髪の女性が、扇を手に宙を自在に舞っており、その扇は風をあやつるらしく、かまいたちや竜巻に巻き込まれた妖たちが累々と積み重なっています。


「これはこれは、なんて美しい舞姫なのでしょうね。マコさんの特性は風使いでしたか。疾風の舞姫。ハクさんもこのような主に仕えるのは、ことのほか楽しそうですね。」


「わぁ、うちだけ必殺技がなかったらどうしようと思ってたわ。舞扇かぁ。綺麗なものやなぁ。絶対に作り上げてみせるわ。樹季先生ありがとう。」


「いえいえい、これほど美しい舞姫の誕生に立ち会えてとても光栄ですよ。この研修である程度形を作ってしまいましょうね。」


 そしてみるくもボードはこれも予想を見事に覆すものだった。


 みことのボードには豊かな森が描かれ、その中心にいる女性には木漏れ日が降り注いでいます。そしてその周りには、とても穏やかな顔をした妖たちがくつろいでいるのでした。女性の手には美しい金色の鈴がありました。


「ほほう、やっぱりみるく君は予想を外してきますね。魅了の鈴ですか。みるくの能力は使役ですね。その絵に描かれた鈴の音で、どんな妖も術者の意思に従えることができるのでしょう。金色の鈴姫ですね。」


「樹季先生、私は術を返された時の対抗法ばかり考えていましたけど、妖が自分から囚われるようになれば術を返される心配もない訳ですねぇ。魅了の鈴。イメージがしっかり固まりました。」


 子供たちは僅かなセッションで自分が目指す術者の姿を明確にできたことに、すっかり感心してしまいました。


 そうして目指すゴールが明確になると、みんなこぞって樹季先生に教えを請いはじめましたし、せっかくのリゾート地だというのに、遊びたいと考えることすらしませんでした。


 その日の夕食には、心地よい疲れと目指す方向性がわかった興奮とでとても賑やかな食事になりました。


「いやぁ~。守はむっつりすけべやったんやなぁ。あんなに激しい炎を隠してしれっと優等生ぶってたんやから。」


「なにいってんだよ、マコ。それにしてもお前は似合わないぞ。舞扇を使う姫術者なんてさぁ。」


「それが偏見というもんやねん。やっぱり天はこのマコさまの自然にあふれ出る高貴さに気づいてたんやなぁ。」


「まったく、よくいうよ。拓はどうなんだ。きょうは随分地味な作業をしていたようだけど。」


「うん、僕の式神は命令通りに動くだけでいいから、そこまで霊力は消費しない分、数をつくりあげたいんだ。一応千体を目安に考えているから、この研修中はそればかりになりそうだよ。雷の充電ならこの銀のステッキが自動でしてくれているからね。」


「またえらく辛気臭い作業やなぁ。うちならようがまんできへん。俊は少し剣を具現化出来てたみたいやね。」


「まだまだだよ。時間が掛かり過ぎて実践で使えるレベルじゃないし、切れ味がなまくらすぎるんだ。みるくは魅了の鈴だって?どうだい、上手くいきそうか?」


「俊みたいに霊力で具現化するんじゃなくて、力を付与するつもりだったんだけど、それならちょうどいいのがあるって、樹季先生が退魔の鈴をくださったの。今はひたすらこの鈴に霊力を注いでいるだけだから、拓といっしょで地道な作業なのよ。マコは舞扇はどうするの?」


「それは自分で作るつもりで、スケッチしたりインターネットで舞扇を検索したりしてるんよ。みことみたいに付与は苦手だから、それならいっそ自分の霊力でイメージするほうが簡単やもん。その舞扇のイメージに苦労してるとこやねん。」


「イメージは大切だからなぁ。でもしっかり作り上げればいつでも即座に仕えるのがいいところだね。みるくはそのあたりはどうするつもりなの?」


 と、守が従妹を気遣うようにいう。

 なにしろ守にとってみるくはいつまでたっても、とろくてぼんやりした不思議ちゃんなのだ。


「それは大丈夫だよ。みことに教えて貰ったからね。自分だけの結界を作ってそこに結界札や人型をしまうことができるようになったの。霊力でつながっているから、結界に入れたままで霊力をこめられるんだよ。ほら!」


 みるくは一瞬にして退魔の鈴を取り出してみせた。

 金色の鈴はみるくの手にぴたりと納まって、いまもみるくから霊力を取り込んでいるらしくキラキラと輝いています。この分なら魅了の鈴になるのも時間の問題だろう。


「ちょっと待って!その結界ってなんだ?もしそんなのが作れるならカバンなんて必要ないじゃないか!」


「守、そんなに大騒ぎすることはないさ。考えてごらんよ。優秀な術者が荷物をせっせと運んでいたことなんてなかったろう。今のみるくの結界ならまだ小さなものしか入れられないんじゃないかなぁ。」


「うん、この鈴でもう一杯になっちゃう。でも守の案はいいなぁ。そしたら学校に通うの便利だもん。」


「ダメだよみるく。霊力の無駄使いだ。大人になるまでは結界は術に関するものしか入れちゃだめだよ。」


「わかったよ。俊って生真面目なんだから。守もカバン代わりには使えないってさ。」


「それなら、僕のステッキをしまっておきたいなぁ。あとでみづちに作り方を教えてもらおうっと。」


 話題は術式のことばかりになってしまっているが、当人たちはそんなことにも気づいていないようだった。

 樹季先生はそんな子供たちの姿を、実に楽しそうに見つめている。


 こどもたちは簡単に考えているが、かれらのイメージした力を安定させるには、これからよっぽど修練をつまなければならないのだ。


 子供たちがはしゃいでいるのは、それこそ初心者ゆえのことだが、このようなかわいい憧れは厳しい修練を耐えるための大事な力になる。


 それがわかっているから、樹季先生は何もいわずににこにこと子供たちを眺めているのだった。


 こうして樹季先生の別荘での5日間の休暇は終わった。


 迎えにきたチャーター便に乗り込む子供たちの目がいかにも楽しそうに輝いていたから、パイロット達は首をかしげるばかりであった。


 なにしろこの島は妖島として有名で、足を踏み入れれば命を取られることはないものの、悪質ないたずらに引っかかって散々な目にあわされるのだから。


 だから彼らはとうとう気がつくことがなかった。

 今この飛行機に乗っている者たちの正体を。


 白銀の青狼・漆黒の焔使い・雷の蛇使い・疾風の舞姫・金色の鈴姫


 かれらこそが、この先日本中でその名を知られることになる伝説の術者であることを。


 彼等5人は大きな二つ名を背負う優秀な術者として活躍することになるのだが、それは又べつの話になる。


 いつか彼らの胸躍る冒険譚を語る日もくるかもしれませんね。

 あのちいさなみるくとぶっきらぼうなみことのその後のお話も。


読んで頂いてありがとうございました。

また機会がありましたら成長したみるくたちと出会いたいと思っています。

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