32話「打診」
「アル、エマ、あのね、だいぶ速いけどデビュタントしない?」
それは突然降ってきた。
双子は唖然としている。
当然だ。
デビュタントするには年齢が幼すぎる。
「あのね、貴族と王族の慣例は違ってね、王族のほうが早いんだよ。大体王立学園入学直前くらいか、10歳になる前にするんだ。貴族は卒業くらいなんだけどね。理由は、早いうちから人脈を作る必要があるからだよ。貴族も必要だけど王族はもっと必要なんだ。デビュタントは王族は8から10歳くらいなんだよ」
シリルは、状況を説明しだす。
「ちなみにそのへんから人脈づくりをして、国政を教わるのは13、14くらいからかな?僕はね、まだデビュタントしてないんだよ。だから一緒にしない?2ヶ月後の王宮主催のアルとエマの合格祝のパーティーで!ちなみに僕は去年少人数でしたよ。色々あってね。」
シリルの口から何も聞いていないようなことが、さっきから飛び出してくる。
「お兄様、私達はまだ5歳ですよ?」
「まだ社交界は嫌です」
⦅社交界に出始めると、魔法の研究ができなくなる。それは絶対に嫌だ!意地でも断ってやる⦆
「そんな事言わないでよー」
シリルとて引き下がる気はないようだ。
「嫌だ。だって、大変じゃん。礼服着るぐらいなら僕は魔法陣書いてたほうが楽しいし幸せだよ!」
「社交界ってめんどくさそう。お兄様一人ですればいいじゃない。合格祝は昨年と同じでいいわ!」
「むぅー……オルカーいるー?」
オルカーとは誰なのだろうか?
「はっ!何でしょうか?」
双子にはわかった。
今まで天井にいた魔力が、目の前にいることを。
「ああ。紹介するね。オルカー」
オルカーは全身黒ずくめで、よく素顔が見えなかった。
「お初にお目にかかります。私はシリル様の護衛を陰ながらしています。そしてオフィーリア様との連絡役を担っております」
オルカーはシリルの護衛らしい。
いかにも怪しい。
「オルカー、お母様に『デビュタントはしないらしい。僕はしないといけないだろう』そう伝えてくれるかい?」
シリルはオルカーに頼んだ。
すると一礼した後、消えた。
「さてと。んー……やっぱり出たくないのかい?」
シリルはもう一度確認した。
「嫌です」「嫌よ」
二人は即答で否定した。
「あのね、魔法学園に行く以上はね、社交しないといけないんだよ。君たちの年齢ならば、本格的な社交はしなくてもいい。強いて言うならば、お母様と一緒にお茶会に行くとかかな?」
シリルは説得を試みた。
「お兄様、よくお考えください。私達は学園には行きますが、普通の生徒とは違うのです。計画では、1ヶ月に1度行われる早期卒業制度の審査の試験に連続で受け続けます。そうすれば1年足らずで卒業できます。授業には『病弱』という理由を使って出席しません。受験に必要な単位は研究と論文で取ります。生徒会も事務しかしない。書類は転送魔法でどうにでもなる。表舞台に一切出ないつもりだ。入学式の挨拶も他人に任せる!」
アルはシリルが絶対に抵抗できないようなことで制した。
「ああー。どうしよう。ぐうの音も出ないよー」
ついにシリルは反論できる手札を失ってしまった。
シュン!
オルカーが戻ってきたようだ。
「伝言を預かりました。『仕方ないわね。貴方たちのデビュタントはシリルの立太子のお披露目パーティーよ!』だそうです」
今回は諦めたが、双子が兄のことが大好きなのを知っている母は、兄の大切な日ならば断れまいと踏んだようだ。
「げ⋯」「うっわー」
双子は渋っていた。
「お願いだよ。僕の一生に一度の大切な日なんだ。特別な日だからこそ家族みんなで出席したい!だめかい?」
シリルはもう一押しすれば納得してくれると思った。
ここには3人しかいないが、もし誰かいたならば、このセリフに涙ぐんでいてもおかしくない。
シリルのそれは双子以外から見れば、こう言っているふうにも聞こえたのは気のせいだろうか?
「僕の大切な日だからこそ、アルとエマも元気な姿で出席してほしい。そしてその日もそれ以降も元気でいてほしい」と。
それは誰よりも切実な願いなのであろう。
「あーも!わかったよ!」
「そうね⋯それなら仕方ないわね⋯」
双子は母と兄に押し切られた。
このとき双子は気づけなかった。兄の切実な願いに。
読んでいただき、誠にありがとうございます。
本作を読み「本作が面白い!」「続きが気になる!」と感じていただけましたらぜひ【ブックマーク】や【評価★★★★★】で応援してくださると幸いです。
今後も連載を続けていきますので、応援よろしくお願いします!




