30話「ネズミ」
それから7日ほど経っただろうか?
ここ最近双子は魔法の制御をするために、あることを始めていた。それは火球をちょうどいい塩梅で発動し、紙を焦がして文字を書くというものだ。
これができれば今までの書く作業がなくなる。
「アッ、アル! エエエェマあああー!」
何があったのだろうか?シリルがものすごい勢いで離宮の端からこちらに向かって走ってくる。
その後ろをシェーリーンが猛追していた。
「アル〜〜〜〜〜。エマ〜〜〜〜!!」
申し訳ないが、何を言いたいのか全くわからない。
聞き取れたのはエマとアルという単語だけだ。
「シリル殿下ぁ?落ち着いてください。取り敢えず、自室にアル殿下とエマ殿下といっしょに行かれては?周囲が混乱しておりますので」
シェーリーンは廊下を爆走するシリルを見て追いかけてきたみたい。
シェーリーンが言った通り、周囲の使用人は大変混乱していた。
「なにか一大事なのか?」と。
ここの使用人はほとんどがもともと騎士だったり、未亡人になってしまったり、才能があったり、王家の影と呼ばれる暗殺や隠密、それに密偵から護衛までを担う者たちだ。
王の命を中心に動くが、王族の命も聞いてくれる。
まあ、王の命に差し支えなければの話だが。
ちなみに謎に包まれているヘレナの夫でシェーリーンの父は、この影の実行部隊の幹部らしい。
このことを知っているのは片手の指を数えるほどだろう。
「王家の血を引いており継承権があるもの」という理由なので、知っているのはオフィーリア、そしてシリル、アルフレッド、エメラインくらい。
ちなみに双子にも常に護衛がついていて、オフィーリアに逐一報告されている。
「シェーリーン!」
シリルはようやく正気になったようだ。
「ああ、そうだね。移動しようか」
シリルとみんなは移動し始めた。
がちゃ!
「さてと、シェーリーン君たちは下がってね。終わったら呼ぶから。みんなでお茶でもしてて」
シリルは侍女を下がらせた。
騎士もだ。
それに影も。
「さてと」
【聞こえる?アル、エマ。これからね、してほしいことがあるんだよ。アルはこの部屋の盗聴の類を探して、人がいないか確認して。アルから連絡が来たらエマは遮音結界を張って。できるんでしょ?無詠唱】
いきなり頭に声が届いたのでびっくりしたが、シリルはなにか企みがあるようだ。
その顔は悪魔の笑みになっていた。
無言で微笑んでいるのに威圧感がすさまじい。
【了解。探知魔法っと。ん?ねぇお兄様。人ってさ、全員下がらせたよね?】
アルはシリルにそっくりな笑みでシリルを見つめた。
【ああ。そのはずさ。やっぱりネズミが紛れ込んでたか。アル?そいつらを近衛騎士団の王宮詰め所に転送して。ああそれと、最近紙に魔法で文字書いてたよね。送った後に詳細を書いた紙を同じ場所に送ってくれ。こう書いてね。『やつらのネズミだ。ってことで、後よろしく。追伸ー罪は王族に対する反逆罪だ。まあ程々に。こんなことしたくてしてるわけじゃないから。テーリア王国第一王子シリル。』って書いといてね。】
シリルはさらっと恐ろしいことを言った。
王族反逆罪なら最悪極刑だ。
それに「やつら」とは誰なのだろうか?
双子の知らないところで何かが動いている。
政治がらみだろうけれどね。
双子は背筋が凍るような悪寒がした。
【わかったよ。「雷よ、転送3重」っと、よし。で書くからちょっとまってね。】
アルは思う。
わざわざ反逆罪の前に「王族に対する」ってつけなくてもいいのではないかと。
アルは記載しないことにした。
【転移】
◇◇◇◇◇◇◇◇
ー同時刻 王宮詰め所にて
「上だ!気をつけろ!」
咄嗟の反応速度でみんな避けたが、黒色をまとった男が5人送られてきた。
その場は混乱していた。
無理もないだろう。
急に中からいかにも怪しげな武器を携帯した男5人組が現れたのだから。
それにこの騎士団の詰め所に。
騎士団員は、誰かが故意で行った可能性が高い。
そう、判断した。
「取り敢えず、気絶したこの男たちを縄で結ぶぞ」
騎士たちは手っ取り早く結んでおいた。
だがしかし、送り主が誰かもわからない上、なんでここまで送られてきたのかもわからないし身元も不明だ。
無闇矢鱈に牢屋に入れるわけにもいかない。
みんなが困り果てていたとき、
「おい!あれなんだ?紙切れか?」
アルが送った手紙がようやく届いたようだ。
「なんて書いてあるんだ?」
一人が尋ねた。
「ああ読むよ。やつらのネズミだ。ってことで、後よろしく。追伸ー罪は反逆罪だ。まあ程々に。本人たちはこんなことしたくてしてるわけじゃないから。テーリア王国第一王子シリル」
アルの手によって多少変えられた文章が届いた。
「なんだって!シリル様からか!」
「反逆罪らしいぞ!」
「静まれ!取り敢えず、団長と宰相閣下、それに陛下に報告に行くぞ!そいつらは牢屋にぶち込んどけ。逃げられるなよ?厳戒態勢だ」
上官らしき壮年の男が手っ取り早く指示を出した。
『はい!!』
◇◇◇◇◇◇◇◇
ーそのころ離宮では⋯
【遮音結界】
エマがちょうど結界を張っていた。
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