27話「キースの魔法」
「アル様、エマ様。少々お願いしたいことがございまして……これまた安全上の問題から、試験会場が学園の一番奥なのです。しかしながらアル様とエマ様の歩くペースのまま行くと間に合いません。
使えそうな魔法はすべて禁止されておりますので、使用できません。
なので、抱っこしてもいいでしょうか?風魔法で補助をかけるので、今の4倍速くらいで到着するかと」
転移魔法や飛行魔法系が全て使えないが、それ以外にも使えそうな魔法はいくらでもある。
けれど、目立つのはゴメンだ。間に合わなくて失格になるのも嫌。
「そうね!」
「わかった。チッ……誤算だったよ……」
アルが呟いたのはどうでもいいとして、キースは嬉しそうだ。
「ありがとうございます。驚かれないでくださいね」
キースが言うと、いきなり二人の体が宙に浮いた。
無詠唱で風魔法の初級魔法を応用したようだ。
あっという間に二人はキースの両腕に収まった。
二人と荷物を合わせて30kg程度だろうか?
キースは風魔法で双子のお尻の方と荷物の下を持ち上げて軽さを軽減し、足元に風で僅かに体を浮かし、長い迷路のような廊下をスケートのように滑っていく。
双子にとっては普段禁書庫の階段を駆け下りるような感覚と似ているだろうが、根本的に違うことがある。
それは──自分一人か、他人に抱えられているか。
今まで抱っこされることはあっても、危険上の観点から魔法を使ってキースのようにはしてくれなかった。
「キース!速いね!」
「わぁ!あれ、そういえば魔法の多重発動できないんじゃなかったけ?」
キースは2重や3重は難しいと言っていたが、4重くらいになっているような気がする。
「あぁ、それはですね。この一番初歩的な魔法なら魔力消費は少ないし、操作が簡単ですしね。
なにより使い勝手が色々とあるので応用しがいがあるのですよ。
まあ、人に使ったのは初めてですが」
キースは衝撃的な発言をした。
普通の人はこんなことはできない。さすがというべきなのだろうか?
「普段も使ってるみたいだけど、何に使うの?」
エマは素朴な疑問を投げかけた。
「使い勝手が色々あって応用しがいがある」──これは普段使っている人しか出てこないセリフだ。
「私は生徒会の中でも会計を2期連続でしています。その上、今の生徒会長が優秀なのですが、魔術の研究ばかりで仕事をしてくださらないので、会長の書類の分類や補足、そして要約などを書いております。
他にも大会などのときに実行委員長をしていますよ。今回の入試は会長ですがね」
肝心な理由が聞けていないような気がする。
「事務仕事をしてるみたいだけど、なんで魔法使う必要があるの?」
アルは気になりすぎたのか聞いてしまった。
「あぁ。仕事や担当していることが多すぎて終わらないので、ペンを魔法で動かしたり、紙をその分類の山に置いたりする作業や、お茶を入れたり、必要なものを取るときに極力少ないエネルギーでたくさん片付けられるようにしているのです。テーリア王家からの依頼や、シリル様やルーカスのことに、アル様とエマ様のことなどなど……時間がいくらあっても足りないのです。それに、このくらい普通では?父上も同じようなことしてますよ?」
キースの日常を聞いて双子は申し訳ないと同時に、助けてあげたいとまで思った。
そしてそれは普通ではないと言いたかった。
キースとロゥエルがおかしいということも。
「大変だねー」
「お疲れ様ですー」
返事がもはや棒読みになってしまった。
「あ、そうそう。おそらくですがお二人も生徒会ですよ?この学園は実力主義ですので、入試上位3名は入ることが義務で、上位10名は任意ですね。大体各学年5名くらいが一般的ですよ。ちなみに私は次席でしたので義務でした。オフィーリア様の王命通りならば、貴方がたも義務ですよ?」
キースはさらっと、とっても大切なことを言った。
「え?」
「ん?聞いていませんけど?」
双子は呆然としていた。
「アル様、エマ様。着きましたよ。おろしますね〜」
キースは再び風魔法を無詠唱で使った。
「ここから先はお供できませんので、外で待機していますね。
あ、そうそう。今年は王族、貴方がただけですので」
キースのその言葉がアルにとって大誤算だった。
なぜならば、2人の周りは普通ではないため、普通の威力がわからないのだ。
そのため、周りに合わせそれ以上で制御して打てばいいと思っていたが、それをすることができない。
つまり──どの威力で打てばいいかがわからない。
ここはキースの「普段通り初級魔法を好きな属性で打てばいい」というアドバイスが頼みの綱となってしまった。
「アルフレッド殿下、エメライン殿下。どうぞ。入室してください」
いよいよ入試が始まるのだった。




