22話「理解不可能」
しばらくしてみんなが落ち着きを取り戻しつつあるとき、シリルはエマに質問した。
「エマ、なんで君は無事だったの?」
それはあまりにも率直すぎる質問だった。
「え?簡単に言うと、まず風で『浮遊魔法』をかけつつ、同時に念のため『防御魔法』を私にかけて、『転移魔法』を使ってアルの横に転移したわけ。そこが一番安全だと思ったからね。
でもみんなアルの方を見ず、必死に崖ばっかり見ててアル以外私に気づかなくてね。今出るの気まずかったから、アルの魔力に波長を合わせて『透明化魔法』をかけて待機しつつ、アルとどのタイミングで出ればいいかっていう話を『念話』でしてただけよ?簡単でしょ」
それは高度な魔術を幾度にも多重発動した結果だった。
簡単ではない。
双子の基準が浮き世離れしているだけだ。
「あ〜。エマ?周りが理解できてないよ」
シリルはエマに対してそう言った。
エマは周りを見渡す。みんな上の空だった。
「おいおいおい。ちょっと待ってどういうことだ?
テーリア一の魔術師と言われる母上でもそんな芸当できないぞ?
なぜエマが……ん?待てよ。エマが使えるってことは、まさか!アルも……なのか?」
「エマ様、申し訳ないのですが私には理解できかねます。私も一応、学園の魔術大会3年連続王者で実力には自信がありますが……『浮遊魔法』『防御魔法』『転移魔法』の3重発動は流石に無理です。それに、一体いくつの属性を持っているというのですか?私は風を一番得意とし、次に使えるなら水です。それ以外は使えません。」
キースは双子に現実をたたきつける。
「私の風と水を使っても、あの崖からここまで200mはあるではありませんか!それにどれほどの魔力をお持ちなのですか?その数の魔法を施行しながら200mも転送魔法を使って移動したならば、魔力切れを起こして墜落するか体調に異常をきたします。ですが、エマ様はお元気です」
エマとアルは顔を見合わせる。
「他にも、エマ様がおっしゃっていることが本当ならば魔法の発動スピードはどうなっているのですか?10mの崖を落ちるまでにすべての魔法を詠唱していたら間に合いません。本当にどうなっているのですか?私は理解が追いつきません」
キースやルーカスの反応が当然なのだ。
エマやアル、そしてその二人を赤子の頃から一番そばで見てきたシリルの感覚がおかしいのだ。
「あの……皆様。離宮の中に入られてお話しませんか?もうすぐ日が暮れてしまいます」
そう言ったのはシェーリーンだった。
あたりはもう日が暮れている。
「そうだね。皆、中に入ろうか!ありがとう、シェーリーン」
シリルがそう言うと、みんなが中に入った。
こういうときに王族なのに偉そうにせず、侍女にもしっかりお礼を言うシリルは凄いと思う。
そしてこれが名君の素質だとも。
「さてと、キース。続きをどうぞ」
シリルは促した。
「はい。では簡潔にまとめますと、私の中に4つの疑問が生じております。1つ、属性の数。2つ、魔力量。3つ、魔法の発動速度。4つ、詠唱はどうしているのか。以上です。私は現時点でアル様とエマ様はほぼ同等の力を有していると推測しております。アル様とエマ様は一体いかほどの実力をお持ちなのですか?私には理解ができません」
ルーカスに続き、キースもなかなかに鋭い。
いい線をついてくる。
「え〜〜〜っと」
三兄弟はなんとも言えない。
なぜなら王命でキースの質問に対する答えを言うのが禁じられているからだ。
【エマ!今ピンチだよな?ってことはお母様のお手紙開けられる。なにか頼りになることが書いているかもしれない】
アルが手紙のことを思い出したようで、エマに念話で話しかける。
【それよ!アル。ちょっと待ってね。今スカートのポケットに転送するから!……できたわ!アル】
【さっすが!ちょっと待っててね】
「ねぇお兄様、ちょっとこっち来て」
アルはエマとアイコンタクトを取り、シリルに話しかける。
「みんな驚かないでね。『水壁』」
一瞬にして水の防壁を3人の周りに張った。
「で、要件は何だ?極秘なんだろう?」
シリルは意図を察したようだ。
「シル兄様、あのですね……お母様のお手紙を使えるかもしれません。開けましょう」
エマは言う。3人は覗き込んだ。
そこにはこう書かれていた──
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