season2第4章「夏休みの向こう側」
*これは実際に経験した中学1年生頃の経験をもとに書いた小説です。「全10話」*
*"夏休みが終われば、また学校が始まる。そう思うだけで、少しだけ胸が苦しくなった。"
夏休みが始まる頃には、私の学校での過ごし方はすっかり変わっていた。
朝、学校へ行く。
先生に確認される。
そのあと、教室の隣にある小さな部屋へ向かう。
1限、2限をそこで過ごすことが多かった。
3限になると、渡り廊下を渡って本館校舎へ向かう。
本館の1階にある別室。
そこが、私のもう一つの居場所だった。
けど1限、2限が嫌で3限から行く時もあった。
別室には、別室担当の先生がいる。
「おはよう。」
「今日もここ?」
「……はい。」
そんな短いやり取りをして、私は自分の席につく。
何気ない毎日だった。
でも、その「何気ない」が、私には大切だった。
夏休み前までは、部活動にもちゃんと行っていた。
部活が終わったあと、国語の先生と話すこともあった。
教室には戻れなくても、先生と話す時間は好きだった。
「今日どうだった?」
「疲れました。」
「頑張ったね。」
そんな会話をしていると、少しだけ普通の中学生に戻れた気がした。
そして、別室には養護の先生も来てくれる。
ほとんど毎日のように顔を見せてくれた。
「Ami、今日どう?」
「……普通です。」
「本当に?」
「……ちょっと疲れました。」
そんなふうに、少しずつ本音を言えるようになっていた。
先生は私の話を聞いてくれる。
弱音を吐いても、否定しない。
必要なときには手当てもしてくれる。
私はいつの間にか、先生が来るのを待つようになっていた。
そして、週に一度は保健室へ行って話す。
保健室のドアを開けると、先生がいる。
それだけで安心した。
「ここに来ると落ち着く。」
ある日、私はぽつりと言った。
先生は、
「そう思える場所ができてよかったね。」
と笑った。
私は小さく頷いた。
私にとって保健室は、「休む場所」から「安心できる場所」へ変わっていた。
それでも、学校生活のすべてが楽になったわけではなかった。
教室には、まだ入れない。
教室の前まで行くと、足が止まる。
扉の向こうから聞こえる声。
先生の声。
友達の笑い声。
そこに行きたい気持ちはある。
でも、身体が動かない。
そんな自分が嫌になることもあった。
「なんで私はできないんだろう。」
何度もそう思った。
でも、先生たちは急かさなかった。
「今日はここでいいよ。」
そう言ってくれる。
それがありがたかった。
そして、夏休み。
学校へ行かなくていい日が続いた。
最初は少しほっとした。
でも、時間が経つにつれて、別の気持ちも出てきた。
――夏休みが終わったら、どうなるんだろう。
また朝、学校へ行く。
また確認される。
また教室に入れない。
また別室へ行く。
そんなことを考えると、不安になった。
それでも、夏休みの間に先生たちのことを思い出すこともあった。
国語の先生。
養護の先生。
別室担当の先生。
私のことを気にかけてくれる先生たち。
「また先生に会いたいな。」
そう思った。
そして、夏休みが終わった。
久しぶりの学校。
門をくぐった瞬間、胸がぎゅっとなった。
「行かなきゃ。」
自分に言い聞かせる。
朝、学校へ行く。
いつものように確認を受ける。
そのあと、教室の隣の部屋へ向かった。
1限。
2限。
窓の外を見る。
久しぶりに聞く学校の音。
懐かしいような、怖いような、不思議な気持ちだった。
3限になると、渡り廊下を渡って本館へ向かう。
別室のドアを開ける。
「おかえり。」
別室担当の先生がそう言ってくれた。
その一言に、少しだけ力が抜けた。
「……ただいま。」
私は小さく笑った。
夏休み前と同じ場所。
同じ先生。
なのに、私の中には少し違う気持ちがあった。
ここに戻ってこられた。
それだけで、十分だった。
でも、夏休みが明けてから、少しずつ学校へ行くことが難しくなっていった。
1限から行こうと思っても、朝起きると身体が重い。
学校へ着いても、教室の前まで行くと入れない。
そんな日が増えていった。
1限や2限に行けた日でも、教室の隣の部屋で過ごすことが多くなった。
ときどき、英語の先生や国語の先生が来てくれた。
「授業、どうする?」
「……今日はここにいます。」
「分かった。」
教室に入れなくても、先生たちは私を置いていかなかった。
そして、養護の先生も変わらず別室へ来てくれた。
「今日も来たよ。」
その声を聞くと、少し安心した。
私はまだ、教室に戻れていなかった。
でも、先生たちとのつながりは少しずつ強くなっていた。
そして私は、この頃から少しずつ気づき始めていた。
学校に行くことそのものが怖いのではなく、
「学校へ行ったら、また何かを求められるかもしれない」
ということが怖いのかもしれない。
だからこそ、何も求めずにそばにいてくれる先生たちが、私には必要だった。
夏休みが終わったあとも、私は学校へ行った。
毎日ではなくても。
朝からではなくても。
教室に入れなくても。
それでも、
「行かないと。」
そう思っていた。
その気持ちだけは、まだ消えていなかった。
そして、この頃から私の学校生活は、少しずつ後期へ向かっていく。
登校できる日が減っていく一方で、
私はそれでも、もう一度学校へ行こうとしていた。




