season2第5章「それでも、学校へ」
*これは実際に経験した中学1年生頃の経験をもとに書いた小説です。「全10話」*
*"行きたいのに行けない。行かなきゃと思うのに、身体が動かない。それでも私は、完全に諦めることだけはできなかった。"
夏休みが終わってしばらくすると、学校へ行くことが少しずつ難しくなっていった。
朝、目を覚ます。
「今日は学校に行こう。」
そう思う。
制服を着る。
鞄を持つ。
玄関を出る。
そこまではできる日もあった。
でも、学校が近づくにつれて、だんだん足が重くなる。
それでも学校へ着く。
朝の確認を受ける。
そして、教室の隣にある部屋へ向かう。
1限、2限。
そこなら何とか過ごせる日もあった。
5限、6限も、その部屋で過ごすことが多かった。
でも、3限になると渡り廊下を渡って、本館1階の別室へ向かう。
「おはよう。」
別室担当の先生が声をかけてくれる。
「……おはようございます。」
いつものやり取り。
変わらない場所。
変わらない先生。
そのことが、少しだけ安心できた。
3限、4限、そして給食。
私は別室で過ごす。
別室担当の先生は、私が何も話さない日でも、必要以上に声をかけたりはしなかった。
でも、時々、
「今日はどう?」
と聞いてくれる。
「……普通です。」
「そっか。」
それだけ。
でも、それが嬉しかった。
無理に元気にならなくてもいい。
無理に話さなくてもいい。
そこにいていい。
そんなふうに思える時間だった。
そして、別室にはときどき国語の先生も来てくれた。
「Ami、元気?」
「……元気じゃないかも。」
以前なら、絶対に「大丈夫」と答えていたと思う。
でも、少しずつ変わっていた。
「そっか。」
先生はそれ以上、無理に聞かなかった。
ただ、少し一緒にいてくれた。
それだけでよかった。
養護の先生も、変わらず毎日のように別室へ来てくれた。
「今日も来たよ。」
その声を聞くと、私は少しだけ顔を上げる。
「先生、今日何してたんですか?」
「今日はね――」
そんな何気ない話をする。
学校の話だけじゃない。
好きなことの話。
どうでもいい話。
たまには、私の愚痴。
「もう嫌です。」
そう言ってしまう日もあった。
「何もしたくないです。」
そう弱音を吐く日もあった。
先生は、
「そっか。」
と聞いてくれた。
「今日はそういう日なんだね。」
それだけだった。
でも、その言葉に救われることがあった。
否定されない。
怒られない。
「頑張りなさい」と言われない。
ただ、今の私をそのまま受け止めてくれる。
それが嬉しかった。
そして、週に一度の保健室。
そこでは、別室よりも長く話すこともあった。
私は少しずつ、自分の気持ちを言葉にできるようになっていった。
「学校、行きたくないです。」
「うん。」
「でも、行かないとって思います。」
「うん。」
「でも、行けないです。」
先生は黙って聞いてくれる。
私は泣きそうになる。
「私、どうしたらいいんですかね。」
先生はすぐに答えを出さなかった。
ただ、そばにいてくれた。
そのことが、何より安心だった。
学校へ行けない日が増えていく。
以前なら、それだけで自分を責めていた。
「また行けなかった。」
「またできなかった。」
「なんで私は普通にできないんだろう。」
でも、先生たちと過ごすようになってから、ほんの少しだけ考え方が変わった。
行けない日があっても、
「今日は無理だったんだ。」
と思えるようになった。
そして次の日、
「明日は行ってみよう。」
と思えることもあった。
毎日ではない。
朝から行けない日もある。
それでも、少しずつ登校する回数を増やそうとした。
一日行けたら、
「今日行けた。」
それだけで自分を少しだけ認められた。
3限からでも学校へ行けたら、
「今日は来れた。」
そう思った。
教室に入れなくても、
学校へ来た。
それだけで十分だと思える日もあった。
そんなある日。
別室担当の先生が、いつものように声をかけてくれた。
「Ami、今日来れたね。」
私は少し考えてから、
「……はい。」
と答えた。
「偉いね。」
その言葉を聞いて、少しだけ笑った。
学校に来ることは、他の人にとっては当たり前なのかもしれない。
でも、私にとっては違った。
玄関を出ること。
学校まで来ること。
先生に挨拶すること。
別室まで歩くこと。
その一つ一つが、小さな挑戦だった。
だから私は、これからも少しずつでいいと思った。
一気に変わらなくてもいい。
教室に戻れなくてもいい。
明日も学校へ行けるか分からなくてもいい。
ただ、
「また行ってみよう。」
そう思える自分を、少しだけ大切にしたかった。
そして、後期に入るにつれて、私の登校できる回数はさらに減っていくことになる。
それでも、先生たちは変わらなかった。
別室担当の先生も。
国語の先生も。
養護の先生も。
私が学校へ来た日は、いつものように迎えてくれる。
そのことが、私を何度も学校へ向かわせてくれた。
私はまだ、自分の居場所がどこなのか分からなかった。
でも――
少なくとも、
「ここにいてもいい」
と思える場所は、少しずつ増えていた。




