表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/5

season2第3章「居場所なんて」

*これは実際に経験した中学1年生頃の経験をもとに書いた小説です。「全10話」*


*"人は、ずっと待っているだけじゃなくていい。何も言えない私のところまで、誰かが来てくれることもある。"


担任の先生から、基本的に別室で過ごすように言われてから、私は少しずつ教室から離れていった。


教室のある校舎へ行くことさえ、怖くなっていた。

でも、だからといって、朝からずっと別室にいるわけではなかった。


朝、学校へ行く。

すると先生に呼ばれて、何かしていないか確認される。


私は何もしていない日でも、

「大丈夫です。」

と答えるしかなかった。

確認が終わると、そのまま教室へ戻ることはできなかった。


向かうのは、教室の隣にある小さな部屋。

そこで1限と2限を過ごす。

教室のすぐ隣だから、授業中の先生の声や、クラスメイトの話し声が聞こえてくる。


その声を聞くたびに思った。


――本当は、あっちにいたい。


友達と話したい。


普通に授業を受けたい。


でも、教室の扉を開けることはできなかった。


そんな私のところに、ときどき先生が来てくれた。

英語の先生だったり、国語の先生だったり。

「Ami、どう?」

「……大丈夫です。」

短い会話をして、少しだけ一緒に過ごす。


それだけでも、教室の前で一人でいるより安心できた。


3限になると、今度は別室へ移動する。

そこには、別室を担当している先生がいた。

「おはよう。」

「……おはようございます。」

先生はいつも、普通に声をかけてくれた。

「今日はここで過ごす?」

「はい。」

「そっか。じゃあ、ゆっくりしていこう。」

何かを無理に聞かれるわけではなかった。


話したくない日は、無理に話さなくてもいい。

ただ、そこにいてくれる。


それが私にはありがたかった。


4限も別室。

そして、給食も別室。

そんな毎日だった。


別室では、一人で過ごす時間も多かった。

何をしていいのか分からない時間もあった。

ただ窓の外を眺めたり、机に座ってぼんやりしたり。

自分から誰かに話しかけることも、なかなかできなかった。


そんなある日。

別室のドアが開いた。

「Ami、いる?」

顔を上げると、そこにいたのは養護の先生だった。

私は少し驚いた。

「……はい。」

先生は私の近くまで来た。

「ここで過ごしてるんだね。」

「はい。」

「今、何してたの?」

「……何もしてないです。」

「そっか。」

先生はそう言って、私の近くに座った。

そして、いろいろなことを聞いてくれた。

「最近どう?」

「学校はどう?」

「好きなことある?」


私は最初、短く答えるだけだった。


「普通です。」

「分かんないです。」

「特にないです。」

でも先生は、そこで話を終わらせなかった。


かといって、無理に答えさせることもしなかった。

私が考えている間も、静かに待ってくれる。

「Amiはどう思う?」

「……うーん。」

そんなやり取りを何度も繰り返した。


気づけば、養護の先生は毎日のように別室へ来てくれるようになっていた。


「今日も来たよ。」

ある日、先生がそう言った。


「……先生、毎日来ますね。」

私が言うと、先生は笑った。


「だって、Amiがここにいるから。」

その言葉が、なぜか心に残った。


私は今まで、

「自分から話せないなら、誰も話しかけてくれない」

と思っていた。


でも、この先生は違った。

私が何も言わなくても、先生のほうから来てくれる。

それが少し嬉しかった。


先生と話す時間が増えるにつれて、私は少しずつ自分のことも話せるようになった。


そしてある日、キズのことを聞かれた。

私は一瞬、身体が固まった。

「……国語の先生から聞いたの。」

先生は静かに言った。

私は何も答えられなかった。

「話したくなかったら、無理に話さなくていいよ。」

その言葉に、少しだけ安心した。


私は、少しずつ自分のことを話した。

全部ではない。

上手に話せたわけでもない。

途中で黙ってしまうこともあった。


それでも先生は、私の話を最後まで聞いてくれた。


必要なときには手当てもしてくれた。


「痛くない?」

「……大丈夫です。」

「そっか。」

先生はいつも優しかった。


それから私は、週に一度、保健室で先生と話すようになった。


最初は少し緊張した。

保健室に入ると、先生がいる。

「Ami、こっちおいで。」

そう言って迎えてくれる。


その場所が、少しずつ好きになった。

保健室には、私のことを心配してくれる人がいる。

私が弱音を吐いても、嫌な顔をしない。

話せない日があっても、そばにいてくれる。


私にとって保健室は、ただの「体調が悪くなったときに行く場所」ではなくなっていった。


――ここなら大丈夫かもしれない。


そう思える場所になっていった。


そして養護の先生は、私のために担任の先生や学年主任の先生にも話をしてくれていた。

「Amiにとって、今の状況はストレスになっていると思います。」

「無理に何度も確認するのはやめてください。」


先生は、私が直接言えなかったことを代わりに伝えてくれていた。


それを知ったとき、胸が少し温かくなった。

私の味方になってくれる人がいる。

そう思えた。


夏休みまでは、部活動にもちゃんと行っていた。

部活が終わったあと、国語の先生と話すこともあった。

「今日、部活どうだった?」

「疲れました。」

「頑張ったね。」

そんな何気ない会話。

それだけでも嬉しかった。


学校の中に、少しずつ自分の居場所が増えていく。

教室ではない。


でも、教室の隣の小さな部屋がある。


そこには別室担当の先生がいる。


3限と4限には別室で過ごせる。


そして、話を聞いてくれる国語の先生がいる。


毎日のように会いに来てくれる養護の先生がいる。


保健室という、安心できる場所もできた。


私は少しずつ思うようになった。

――ここなら、いてもいいのかもしれない。


それまでの私は、

「誰にも分かってもらえない」

と思っていた。


でも、少しずつ違う考えが生まれ始めていた。

もしかしたら、

全部を説明できなくても、

誰かは私のことを分かろうとしてくれるのかもしれない。


もうすぐ夏休み。

私はまだ、教室には戻れていなかった。

それでも、この頃の私は少しだけ笑えるようになっていた。


そして、夏休みが明けたら――

私の学校生活は、また少しずつ変わっていく。

学校へ行く時間が遅くなっていくこと。

1限や2限に行けても、教室の前で立ち止まってしまうこと。


そして、保健室で過ごす時間が、もっと増えていくこと。


このときの私は、まだ知らなかった。

ただ一つだけ分かっていた。


私はもう、完全な一人ではなかった。

教室に入れなくても。

うまく話せなくても。


ここには、私を待ってくれる先生たちがいる。

そのことが、少しだけ嬉しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ