season2第3章「居場所なんて」
*これは実際に経験した中学1年生頃の経験をもとに書いた小説です。「全10話」*
*"人は、ずっと待っているだけじゃなくていい。何も言えない私のところまで、誰かが来てくれることもある。"
担任の先生から、基本的に別室で過ごすように言われてから、私は少しずつ教室から離れていった。
教室のある校舎へ行くことさえ、怖くなっていた。
でも、だからといって、朝からずっと別室にいるわけではなかった。
朝、学校へ行く。
すると先生に呼ばれて、何かしていないか確認される。
私は何もしていない日でも、
「大丈夫です。」
と答えるしかなかった。
確認が終わると、そのまま教室へ戻ることはできなかった。
向かうのは、教室の隣にある小さな部屋。
そこで1限と2限を過ごす。
教室のすぐ隣だから、授業中の先生の声や、クラスメイトの話し声が聞こえてくる。
その声を聞くたびに思った。
――本当は、あっちにいたい。
友達と話したい。
普通に授業を受けたい。
でも、教室の扉を開けることはできなかった。
そんな私のところに、ときどき先生が来てくれた。
英語の先生だったり、国語の先生だったり。
「Ami、どう?」
「……大丈夫です。」
短い会話をして、少しだけ一緒に過ごす。
それだけでも、教室の前で一人でいるより安心できた。
3限になると、今度は別室へ移動する。
そこには、別室を担当している先生がいた。
「おはよう。」
「……おはようございます。」
先生はいつも、普通に声をかけてくれた。
「今日はここで過ごす?」
「はい。」
「そっか。じゃあ、ゆっくりしていこう。」
何かを無理に聞かれるわけではなかった。
話したくない日は、無理に話さなくてもいい。
ただ、そこにいてくれる。
それが私にはありがたかった。
4限も別室。
そして、給食も別室。
そんな毎日だった。
別室では、一人で過ごす時間も多かった。
何をしていいのか分からない時間もあった。
ただ窓の外を眺めたり、机に座ってぼんやりしたり。
自分から誰かに話しかけることも、なかなかできなかった。
そんなある日。
別室のドアが開いた。
「Ami、いる?」
顔を上げると、そこにいたのは養護の先生だった。
私は少し驚いた。
「……はい。」
先生は私の近くまで来た。
「ここで過ごしてるんだね。」
「はい。」
「今、何してたの?」
「……何もしてないです。」
「そっか。」
先生はそう言って、私の近くに座った。
そして、いろいろなことを聞いてくれた。
「最近どう?」
「学校はどう?」
「好きなことある?」
私は最初、短く答えるだけだった。
「普通です。」
「分かんないです。」
「特にないです。」
でも先生は、そこで話を終わらせなかった。
かといって、無理に答えさせることもしなかった。
私が考えている間も、静かに待ってくれる。
「Amiはどう思う?」
「……うーん。」
そんなやり取りを何度も繰り返した。
気づけば、養護の先生は毎日のように別室へ来てくれるようになっていた。
「今日も来たよ。」
ある日、先生がそう言った。
「……先生、毎日来ますね。」
私が言うと、先生は笑った。
「だって、Amiがここにいるから。」
その言葉が、なぜか心に残った。
私は今まで、
「自分から話せないなら、誰も話しかけてくれない」
と思っていた。
でも、この先生は違った。
私が何も言わなくても、先生のほうから来てくれる。
それが少し嬉しかった。
先生と話す時間が増えるにつれて、私は少しずつ自分のことも話せるようになった。
そしてある日、キズのことを聞かれた。
私は一瞬、身体が固まった。
「……国語の先生から聞いたの。」
先生は静かに言った。
私は何も答えられなかった。
「話したくなかったら、無理に話さなくていいよ。」
その言葉に、少しだけ安心した。
私は、少しずつ自分のことを話した。
全部ではない。
上手に話せたわけでもない。
途中で黙ってしまうこともあった。
それでも先生は、私の話を最後まで聞いてくれた。
必要なときには手当てもしてくれた。
「痛くない?」
「……大丈夫です。」
「そっか。」
先生はいつも優しかった。
それから私は、週に一度、保健室で先生と話すようになった。
最初は少し緊張した。
保健室に入ると、先生がいる。
「Ami、こっちおいで。」
そう言って迎えてくれる。
その場所が、少しずつ好きになった。
保健室には、私のことを心配してくれる人がいる。
私が弱音を吐いても、嫌な顔をしない。
話せない日があっても、そばにいてくれる。
私にとって保健室は、ただの「体調が悪くなったときに行く場所」ではなくなっていった。
――ここなら大丈夫かもしれない。
そう思える場所になっていった。
そして養護の先生は、私のために担任の先生や学年主任の先生にも話をしてくれていた。
「Amiにとって、今の状況はストレスになっていると思います。」
「無理に何度も確認するのはやめてください。」
先生は、私が直接言えなかったことを代わりに伝えてくれていた。
それを知ったとき、胸が少し温かくなった。
私の味方になってくれる人がいる。
そう思えた。
夏休みまでは、部活動にもちゃんと行っていた。
部活が終わったあと、国語の先生と話すこともあった。
「今日、部活どうだった?」
「疲れました。」
「頑張ったね。」
そんな何気ない会話。
それだけでも嬉しかった。
学校の中に、少しずつ自分の居場所が増えていく。
教室ではない。
でも、教室の隣の小さな部屋がある。
そこには別室担当の先生がいる。
3限と4限には別室で過ごせる。
そして、話を聞いてくれる国語の先生がいる。
毎日のように会いに来てくれる養護の先生がいる。
保健室という、安心できる場所もできた。
私は少しずつ思うようになった。
――ここなら、いてもいいのかもしれない。
それまでの私は、
「誰にも分かってもらえない」
と思っていた。
でも、少しずつ違う考えが生まれ始めていた。
もしかしたら、
全部を説明できなくても、
誰かは私のことを分かろうとしてくれるのかもしれない。
もうすぐ夏休み。
私はまだ、教室には戻れていなかった。
それでも、この頃の私は少しだけ笑えるようになっていた。
そして、夏休みが明けたら――
私の学校生活は、また少しずつ変わっていく。
学校へ行く時間が遅くなっていくこと。
1限や2限に行けても、教室の前で立ち止まってしまうこと。
そして、保健室で過ごす時間が、もっと増えていくこと。
このときの私は、まだ知らなかった。
ただ一つだけ分かっていた。
私はもう、完全な一人ではなかった。
教室に入れなくても。
うまく話せなくても。
ここには、私を待ってくれる先生たちがいる。
そのことが、少しだけ嬉しかった。




