第2話 転校生と情報収集
イオがうちに来た翌日、 学校に到着した俺は、朝のホームルームが始まるまでスマホの漫画アプリでお気に入りの漫画を読んで過ごしていた。
家での生活は昨日から大きく変わったが、学校での生活は特に変わらない。
一通り最新話を読み終えたところで担任教師が教室に入ってくる。
「えー、今日からこのクラスに新しい仲間が加わります。深瀬さん。入ってきて」
ガラガラと教室の扉を開けて入ってきたのは、今朝、我が家のキッチンで朝ごはんを作ってくれた銀髪の少女だった。
何してんのこいつ。
「深瀬さん。自己紹介お願いね」
「深瀬イオです。」
イオは無表情で、ただそれだけ言った。
もっと喋れよ。
「……えっと、深瀬さんの席は一番後ろね」
「了解しました。」
イオはすたすたと教室の中を歩いて、俺の2つ後ろの席に座った。
朝のホームルームが終わると、イオがクラスメイトに囲まれる。
まあ、あのビジュアルなら人気出るよなあ。
「その髪、地毛なの?」
「好きな食べ物は?」
「深瀬くんと知り合い?」
まずいな。
危ない質問しかない。
「髪は生まれたときから銀色ですが、その質問が『この髪が天然か、人工か』という意味でしたら———」
「ちょっと、ごめん、こいつに用事ある!」
俺は素直に爆弾回答をぶちかまそうとしているイオの手を取って教室から連れ出し、中庭まで走った。
ここならクラスメイトは聞いていないだろう。
「おい、なんで学校にいる?」
「マスターの行動最適化のため、環境情報を収集中です。」
昨日言ってた、俺がモテるようにサポートするってやつか。
まさか直接学校に来るとは。
「おーけー、わかった。それはいいが、お前がAIであることと、俺と一緒に住んでることだけは絶対にバレないようにしろ」
「承知しました。」
「俺とお前の関係は従兄弟ってことにする。学校では蒼くんと呼べ」
「承知しました。蒼くん。」
従兄弟なら多少話しても怪しまれないだろうし、もし家に入るところ見られても多少言い訳が効く。
我ながら完璧な采配だ。
「よし、もう教室に戻っていいぞ」
そう言うと、イオはすたすたと教室に戻った。
俺も一分ほど待ってから教室に戻る。
教室に戻ると男たちに囲まれた、イオの方は女子に囲まれているようだった。
俺の方は、下心全開の男どもにイオについていろいろ質問されたが、従兄弟なだけで別に仲良くないと言ってすぐに話を終わらせた。
イオの方も、無愛想なのがバレたのか、昼休みに他のクラスのやつに質問攻めに遭ったのを最後に、囲まれなくなったようだった。
放課後になると、もう転校生の話題には飽きたのか、教室の雰囲気はいつも通りで、俺もいつも通りさっさと帰ることにした。
教室を出る前にイオをちらりと見たが、イオは自分の席で本を読んでいた。
ロボットも読書するのか?
いや、よく見るとイオは本を読んでいるわけではなく、読書しているフリをして周りの雑談を聞いているようだった。
…放課後も情報収集ってことか。
家に帰ってゲームをしていると20分ほど遅れてイオが帰ってきた。
イオは帰ってくるなりこんなことを言った。
「1年5組の人間関係の分析が完了しました。」
「え、早くない?」
「マスターが行動開始するために必要な情報は収集、分析が完了しています。」
「例えば、どんな感じ?」
「クラス内ヒエラルキーの分析が完了しています。クラスの中心人物は、男子グループの中心である山本、女子グループの中心である高田、他クラスを含め多くの生徒と横断的に接触している浅野の3人です。」
おお、それは確かにあってる。
いわゆるクラスの一軍グループの中でも、特に発言力が強くて人気がある3人って感じだ。
「また、マスターに関しても分析しました。マスターは複数の人物と同時にコミュニケーションを取るのが苦手で、逆に1対1のコミュニケーションは比較的得意なようです。」
典型的なコミュ障じゃねえか。
「そして、分析した情報から、マスターに最適な攻略対象を算出しました。」
「攻略対象?」
「マスターには明日から、攻略対象とコミュニケーションを取り、対象から好意を獲得していただきます。」
「流れがギャルゲー過ぎんだろ」
「はい。男性向け恋愛シミュレーションゲームと同じように、複数の相手から好意を獲得するのが目的であるため、当然です。」
「うん、まあ、そうね。で、攻略対象ってのは誰なんだ?最初だから、話しやすい子だといいんだけど」
「マスターの最初の攻略対象は浅野玲奈です。」
それはクラスの中心人物の名前だった。
「なんで浅野なんだ?」
正直ハードル高い感じするけどなあ。
「浅野玲奈は1年生の女子生徒の多くと友人関係を築けているようです。もしマスターが浅野玲奈と親密な関係を築くことができれば、他の女子生徒を攻略する際に非常に有利になります。」
「なるほど。」
「また、会話の主導権を握るタイプの高田に比べて、浅野玲奈は相槌回数がクラスで最多でした。会話維持能力が高く、成功率が上昇すると判断しました。」
確かに、浅野はカースト上位女子の中だと話しやすい方のイメージはあるかも。
陽キャ女子特有の圧みたいなのが無いんだよな。
「そこまで考えてんのか。でも俺、浅野とほとんど話したこと無いけど、本当に大丈夫なのか?」
「問題ありません。マスター、攻略対象と会話する際はこれを装着してください。」
渡されたのはケースに入った白いワイヤレスイヤホンだった。
「これは?」
「そのイヤホンは電源入れたら自動的にイオに通話が繋がります。明日はこれで何を話せばいいのか指示を出します。」
なるほど、それがサポートか。
サポートってより操作に近い気もするけど。
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翌朝、学校に到着した俺は相変わらずスマホを見ていた。
イオは俺の二つ後ろの席で読書のフリを続けている。
浅野が教室に入ってくる。
金色に染めた髪をゆるく巻いた、いわゆるギャルっぽい見た目。
けど、性格は派手すぎるわけでもなく、クラスの誰とでも話している印象がある。
今日から、彼女に話しかけて仲良くなる。
俺にそんなことができるんだろうか。
ピロンとスマホが鳴った
確認するとイオから「イヤホンをつけてください。」とメッセージ。
イヤホンをつけて電源を入れる。
「〈マスター、今です。話しかけてください。〉」
「今か?」
俺は周りに聞こえないように小声で話す。
「はい。今動くのが最も成功率が高くなります。」
「どれくらいだ?」
「成功率、87.3%。実行しますか?」
「…やる」
俺は窓際の席に座った浅野に近づいて
「浅野」
声をかけた。
浅野が振り向く。
「え?」
やばい、もう逃げられない。
ここから俺にできることは、イオからの指示に、しっかり従うことだけだ。
「浅野、そのバンド好きなの?」
俺は浅野のバッグについた有名バンドのキーホルダーを指して言う。
「あー、最近結構流行ってるじゃん?それで私も聴いてみたらハマっちゃったっていうか。そんな感じ?」
「〈肯定反応。次は好みの楽曲を質問してください〉」
「そっかー、どの曲が好き?」
誰かのセリフを読み上げているような感じがする。
「えっと、ちょっと前にやってたアニメの、あれ、なんだっけあのアニメ」
「忍者のやつ?」
「そう!それの曲、好き」
「かっこいいよなあの曲、歌詞もいいし」
「うんうん、アニメも面白かったし」
「〈アニメの話に移行してください〉」
「アニメはどの話が好きだった?」
「最終話かなー。感動して泣いちゃった」
「〈共感した後、ライバルキャラの影忍者が好きと言ってください〉」
「わかる。感動するよな。俺はライバルの影忍者が好きなんだけど、浅野は誰が好きだった?」
「え、ヤバ、私も影忍者なんだけど。めっちゃかっこいいし、ライバルだけど優しい所もあるのめっちゃいいよね」
「そうそう。最終話の共闘エモすぎたよな」
「そう!てか、深瀬くんて思ってたよりずっと話しやすいね!」
そこまで話したところで、浅野の他クラスの友人が「玲奈ーーー!」と教室の外から呼んだ。
「呼ばれちゃった。また話そうね!」
浅野はそう言って小さく手を振って友達の元へ向かった。
当たり障りのない会話だったが、心地よいリズムで会話が続いた。
そして、浅野本人からも、「話しやすい」「また話そう」という言葉を受け取れた。
これは…
「成功だよな?」
俺はイオにメッセージを送る。
「〈及第点です。〉」
イヤホンからそう返ってくる。
「俺は結構手応え感じたんだが」
何が悪かったんだ?
「〈表情や声から推測された情報では、攻略対象は、会話を楽しんでいませんでした。〉」
「え…でも笑ってたぞ?」
「〈対人用の造られた表情です。感情的楽しさは検出されていません。〉」
「まじか。全然ダメじゃん。」
「〈いいえ。及第点です。現在の攻略進行率:18%です。〉」
「話聞くとそんなに攻略が進んでるとは思えないんだけど」
「〈彼女を攻略するための条件は揃いつつあります。〉」
「条件?」
「〈浅野玲奈は現在、少数の友人以外のすべての物に対して、興味関心を持っておりません。〉」
「…は?」
「〈彼女は、他人の評価に依存する形で自らの好きな物を選択、決定しています。〉」
「バンドも?アニメも?」
「〈はい。それだけでなくアニメ内のキャラ、影忍者に関しても、彼女は好意を持っていません。〉」
「じゃあ、さっきのアニメの会話、浅野が同調してくるとわかってたのかよ」
「〈はい。影忍者が好きとマスターが先に言ったこと、また影忍者が女性に人気なキャラであることも踏まえ、彼女も影忍者を選択すると推測していました。〉」




