第1話 モテたい高校生と最強AI
「人生は選択の連続だ」と誰かが言った。
「人生は一度きり」と他の誰かが言った。
たった一回きりなのに、失敗したら後がないのに、人生には常にいくつもの選択肢が付きまとい、俺たちは常に失敗のリスクにさらされている。
人間関係なんかは、いい例だ。
築き上げた関係性が一度の失敗で崩れ去っていくのを、経験したことがある人も、少なくはないだろう。
でも、もし、絶対に失敗せずに人間関係を構築できるマシンがあったらどうだろう。友達を作るのも、恋人を作るのも絶対に失敗しないとしたら?
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俺、深瀬蒼はいつも通り一人ぼっちの帰り道。
前を歩く女子生徒の集団から、一人、また一人と人数が減っていく。
最後まで俺の前を歩いていたのは、クラスメイトの冬月真白。
冬月は、俺の幼馴染だった。
幼いころはよく二人で公園で遊んでいたし、今思えば、お互いに好きあっていた時期もあったと思う。
でもそれは、過去の話。
中学時代、俺の一言であいつを傷つけてしまったあの日から、俺たちの間の距離は少しずつ離れて、ただの同級生になって、高校に入ってからは、一度も話してない。
どうにかすべきだとはずっと思ってる。
仲直りしたい。
――あいつと一緒にいられた、あの頃に戻りたい。
周りを見渡すが、俺たちの他に周りにうちの生徒はいない。
話しかけるなら今がチャンスかもしれない。
でも、どう話しかければいいんだ?
話せたとして何を話せばいい?
正解は何だ?
①「久しぶり!元気?」
いや、向こうはもう俺のこと覚えていないかもしれないし。
覚えていたとしても、許してないかもしれない。
これは微妙だな。
②「今日返却された小テストどうだった?」
これはないな。
突然、こんな話されたらキモイだろうし。
③「あの時はごめんな」
これもないな。
いきなり謝られても困るだろ。
でもまだ怒ってたら、謝るべきだよな。
いや、俺のこと覚えてなかったらこれが一番キモいか。
あーーーーわからねえ。
また言葉を間違えたら、今度こそあいつと仲直りは無理だ。
人生では間違えたら終わり、やり直しはできないし、二度と元には戻らないのだ。
――もう、間違えたくない。
間違えるくらいなら、確実な正解がわかるまでもう少し様子を見よう。
そう決めて、今日も話しかけずにそのまま家に辿り着いた。
両親はアメリカでとある研究に没頭中、俺は事実上一人暮らしである。
ポテチを開けてゲームを起動、同時にスマホで攻略サイトを開く。
ゲームは多くのことがやり直せるけれど、人生と同じように、間違うと取り返しのつかないイベントもある。
だから、攻略サイトを見ながらプレイするのが一番楽しいのだ。
ゲームがウィィィンと音を立てて起動したところで、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
俺のお楽しみタイムを邪魔するのはどこのどいつだ。
「今開けまーす。」
玄関の扉を開けるとそこには、美少女が立っていた。
「初めまして。マスター。人型対人コミュニケーション用人工知能試験機 I/O-07と申します。今日からお世話になります。」
その美少女は、美しく光る肩まで伸びた銀髪を風に揺らしながら、そんなことを言った。
「は?」
人工知能って言ったよな?
この子、ロボットなのか?
「…」
彼女は無表情で俺の目を見続ける、一度も逸らすことなく、まばたきもしない。
その青い瞳はただじっと俺を見つめている。
その表情からは全く感情が読みとれず、その言葉が冗談かどうかわからない。
いや、感情が全く読めないことこそ、この子がロボットであるという証明なのかもしれなかった。
ロボットには感情など無いのだから。
「えっと…、何しに、ここへ?」
「今日から、私、人型対人コミュニケーション用人工知能試験機 I/O-07は、あなたの生活のサポートを致します。」
「は?」
一瞬混乱したが、その一瞬で完全に理解した。
突然人型のロボットを送り込んでくる人物に心当たりがあったからだ。
「すまん、とりあえず中入って待っててくれ。電話するから」
「了解いたしました。」
こちらから電話をかけるのはいつぶりだろうか。
電話の相手は、1コールで電話に出た。
「もしもし。その子、かわいいでしょう?」
「母さん。あんた何してくれてんだ。つーか、かわいいとかの前に明らかにおかしいだろ? あれ」
「ふふふ♪蒼の好きな美人さんでしょう?」
「会話してくれ。そして説明をしてくれ」
「パパと一緒に人型のロボットを作ったんだけどね。本当に人と生活できるのか試験したくて、送っちゃった♡」
「迷惑だ。送り返すぞ」
「あら、妹を送り返すだなんて、ひどいお兄ちゃんね」
「俺にあんな銀髪の妹はいねーよ」
「私とパパが開発したんだもん、蒼の妹よ。それに、その子特別な送り方でそっちに送ったから、普通のやり方じゃあこっちに帰れないわよ。まさか妹をホームレスにするつもりじゃないでしょうね?お兄ちゃん?」
「…」
「じゃあ、そういうことだから。よろしくね~♪」
「あ、おい!」
切られた。
とんでもない両親だな本当に。
「お電話終わりましたか。マスター。」
「あ、うん」
「改めて、これからお世話になります。マスター。人型対人コミュニケーション用人工知能試験機 I/O-07です。」
あー、言いたいことはたくさんあるが、まずは、
「名前長くない?」
「正式名称ですので。マスターが名前を付けてくだされば、今後はその名前で生活いたします。」
「アイオーセブン、アイオーセブン、…イオっていうのはどうだ?」
「承知しました。以後、私の名前はイオです。」
「で、イオ、ずっと気になってたんだが、マスターってのやめてくれないか?むずがゆい。」
「承知いたしました。では、今後はご主人様とお呼びいたします。」
「もっとやめてくれないか?」
「では、マスターとお呼びいたします。」
二択らしかった。
「わかった。人のいる場所では呼ばないと約束してくれるならマスターでいいよ」
「承知いたしました。」
「よし。それで、イオは俺のサポートをするためにこの家に来たんだっけ?」
「はい。マスターの生活をサポートするように、と命令されております。」
「なるほど。でも、俺は一人で問題なく暮らせている。手助けは必要ない」
「…すみませんマスター。この部屋を見る限り、問題ないとは思えません。」
プリントと服がそこかしらに散らばったリビングと、カップ麺のゴミが大量に入ったゴミ袋が三つ並んだ廊下がそこにはあった。
「…」
「掃除いたします。」
「…はい。お願いします。」
それから数時間でリビングは、ピカピカに輝く床の全域が見えるほど綺麗になった。
その結果、廊下のゴミ袋は6つに増えた。
「達成率、100%です。」
「本当にありがとう」
「マスター。次はご夕飯をお作りします。冷蔵庫を開けてよろしいでしょうか。」
「いや、それはさすがに…」
「承知いたしました。それでは、お食事はお作り致しません。しかし、イオはマスターのサポートをするためにここにいます。マスターのサポートができなければ、イオは存在意義を失ってしまいます。」
う、そうなのか。
「わかったよ。夕飯作ってくれ」
「承知いたしました。冷蔵庫の中を確認いたします。」
イオは冷蔵庫を開けると「食材を買ってまいります。」と言って出掛けた。
まあ、この家に食材なんてないからね。
少しして帰ってきたイオは料理を作り始めた。
トントントンとメトロノームのように完璧に規則的なリズムで野菜を刻む音が聞こえてくる。
音がちょっと気持ちいい。
母親が昔使っていたエプロンをつけて料理をするイオは、まるで新妻のようだった。
新妻にしては料理の手際が良すぎたけど。
一人分の夕飯を作り終えた彼女は、また「達成率、100%です。」と言った。
夕飯のメニューは豚肉の生姜焼き、みそ汁、白米。
当然、めちゃくちゃ美味しかった。
「うまい!ありがとう」
「感謝は不要です。マスターの満足は目的達成に含まれます。」
食べ終わった俺が皿を重ねてキッチンに持っていくと、イオがそれをかすめ取って洗い始めた。
「それくらい俺がするぞ」
「いえ、マスターは休んでいてください。」
なんだか本当に夫婦みたいな会話だと、一瞬思ってしまった。
かわいい女の子が、俺の家のキッチンで皿を洗っている。
あんな美少女が手作りの料理を振舞ってくれたのか。
嬉しい。
夢みたいだ。
完璧な手際。献身的な態度。
……もしこれが、プログラムじゃなかったら。
もし、俺自身を選んでくれた女の子だったら。
「あー、彼女欲しいーー。モテてえーーーー」
それは素直な感情だった。
「承知いたしました。マスターが複数の女性から好意を獲得できるように、マスターの学校生活をサポートいたします。」
「は?」
イオの口から発せられた言葉に、俺はまた、素っ頓狂な声を上げてしまった。
初投稿です。




