第十一話_鎮魂の焔
掃討戦は、太陽が西の地平線に沈み、冷ややかな夜気が街を包み込むまで続いた。
路地裏に潜んでいた最後の一匹が絶命し、ジノーブス北部都市を埋め尽くしていた魔獣の耳を刺すような叫び声が完全に止んだのは、月が中天に差し掛かる頃だった。
中央広場。
ドラゴンが鎮座していた場所には、いまや夥しい数の松明と、弔いの篝火が灯されている。
巨躯を囲むように、東西南北から集結した全部隊の兵士たちが整列していた。
魔獣を掃討し、都市を奪還したという達成感は、広場を埋め尽くす凄惨な光景を前にして、霧散するように消え去っていた。
暗闇の中に浮かび上がるのは、ジノーブス北部の痛ましい現実だった。
「これは、あまりにも…。」
誰かが絞り出すように呟いた。
街のあちこちから回収された民の遺体は、そのほとんどが魔獣に食い荒らされ、身元を確かめることさえ叶わないほどに傷んでいた。
かつてここで営まれていたであろう温かな生活の痕跡は、無慈悲に引き裂かれ、血と泥にまみれている。
傷ついた民たちの魂を弔うため、積み上げられた薪に次々と火が放たれていく。
激しく燃え上がる火葬の煙が、夜空へと立ち上っていった。
アマデウス領の惨状に続き、この歴史あるジノーブス北部領までもが、セルスの手によって無惨な更地へと変えられてしまった。
瓦礫の山となった街並みを見つめる兵士たちの横顔には、深い悲しみと、抑えきれない憤怒が刻まれている。
幸いなことに、後方のローデウス魔王城やアーデルミノスの居城、そしてジノーブス南部はこの大戦の最中に襲撃を受けることはなかった。
だが、その幸運がいつまで続くのかは誰にも分からない。
バルハート帝国に君臨するセルスという根源を打ち滅ぼさない限り、この世界に真の平穏が訪れることはないのだ。
「…清十郎、お前のおかげだ。ドラゴン相手に、この程度の被害で済んだのは、まさに奇跡と言っていい。」
篝火に照らされたアーデルミノスが、静かに隣の清十郎へ語りかけた。
清十郎は、鞘に収まった刀の柄を無言で見つめ、ただ短く「ボク一人の力ではありません」とだけ返す。
アーデルミノスはすぐに顔を上げ、軍司令としての峻烈な表情を取り戻した。
「我らに悲しみに暮れて休んでいる暇はない!」
彼女の視線は、漆黒の闇に沈む北――セルスが待ち構えるバルハート帝国の方向へと向けられた。
「まもなく、ローデウス城とジノーブス南部から大量の物資と増援が到着する。今夜はここで野営し、傷を癒せ。そして明日…我らは全戦力をもってバルハート帝国へ進軍し、セルスを叩く!」
凛としたアーデルミノスの激励が、静まり返った広場に響き渡る。
その声は、絶望に沈みかけていた兵士たちの心に、新たな闘志の火を灯した。
民を殺され、街を焼かれた痛みは、今やセルスを討つという強固な意志へと昇華されていた。
連合軍は、かつてないほど一丸となっていた。
魔族も、人間も、冒険者も。種族の壁を超えて結ばれたその絆は、死した民の祈りを背負い、明日という決戦の日を見据えている。
ジノーブス北部の空に、赤々と燃える鎮魂の焔。
その輝きを背に、清十郎は静かに精神を研ぎ澄ませる。
決戦は、明日。
すべての因縁に終止符を打つ戦いが、もう目の前に迫っていた。




