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第六話_開戦

ーー翌朝。


かつて連邦の誇りであり、北の要衝として栄華を極めたジノーブス北部都市は、今や見る影もなく崩壊していた。

連邦の住人を、そのおびただしい数の死体を漁っているのか、それとも異世界の魔王セルスの命令に従っているのか。

街を埋め尽くす魔獣たちは、略奪した獲物を手放そうとはせず、破壊し尽くされた街の残骸に不気味に居座り続けていた。

その静寂を、一筋の雷鳴のごとき号令が切り裂く。


「一気に片付けるぞ!」


アーデルミノスの凛烈な号令。それが、世界が反撃に転じる狼煙となった。


「お前ら!遅れをとるなよ!我ら北部魔軍が最強だと知らしめる!!」


街の西方から、重戦車のような巨躯を揺らし、ディゾルブが巨大な双斧を担いで先陣を切る。

彼の背後には、鍛え上げられた精鋭たちが、地響きを立てて続いた。


◇◇◇


「魔王ローデウス様への恩義に報いるのは今!皆のもの、いくぞ!!」


北方からは、地竜将軍クラウハルトが愛龍であるギガントバジリスクの背に跨り、声を荒らげる。

将軍の気迫に呼応するように、足下の巨獣が地を割り、魔獣の群れへと突撃を開始した。


◇◇◇


「いくぞお前ら!俺たちの国だ!ローデウスの連中に頼りきりで終わらせんじゃねぇぞ!」


南方では、ジノーブス南部の残存兵を力強く糾合し、勇者グレイが吠える。


「ああ、取り戻そう…私たちの街を!」


その横で、同じく聖剣を携えた勇者クライムが、静かな、しかし確かな殺意を瞳に宿して走り出した。


◇◇◇


「意志を持たぬ獣如きに、遅れをとる我らが軍ではない。根こそぎ蹴散らすぞ。!」


東方より全軍を指揮するのは、東部魔軍将ポトフォウル。


◇◇◇


四方から包囲するように攻め込む、この世界の最高峰にして、種族を超えた混成連合軍。

それは、歴史上かつてない規模の軍勢であった。

そして、戦場は空へと広がる。


「は、はやい!高いっ!いやぁぁぁ!!」


一騎のワイバーン騎乗兵の腰にしがみつきながら、メイルートが悲鳴に近い声を上げた。

猛烈な風圧に絶叫する彼女の隣、別の個体にはイルゼが乗っていた。


「これは、想定以上に…。」


彼も悲鳴は上げないにせよ、冷や汗を流しながら、振り落とされないよう必死に機体に身体を固定している。

もちろん、三騎目には無言で無表情のリゼアもいる。

彼女は自分で振り落とされないようにするという器用な真似はできないため、飛ぶ前にメイルートによって騎乗兵の体に雑に巻き付けられ、固定具の一部と化して飛んでいる。

そのワイバーン隊の中ほど、ひときわ巨大な個体に跨る飛竜将軍フェルディナンドは、風を切りながら一点を凝視していた。

街の中央、かつての象徴であった城の尖塔を、爪で無惨に削りながら鎮座する伝説の魔物――ドラゴン。


「…伝説を、歴史の藻屑に帰してやる!」


異世界の魔王セルス、そして彼女が放った「絶望」の軍勢に対し、人と魔の連合軍が真っ向から激突する。


◇◇◇


――戦場の一角。


「ガアアッ!」


猛然と襲いかかってきた魔獣ローグベア三体。

しかし、その巨躯が地面に触れる前に、三つの首は同時に宙を舞った。


「…。」


あまりに速く、あまりに静かな抜刀。

首を刈り取った清十郎は、返り血一つ浴びぬまま、ゆらりと刀を鞘に収める。


「な、なんだ今の…。」


「三体同時に、一瞬で…?」


背後で見ていた『黒鉄の翼竜』の面々が、改めてその圧倒的な剣技に目を丸くし、言葉を失う。

彼らにとって死闘を覚悟する相手が、清十郎にとっては「歩道の小石を退かす」程度の作業に過ぎなかった。

そんな周囲の驚愕などどこ吹く風で、清十郎は細めた瞳で中央に鎮座するドラゴンを見据える。


「さて…あとは、タイミングですね。」


彼が狙っているのは、目の前の雑兵ではない。

この混乱の極致にある戦場で、あの伝説の巨躯をいかにして「始末」するか。

清十郎は静かに笑みを深めると、再び戦場の影へとその身を躍らせた。

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