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第四話_召集

ジノーブス北部を呑み込んだ地獄の蹂躙から、わずか数時間。

命からがら逃げ延びた人々や冒険者たちが辿り着いたのは、高く堅牢な城壁に守られたローデウス城だった。

その夜、城内にある広大な練兵広場は、緊急招集された各地の冒険者たちで埋め尽くされ、松明の炎に照らされた異様な熱気と、隠しきれない戦慄に包まれていた。


「あんなのに勝てるわけないじゃない!」


広場の一角で、A級冒険者パーティー『黒鉄の翼竜』の魔法使いシャゼルが、震える声を絞り出した。

数時間前に見た、尖塔に鎮座する巨大な黄金の瞳。

その残像が、いまだに彼女の視界を焼き尽くそうとしている。


「終わりじゃ!この世の終わりじゃぁぁ!!」


老僧侶マーベルも、頭を抱えて地面に座り込んでいた。

だが、そんな二人を余所に、リクラットは先の逃亡戦でボロボロになった身体に包帯を巻き直しながら、冷めた声で応じた。


「すげぇ面子が集まってるんだ。俺たちはどうせ後衛だろ?喚いたって状況は変わらねぇよ。」


「アンタらも召集されたのかい?」


背後からかけられたハスキーな声に、リクラットが振り返る。


そこに立っていたのは、以前アマデウス領に隣接する森で共闘したB級冒険者パーティー『ライトニング』の女リーダー、ワスプだった。


「おぉ、ワスプ!久しぶりじゃのう、生きておったか!」


「俺たちはジノーブス出身だしな、戦って当然ってやつだよ。」


再会を喜ぶマーベルと、自嘲気味に笑うリクラット。

シャゼルの視線がワスプの背後に向けられた。


「にしても…アンタのとこのパーティー、そんな大所帯だったっけ?」


ワスプの後ろには、五人の男たちが控えていた。

元々のメンバーである男魔族二人。

そして、あの森で共に死線を潜り抜けた、もう一つのC級冒険者パーティー『蒼銀の牙』の人間三人が、まるで彼女に心酔しているかのように並んでいた。


「ああ、なんかあの後、懐かれちゃってね。」


ワスプが豪快に笑う。

すると、『蒼銀の牙』のリーダーの男が、震える声でシャゼルに話しかけてきた。


「あの…もしかして。ここって、あの清十郎さんもいらっしゃるんですか?」


「そうね、私もまだ会えていないけれど…清十郎様もどこかにいらっしゃるんじゃないかしら?」


シャゼルが少し頬を染めて答えた瞬間、『蒼銀の牙』の三人は一斉に後ずさり、広場から逃げ出さんばかりに怯えだした。


「安心せい。清十郎殿はお主らのような小物のことなど、これっぽっちも覚えておらんわい。」


マーベルが笑い飛ばすと、周囲からも乾いた笑いが漏れた。


◇◇◇


一方、ローデウス城から一日ほど離れた場所に位置するアーデルミノスの居城。

ここもまた、招集に応じた冒険者たちで騒然としていた。


「また会えたね!リーファちゃんにユーファちゃん!」


「どうも。」

「こんばんわ。」


獣人のシロとクロが、ここぞとばかりにキメ顔を作る。

だが、一つ目魔族の双子姉妹の反応は氷のように冷たい。

冒険者パーティー『鳳仙花』の魔法使いである二人は、軽蔑に近い視線を向けていた。

その横では、『鳳仙花』のリーダーである有角魔族のモーフが、獣人のリーダーであるリュウと固く手を握り合っていた。


「久しぶりだなリュウ!お前はアーデルミノス様や清十郎殿と交流が深いから、てっきり本陣(ローデウス城)に配属されると思っていたぞ!」


「今回は、アーデルミノスさんに副将ジャブラさんへの手紙を任されてな。それもあって今回はこっちに配属になったんだろうよ。」


リュウが苦笑いすると、姉のリーファが冷たく言い放つ。


「大量の魔獣がジノーブスを占拠してるんだから、あなたたちじゃ役不足だったんじゃない?」


「まあ、私たちもだけどね。」


妹のユーファも笑う。

モーフは表情を引き締め、夜の闇に沈む城郭の奥を睨んだ。


「にしても、冒険者組合全体に救援要請がかかるなんて…よっぽどの事態だな。」


その時、重厚な城門が開き、数人の兵を従えた巨躯が姿を現した。

蛇脚魔族特有の這うような歩法、そして鍛え抜かれた上半身。

アーデルミノス軍の副将、ジャブラである。


並み居る冒険者たちが、その圧倒的な武人の気配にざわつき、瞬時に静まり返る。

ジャブラは鋭い瞳で一同を見渡すと、腹の底に響く声で咆哮した。


「よく集まってくれた、冒険者たちよ!理由もわからず待たされるのは不安だろう。これより、わが主…魔軍司令アーデルミノス様からの書状の内容を伝える!」


ジャブラが掲げた書状。

そこに記されていたのは、単なる奪還作戦の通達ではなかった。


同刻、ローデウス城においても、宰相ジャミロクワイが眼鏡の奥の鋭い瞳で一同を射抜き、包み隠さず、この世界の喉元に突きつけられた「死」の宣告を伝え始めていた。

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