第三話_軍議
ジノーブス連邦北部壊滅。
そして、その背後に潜むセルス=バルハートの正体。
あまりに重すぎる知らせが、アーデルミノス一行のもとにも届いていた。
「…どこまで、どこまで私たちを苦しめれば気が済むんだ!」
クライムが震える拳を地面に突き立て、土を握りしめる。
大切な人々を守るために戦ってきた彼にとって、手の届かない場所で無残に散っていく人々の光景は、耐え難い屈辱だった。
「嘆いている暇はない。一度ローデウス城へ戻るぞ。次の策を練らねばならん。」
アーデルミノスが、低い声で告げた。
一行は沈痛な面持ちで城へと急ぐ。
「それにしても、セルスの移動があまりに早すぎますね。何か裏がありそうです。」
道中、清十郎が淡々と思考を口にする。
「ああ、リアを斬った時も単純に速いというだけではなかった。空間そのものを弄んでいるような…。」
アーデルミノスの言葉に、メイルートが苛立ちを隠さず吐き捨てる。
「初代勇者様も異世界から来て、圧倒的な力で世界を平定したって言うじゃない。あの女も『異世界の魔王』を自称するなら、その勇者と同等か、それ以上ってこと?冗談にしても笑えないわね。」
「異世界っていやぁ…。」
グレイが、視線だけで清十郎をやる。
「ボクはただの始末屋ですよ。」
清十郎がいつもの食えない笑顔を向けると、グレイは鼻を鳴らした。
「勇者に魔王…そして始末屋か。なんか便りねぇな。」
「安心してください。仕事でしたら勇者でも魔王でも始末しますよ。」
その肩にアーデルミノスが力強く手を置く。
「…頼りにしてるぞ、セイジュウロー。」
その真っ直ぐな言葉に、清十郎は一瞬だけ目を見開き、すぐにまた、いつもの笑顔に戻った。
◆◆◆
ローデウス城の軍議室。
そこには、各国の将軍、そして勇者が揃っていた。
ローデウス魔王軍から、魔王ローデウス、宰相ジャミロクワイ、魔軍司令アーデルミノス、北部魔軍将ディゾルブ、東部魔軍将ポトフォウル、遊撃将清十郎。
ジノーブス連邦から勇者クライム、魔法使いイルゼ、勇者グレイ、魔法使いメイルート、A級冒険者ランド。
アマデウス魔王軍から地竜将軍クラウハルト、飛竜将軍フェルディナンド。
そして、ヘパルディア王国から魔法使いリゼア。
錚々たるメンバーが一堂に会し、ジノーブ連邦北部に座するドラゴン攻略について語り合う。
数百年前に降臨した勇者によって絶滅させられたはずの、伝説上の生物。
いまの世界では空はワイバーンの独壇場だが、ドラゴンの巨躯はその数倍。
地上最大を誇るギガントバジリスクすら子供に見えるほどの威容は、もはや生物というよりは「動く要塞」であった。
「地上からの攻撃は絶望的です。」
宰相ジャミロクワイが図面を指し示し、冷静に分析する。
「ドラゴンの滞空高度まで矢や魔法を放っても、届くまでに威力が減衰し、その強靭な鱗を突破することはできん。…必然、飛竜将軍フェルディナンド殿のワイバーン部隊による空中戦が、唯一の突破口となる。」
「だが、私と部下たちだけではドラゴンを滅ぼすには決定打が足りん。」
フェルディナンドが悔しげに唇を噛む。
ドラゴンの肉体を破壊するには、純粋な物理的「重さ」か、極大の魔力が必要だった。
「なら俺等をワイバーンに乗せりゃいい。」
巨大な武器を操るディゾルブが、グレイとランドを指して提案するが、ジャミロクワイは即座に首を振った。
「却下だ。まずお前たちはワイバーンを乗りこなせんだろう?それに、ワイバーンは空を飛ぶために骨格まで軽量化された魔獣、重量級の戦士と、その巨大な武具を同時に乗せて舞うことなど不可能だ。」
次案として選ばれたのは、強力な遠距離火力を有する魔法使い、アーデルミノス、メイルート、イルゼ、そしてリゼアだった。
「任せておけ!私なら、空中からでもドラゴンの急所を貫ける。」
アーデルミノスが得意げに名乗りを上げる。
「アーデルミノス殿。貴方の魔力はあまりに強大で鋭すぎる。繊細なワイバーンが怯え、戦闘どころではなくなってしまう。」
フェルディナンドが、残念そうに呟く。
「…不服だ。」
自らの力があだとなり、空中への道を断たれたアーデルミノスが、少しだけ口を尖らせて呟いた。
結局、空中部隊はフェルディナンドと部下たち、そしてメイルート、リゼアの二名に決定した。
「この布陣でも、ドラゴンを倒すのは困難だろう。ならば、この作戦の肝は『時間稼ぎ』だ。空中部隊がドラゴンの気を引いている間に、魔軍司令の指揮の下、地上部隊が街を埋め尽くす他の魔獣を掃討。…盤面が整ったタイミングで、全戦力にてドラゴンを包囲し、一斉攻撃。」
ジャミロクワイが淡々と図面に駒を置いていく。
「万が一にもドラゴンが逃げ出さぬよう、ローデウス様には街全体に結界を張っていただく。我らに敗北は許されん。」
宰相の言葉に、全員の顔に緊張が走った。
ジノーブスの悲劇を繰り返さぬよう、全区域に緊急令が発令される。
さらに、各地の冒険者組合との協力体制も取り付けられ、ローデウス領はかつてない軍事動員を開始した。
「作戦決行は、明日。」
ジャミロクワイの締めくくりに、魔王ローデウスが重々しく頷いた。




