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第十一話_語られる真実

謁見の間は、凄惨な静寂に包まれていた。

先ほどまで超級魔法がうねり、一撃一撃が必殺の重みを持つ衝撃がぶつかり合っていた爆音の渦が、嘘のように引いていた。

立ち込める粉塵と魔力の残滓が、砕け散った白亜の柱や壁の瓦礫を不気味に覆い隠している。

将軍たちは、もはや言葉を発する余力さえなかった。

地竜将軍クラウハルト、飛竜将軍フェルディナンド、そして北部魔軍将ディゾルブ。

一国の軍事の中核を担う彼らが、各々、己の武器を支えに床に膝を屈し、肩で激しく息を乱している。

その瞳には、主君を、その兄を救い出すために放たねばならなかった全力の攻撃への、苦渋と絶望が色濃く滲んでいた。

だが、彼らの渾身の攻撃をもってしても、この強大な魔王を完全に打ち滅ぼすまでには至らなかった。


地獄ヘルバインドに縛り付けられたままのアマデウスは、なおもその瞳に呪わしい漆黒の光を宿していた。

全身の鎧は粉砕され、強靭な肉体には無数の亀裂が刻まれ、そこからどす黒い血が溢れ出している。

だが、彼は千切れそうな鎖を、骨が軋む音さえ厭わずに力任せに引き絞り続けている。


「…不届き者に、死を。」


アマデウスの口から漏れるのは、ただその一言のみであった。

抑揚のない、温度を欠いた声。

それは、彼の高潔な精神を『従属の首輪』が強制的に塗り替えている証。

その声を聞くたび、膝をつく将軍たちの心は切り裂かれるように痛んだ。

全力を出し切り、魔力枯渇寸前の彼らには、もはや次の一撃を放つ力は残されていない。


その時、沈黙を切り裂いて一人の男が歩み出た。

一歩、また一歩と兄の元へ近づく魔王ローデウス。

彼の纏う紫の魔力が、空間に充満していたアマデウスの漆黒の残滓を霧散させていく。


「…兄よ、遅くなってすまなかった。」


ローデウスは短く呟くと、右腕に全魔力を集結させた。

収束された魔力は、静かに、だが確実に「終わり」を告げる輝きを放つ。


そして。

ローデウスの拳が、アマデウスの腹部を深く、真っ向から貫いた。


アマデウスの瞳から、濁った漆黒の光が瞬時に消失する。

同時に地獄の鎖が霧散し、背後の壁が音を立てて崩れ落ちる中、ローデウスは力なく崩れる兄の体をその左腕でしっかりと抱きとめた。


「兄よ…。」


その悲痛な呼びかけに応じるかのように、アマデウスの首に嵌められていた「従属の首輪」に、微細な亀裂が走る。

怪しく光っていた不気味な紫の輝きがパチりと弾けて消え去ると、呪縛の象徴は自重に耐えかねたように、重々しい音を立てて冷たい床に転げ落ちた。


「…ローデウス、か。」


アマデウスの瞳に、かつての理知的な輝きが戻っていた。

しかし、その声はひどく掠れ、吐き出す息には、すでに死の気配が混じっている。


「…よくぞ我を打ち倒してくれた。」


アマデウスが口を開くたび、鮮血が溢れ出す。


「従属の呪縛が解けた今、…最後に一つだけ伝えねばならぬ。」


ローデウスに抱えられたまま、彼は自らの命の炎が消えゆくのを悟り、途切れ途切れに、だが確かな意思を持って言葉を紡いだ。


「セルス=バルハート…。奴は帝国の第一王女などではない。」


「…何だと?」


ローデウスの眉が動く。膝を屈していた将軍たちも、息を呑んで主君の言葉を待った。


「…奴は、帝国が召喚した『勇者』だ。」


アマデウスの口から語られたのは、この世界の根幹を揺るがす事実だった。

セルス=バルハートは、あの初代勇者と同様に、禁忌の法によって呼び出された異世界の住人であること。

そして、彼女の望みは「混沌」。

そこに政治的な野心も、高尚な目的も、道理すらも存在しない。

ただ思うがままに世界を揺るがし、壊れていく様を楽しんでいるだけの存在。


アマデウスの手が、震えながらローデウスの腕を、最期の力を振り絞って掴んだ。


「国同士で争っている場合ではない…。奴を、この世界から排除してくれ。…そうでなくては世界に、未来は…ない。」


それが、偉大なる魔王アマデウスの最期の言葉だった。

繋がれた手に込められていた力がふっと抜け、握られていたローデウスの手が虚しく離れる。

アマデウスの瞼がゆっくりと閉じられ、一国の王としての、そして一人の兄としての波乱に満ちた生涯が幕を閉じた。


「…アマデウス様ぁっ!!」


クラウハルトが慟哭し、フェルディナンドが天を仰いで涙を流す。

ローデウスは無言のまま、冷たくなっていく兄の亡骸を抱きしめ、深く頭を垂れた。

彼の纏う紫の魔力が、兄への鎮魂の灯火のように、静かに、そして悲しく揺らめいていた。


しかし。

その鎮魂の静寂を、不気味で乾いた音が容赦なく踏みにじった。


パチ、パチ、パチ…。


戦火によって廃墟と化した謁見の間。

かつて王が座していた砕けかけた玉座から、何者かがこの凄惨な幕切れを称えるように、乾いた拍手を送っていた。

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