閑話_南の勇者の扱い
ビドラ別邸の一室。
ジノーブス連邦・南の勇者一行に割り当てられた部屋には、独特の気怠い空気が流れていた。
「――お前ら、俺がいない間に随分と楽しんでたみてぇじゃねぇか?」
ジャミロクワイとの密談を終え、部屋に戻るなりグレイは不満げにソファへ身を投げ出す。
「どこが楽しいっていうのよ!変な格好させられて、パーティーの間中ジロジロ見られて…屈辱以外の何物でもなかったわよ!」
メイルートは、装飾過多なフリルを苛立たしげに振り払いながら否定する。
だが、グレイは鼻を鳴らした。
「いや、メイルート。お前、鏡見てから言えよ。さっきからすげぇニヤニヤしてんじゃん。」
「なっ…してないわよ!変な言いがかりはやめてよね!」
「俺なんかパーティーにも出られず、ようやくありついた飯も冷めてたんだぜ? 勇者に対する扱いが雑すぎんだろ。」
「あんた、勇者のくせに言うことがちっちゃいのよ!私のドレス姿見れたんだから、逆にお礼くらい言ったらどうなのよ?」
二人の罵り合いをBGMに、ガルーダは無言で愛用の武器を磨き、その鋭利な刃に月光を反射させている。
そして、リゼアはいつも通り、どこか遠くの世界を見つめるように視線を固定したまま、微動だにしない。
「…まぁ、愚痴はこの辺にして。これからの俺らの動きを考えねぇとな。」
グレイが表情を消し、落ち着きを取り戻す。
「一番は光の勇者だ。クライムの野郎はいけすかねぇ奴だが、同じジノーブスの勇者として、流石に正面からやり合うわけにはいかねぇ。」
「セルスっていう女に騙されてるだけなら、一発引っ叩いて正気に戻してやればいいのよ!」
メイルートが拳を振り回す。
すると、それまで沈黙していたガルーダがボソッと呟いた。
「…どさくさに紛れて、殺っちゃうのもアリ。」
「あのなぁ…物騒なこと言うんじゃねぇよ!」
呆れるグレイだったが、顎に手を当てて考え直す。
「まぁ、アイツの理想は魔族と人の共存だろ?だったら、魔王軍側で将軍やってるあのヒョロいの(清十郎)や、今の俺たちの状況がまさにそれを体現してる。そこに、あのクライムを説得する糸口があるかもしれねぇな。」
魔王軍と同盟を組む勇者と、一人の人間を右腕に据える魔軍司令。
クライムの理想が本物なら、否定はできないはずだ。
「それはそうと…。」
グレイがふと、リゼアの方へと視線を移した。
「そのリゼアって女…何でも言うこと聞くんだっけか?」
「え、ええ。まぁそうだけど…急に何よ。」
メイルートが不審げに眉を寄せる。
グレイは口角を吊り上げ、ニヤリと卑俗な笑みを浮かべた。
「だったら、ちょっと俺に貸してくれねぇか? …いいこと思いついたんだよ。」
沈黙が流れた。
次の瞬間、メイルートの顔が沸騰したように真っ赤に染まった。
「――この、カス!ゴミ!人間のクズッ!!」
「ちょっ、痛てっ!待て、違うんだメイルート!戦略的な話で――」
「死ねえええええ!!」
バタンッ!! と勢いよく扉が閉まる。
廊下には、リゼアへの不純な動機(とメイルートが解釈した)のせいで部屋を追い出された、ジノーブス最強の一角であるはずの南の勇者の、虚しい悲鳴だけが響いていた。




