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第七話_計画の全貌

煌びやかなシャンデリアの光が、ビドラ別邸の広間を不自然なほど明るく照らし出していた。

祝宴の喧騒から隔絶された宰相ジャミロクワイの私室。

そこには、先ほどまでの華やかなドレスやタキシードを纏いながらも、その瞳に抜き身の刀のような鋭さを宿した者たちが集まっていた。

ジャミロクワイの多腕のうち一本が、地図の上に置かれる。

彼の口から語られたのは、魔王ローデウスが描き、実行に移そうとしている壮大な計画の全容だった。


「飛竜将軍の亡命…。それを匿うことが、アマデウス領を刺激し、開戦の決定打になりかねぬ危うさは、王も百も承知だ。だが、王はあえてその火中の栗を拾われた。同胞の命を切り捨てることで成り立つ平穏など、ローデウス様は望んでおられぬからな。」


ジャミロクワイの声は低く、重い。

この晩餐会自体、単なる同盟の祝賀会ではなかった。

ジノーブスの有力者たちをこの場に拘束し、美味い酒と食事、そして「盤石な同盟」という幻想で酔わせる。

その隙に、アマデウス領で起きている内乱や飛竜将軍の情報を徹底的に遮断し、ジノーブス国内の世論をコントロールするための巨大な情報統制の罠だったのだ。


「光の勇者クライム…。奴は民衆から絶大な支持を得ているが、その光が強ければ強いほど、影もまた濃くなる。奴の独走を妬む者、その影響力が権利を脅かすことを恐れる者。そうした連中を巧みに使い、アマデウスの不都合な真実をジノーブスの耳に入らぬよう操作するのが、ワシに課せられた任務だ。」


「…で、俺たちもその片棒を担げってか?」


冷え切った残り物の肉を皿に乗せ、パーティーの終盤にようやく合流した勇者グレイが、口いっぱいに頬張りながら言った。

場違いなほどリラックスしたその態度に、ジャミロクワイは複数の腕を組み、冷徹な視線を向ける。


「ジノーブス連邦の北と南、お前たちは以前クライムらと敵対していた仲だと聞いている。今は、その時の遺恨はないという理解で良いのか?」


「…なんでもお見通しってわけかい。」


グレイが苦笑いし、隣にいたメイルートが不機嫌そうに髪を弄る。


「あの『自分こそが正義』っていう、周りを見ない独善的な考え方が昔から気に食わないのよね。」


「とはいえ、俺たちが何か特別な工作ができるわけじゃねぇぞ?」


グレイの問いに対し、ジャミロクワイは静かに、しかし断定的に告げた。


「お前たちはただ、我がローデウス側にいてくれるだけで十分だ。もう一つの勇者パーティーが、魔王軍と同盟を結び、ここに留まっている。その事実があるだけで、民にはこの同盟に対する絶大な安心感を与える。クライムの正義が唯一無二ではないという、生きた証明になるのだ。」


「…そこまで考えて。」


アーデルミノスは戦慄した。

魔王と宰相が描く戦略は、単なる武力のぶつかり合いではない。

人心を掌握し、政治の力で敵を孤立させる、血の流れない戦争でもあった。


「とはいえ、お前たちがこの場にいるのは、ワシにとっても予想外だったがな。」


それまで静かに話を聞いていた清十郎が、いつも通りの柔和な笑顔を崩ずに口を開く。


「ジャミロクワイさん、その情報統制…持っていつまでなのでしょうか?」


単刀直入な清十郎の問いに、ジャミロクワイの眉が僅かに動く。


「…アマデウス側が性急に動かなければ六日。いや、最悪の見積もりで五日は持つはずだ。」


「その後は?」


清十郎が続ける。

その静かな問いが、部屋の空気を極限まで引き締めた。


「一斉攻撃を仕掛ける。ローデウス全軍をもって、アマデウス領へとな。」


その言葉に、その場の全員が息を呑んだ。

守勢に回るのではなく、先手を打って攻勢に出る。

それは、魔王領の命運を賭けた大博打だった。


「ギリギリじゃない…。」


メイルートが呟く。


「ああ、だが間に合う。」


アーデルミノスが小さく、確信に満ちた笑みを浮かべる。


「アーデルミノス、何の話だ?」


ジャミロクワイの問いに、彼女は懐から一通の封書を取り出し、宰相の前に差し出した。


「一斉攻撃の懸念は、西の海竜将軍…リアの動向。横からの奇襲に備えるため、兵を分散せねばならなかった。…そうでしょう?」


ジャミロクワイが封書を手に取り、中身に目を通す。

そこには、海竜将軍リアからの、直筆の署名が記されていた。


「これは…海竜将軍からの密書か。」


「はい、海竜将軍リアは、我々との交渉に応じる意思があります。リアを取り込めれば、我々は背後を気にせず全力を前方に叩き込めます。」


ジャミロクワイはアーデルミノスの手腕に驚きながらも、表情は崩さない。


「…勝算は?」


アーデルミノスは、清十郎の隣に立ち、その凛とした美貌に覚悟の色を宿して答える。


「命に変えても。我ら魔王軍に、敗北の二文字はありません。」


静かな決意が、夜の帳を切り裂くように響いた。

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